18.五階 〜麒麟のリドル〜
■地下迷宮 五階 ナイラ 治癒術師Lv4 商人Lv2
ヒントに目がないのだ
彼女はびしっと右の人差し指で
麒麟を指さすと念を押した
「本当ですか!
それそれ私
忘れませんからね
覚えててくださいよ麒麟様っ」
「ほほ
いい約束事だで」
ナイラの目からはよく分からなかったが
どうやら麒麟は笑っているらしかった
それからしばらくの間
二人はたわいもない話で
時間を潰してから
ようやく本題に入った
「この階の転送陣を開放するための
謎を聞きたいとのことだっただ」
「はい
お願いします」
五階から六階に行くには
フロア中央にある転送陣を使う
それを守っているのが麒麟だ
麒麟が出す謎に答えるために
東西南北にいる四神から
ヒントをもらうのが五階の正しい攻略方法
攻略地図には答えもヒントも
何なら謎でさえ
そのものは載っていない
自分の足で稼げということか
噂では五階の謎は挑戦者に合わせて
その内容が変わるらしいが
そのせいかもしれない
麒麟はすぐには語らずに
ナイラをじっと見つめた
「生まれも育ちも
温暖な
過ごし易い国じゃんね
海と山とに囲まれた
古い都
風光明媚な観光地」
「…………! 麒麟様、それ」
「おぬしの生まれを読んでみた
間違ってはないだだ」
「すごいすごい! 何か占いみたい!
かっこいい〜」
「ほっほほ
もっと褒めましょ」
鼻先で床を撫でる仕草が
どうやら喜んでいるようで
それへナイラはにべもなく首を横に振った
「んーん
それはしない」
「シビアな娘でしょ」
普段は神として崇められている麒麟にとっては
それは珍しい対応で思わず笑みがこぼれる
麒麟は大きな漆塗りの椀の中にある
淡い茶色の飲み物を長い舌で絡め取りながら
またほっほと笑った
「それで?
謎と私の出身地と何か関係が?」
「ああ
マスターに釘を刺されてるだ
探索者が確実に回答できない謎は出すなと」
「ます……たぁ?」
「知らないだ? 最下層にいる
──おぬしらの言葉でいうところの
『ラスボス』じゃんね」
そもそもこの地下迷宮は
ラスボスしか持っていない伝説の財宝を
隠して保管するために造営されたものだというのが
探索者の間でまことしやかに語られる噂話だ
高レベルの探索者はみんな狙っている宝物
ナイラだって運良く十階まで到達したら
せめて見せてもらえないかと
かけあうつもりがある
「ラスボスなら話だけは知ってます
何でも戦闘に勝つと財宝を譲ってくれるとか」
「ふむ
それは願望だだ
あの方はまだ一度も
誰かに負けたことはないだよ
それに」
「あ……そうなんですね……
それに?」
「この迷宮をマスターが作ったのは
噂通りの理由じゃないだ」
「えー……じゃあ宝物はないんですか?」
「さあどうでしょ」
「やだ気になる」
──勝ち負けじゃなくていいから
ただお話ししてみたい
不意にわいた感情はそれこそ願望
ラスボスと仲良くしたいなんて
しかもこんな風にお茶を出来たら
最高だなんて
「如何した?」
「……あ
すみません何でもないです
えっと
どこまで話しましたっけ」
「謎を与えようとしていただ
準備しましょ」
「あっとメモメモ──はい、お願いします」
「『二つの暗闇と二つの光明
一つ足の影が描いた円を
三つの尾がたどる
すべてのものに平等に与えられながら
残酷なほど明らかな差が生じる
それは何か』」
「…………」
ナイラは謎を聞き終わると
やや小ぶりな口を小さくぽかんと開いた
「どうしただ唖然として」
「ええと──方位神様方から
ヒントをもらってきてからしか
チャレンジ出来ないってお話でしたよね?」
「そうなるね
何──まさかおぬし
もう挑戦したいだ」
「だってそんな解りやすいの!」
「解り易い言うな!
確実に解らないであろうものを
省いた結果だで
むしろ感謝してほしいくらいじゃんね」
「ええ〜憧れのリドル階の謎が
こんなんとは」
「こんなん言うな!
更に酷くなっただ!」
ナイラは始めこそそんな風に
難色を示していたが
考えてみれば確かに
既に知識として得ているものを
答えに置いてくれるのは
麒麟の気遣いで間違いない
渋々しているのは申し訳ないかと思い直して
ぺこりと頭を下げた
「文句言って申し訳ありません
麒麟様のお気遣い
ありがたく受け取ります
──方位神様はどなたから訪うべきか
順番というか序列というか
そういうのありますか?」
「おぬし反省できるところは
可愛らしいじゃんね
──いや? 誰が偉いとかは聞かん話だで
この爺もあの四神と位としては同じなんよ
ただ
答えに目星がついているのであれば
自ずと順序も分かるはずでしょ
東は青龍。その次の南は朱雀だだ」
「あー……なるほど?
試してみますね」
ナイラはその後
安眠ポイントに予知夢テントを張って
荷物をすべて設置すると
ナップザックに
水筒と筆記具だけ入れて
背に負った
後の所持品といえば光石の杖くらいなものだ
ともあれ襲ってくるモンスターもいないことだし
めいっぱい楽しもう
そう思った
待ちに待ったリドル階の探索が始まる
* * *
麒麟がいたのは五階の中央だ
青龍が東にいるのなら
真っ直ぐそちらへ進めば良い
ナイラは楽観的だった
が
それが甘い考えだったことを
すぐに思い知ることになる
石の光が青龍に届くころ
彼女は突風に飛ばされて
麒麟のいた場所から
そう離れていないところまで
強制移動させられていた




