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地下迷宮ひとり歩き  作者: 夜朝


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18/60

17.五階 〜憧れのリドル階には神様がいる〜

■地下迷宮 五階 ナイラ 治癒術師Lv4 商人Lv2


悪夢を見た夜も見なかった朝も

起きる前までのことを覚えている


懐中時計の表示は午前七時


ナイラは寝ている間に

致命的な失敗はしなかったのだなと

胸を撫でおろし

朝食をとってからテントを畳んだ


五階は部屋がない

部屋というか内側を仕切る壁がない


柱が等間隔に並んで

磨き抜かれた天井を支えている

艶々と光る黒い床は天井と同じ素材のもの

表面に浮かぶマーブル模様が薄ぼんやりと光っている


光っていることを確かめたくて明かりを消したが

さすがにこれだけでは歩くのに足りないと

ナイラは光石を点け直した


前後左右

今は何も見えないが

少し進めば黄色の光を纏った大きな鹿が姿を現す


顔は東洋の龍に似て尻尾は牛のよう

光と同じ黄色の毛皮

あれを求めて戦闘を仕掛けた

恐れ知らずのパーティもいたらしいが

まがりなりにも相手は神だ

倒せた者はいないと言う


守護神・麒麟(きりん)


五階の主にして

この地下迷宮の中ボス


一説によると五階を支えることによって

この迷宮の一階から十階までを

管理しているラスボスを

サポートしているのだという


それは神の名に相応しいわざ


よくそんな守り手を

亡きものにしようと考えたものだ


ナイラは肩をすくめて

荷物を背負い直した


今回設営した場所は

四階に続く階段からほど近く

フロアの南東隅にある安眠(セーブ)ポイントだ


地図によると麒麟がいるフロア中央付近にも

ここよりは若干狭いながら

同じようなポイントがあるらしい

そこを拠点にするつもりでテントを運んでいる


「なんで転送ペグって

 地上では売ってないのかしら

 あったら絶対買うのに……」


それは二本ずつセットになっている

銀色の手のひらサイズの杭だ

片方をテントに仕込んでおいたら

もう片方を持っているところに

そのテントを転送することができる


二階で話題になった時

ヤムから買っておけば良かったと

後悔しても始まらない


迷宮内の商人は必ず持っていると言うから

油断していたのだ

まさかこんなに商人に会わないとは

思わなかったナイラである


それでもヤムが

重たい荷物を背負っての五本ダッシュなど

鍛えてくれたおかげで

何とかなっている


師匠の教えは確かに役に立っているのだ


ナイラは黄色の光が

自分の爪先を照らす距離までくると

麒麟に声をかけた


「麒麟様

 ごきげんよう

 あなた様の貴重なお時間を

 少々いただけないでしょうか」


「ほっほほ

 これはまた

 丁寧な挨拶じゃんね

 爺(じぃ)はおぬしの

 話を聞きたい気になっただよ」


密かに神様の威厳を期待していたナイラは

その言葉を聞いて内心で肩を落としまくった


(なんぞこれ)


でも気さくなのは悪いことじゃない

彼女は気を取り直して礼を言うと

麒麟の前に立った


「話と言っても特別なことではなくて

 私にも謎(リドル)を与えて

 いただきたいなと思いまして」


「なにおぬし探索者なの

 急ぎだだ?」


「何だと思ってたんですか

 いえ麒麟様のお話に

 付き合うくらいの余裕はありますよ」


「ほほっ

 分かってくれるだ

 爺は退屈だでね

 まあ寛ぎましょ」


長丁場の予感

お言葉に甘えて

ナイラは六面体をふくらませた


それに腰かけて水筒を傾ける


麒麟も床に座り込んだ


でもまだ大きく感じる

ナイラは小首を傾げて聞いた


「床の上に直(じか)に座って痛くないですか?

 寝袋や毛布ならありますよ」


使いますか?


問いかける人間の娘へ

神は首を振って答える


「腹側は頑丈な鱗で覆われてるだ

 けどありがとう

 それにしても

 珍しい女子(おなご)だだ

 この爺相手に

 世間話だけでも驚くことだけんど

 深い気遣いにも痛み入るだ」


礼をと言いながら麒麟は逆に

顎を上に向けて喉をナイラに見せた

ぱっと見は威張っているように見えるのだが

ナイラは突っ込む前に思い直す


あのがら空きの喉は

もしや麒麟の弱点ではないだろうか

それを惜しげもなくさらしてくるなら

確かに礼なのかもしれない

ナイラはお辞儀をして応えた


「麒麟様

 これまでのお話しからして

 おしゃべり好きそうなイメージなのに

 あんまり付き合ってくれるかた

 いらっしゃらなかったんですか」


「左様左様

 だから爺は退屈だっただ」


「へええ

 そしたら何か質問しちゃおうかな

 そうたとえば──

 麒麟様をはじめとする方位神(ほういしん)様方は

 普段何を召し上がっているんですか?」


方位神は四神という

五階の東西南北に配された

麒麟の仲間だ


「ふむ

 それぞれ好みがあるだよ

 ちなみにこの爺は何だと思う?」


「えええ何だろう

 ──霞とか?」


「ほっほっ仙人とは違うだ」


「え

 仙人て本当に霞食べるんですか」


「爺の友に仙人がいるが

 もう二百年は霞だけで過ごしてるだよ」


「うえ〜

 うれしくない〜」


小柄でありながら

割と食べることが好きなナイラである

眉間に皺を寄せて唇を尖らせた


「爺は旨味のあるものなら

 何でも食べるだ

 最近では特に鰹節に嵌ってるじゃんね」


「はあ

 かつおぶし……どんなのですか?」


「今度な

 地上に戻ったら漁師に聞いてみましょ

 鰹という魚を燻製にしているらしい」


「ふうん……なんか美味しそうですね

 もし良いのが手に入ったら持ってきます」


「気遣いじゃんね

 その折には謎の答えの手がかりをやりましょ」


ナイラはその言葉を聞いた途端

見開いた両目をギラリと輝かせた


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― 新着の感想 ―
五階の描写がとても雰囲気あって、麒麟との会話も自然で読みやすかったです。 神様なのに温かい性格なのが意外で、ナイラとの掛け合いも面白かったです。 最後の青龍の風で吹き戻される場面は驚きでしたが、五階の…
[良い点] 五階の守護神にして、この地下迷宮の中ボス、麒麟…。スフィンクスのように苦戦必至と思いましたが、やさしく気遣いがあり、聞き上手のナイラが来て、麒麟も嬉しそうですね。 そして、ラスボスの情報…
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