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地下迷宮ひとり歩き  作者: 夜朝


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20/40

19.七階 〜身に覚えのない恨みの持ち主は容赦もなく襲い来る〜

下層にくると探索者の目標は

十階に固定されるのだろうか


これまでは十階へ行ってみたら良いと

提案されることが多かったが

今は十階へ行くのを前提に話されている


ナイラは考えた


本当に行けるだろうか


もちろん自分だって

行けるなら

それに越したことはない


行ってみたい


行きたい


ナイラは鍵をしまって尋ねた


「十階の前に

 まずはこの次の階へ行かないと

 地図だとここからちょっと

 離れてますよね転送陣」


「八階へおいでですか

 それならラミアのところですね

 確かに少し歩くことになります」


「ラミア?」


 * * *


聞けば上半身は美しい女性で

多様な装飾品で着飾っており

下半身が蛇なのだという


やきもち焼きで

自分より美しい女を見ると

胴から真っ二つにしようと

大きな剣で襲いかかってくる


そのため

女性はアクセサリーの

一切を外して対面するのが

正解だとフクロウは言った


他のパーティが

件の神獣──ラミアと戦闘を始めたところだ


ナイラの目には

彼らが青緑色の薄いオーラに

包まれているのが見て取れた


あれは予知夢テントの効果が

効いていることを表すものだ


見ていても安心だと

見物を決め込む


すると恐ろしいことに

初手から石化が使われて

前衛三人とも

武器を構えた態勢で

石像と化した


しかもラミアは行動が素早い

大抵は何かしら動いたら

その次は相手の行動を受けるまでが

ワンセットだ


しかしラミアは石化の後で

後衛の探索者の反撃を待たずに

弓矢で離れた敵へ射かけた


防石スプレーを全身に振りながら

後衛の探索者たちの動きを見守るナイラ


まだ距離はあるというのに

神獣の女性が

こちらを睨みつけてきた


柱の影に隠れて

見つからないように祈る


とうに見つかっていたのかもしれないが

さすがに戦闘が優先なのだろう

神獣は残っている後衛に注意を向けた


先ほどの矢は

魔術士らしい一人の腕に刺さっている


魔術士が矢を抜いて床に放ると

血まみれの矢が一瞬

どす黒く染まって見えた


三人とも石化を解除する薬を使って

前衛を戦線復帰させる


金属鎧を着込んだ大小様々な体格の戦士たちが

剣や斧などそれぞれの得物を握りしめて

神獣へ向かっていく


蛇の牙を生やした女性は

口を大きく開いて彼らを威嚇した後

長く伸びた爪を横なぎに払う


すると爪の軌跡を描いて

真紅の炎が宙を焼いた


重い塊が石畳に落ちる音の後で

肉が焦げた香りが

ナイラのいる場所まで届く


まさか

金属鎧を溶かして落としたのか


すさまじい威力の炎に

こちらは寒気が止まらない


神獣はその後も

毒の唾液を目潰しに吹き付けたり

頸動脈付近を噛みちぎったり

尻尾で胴体を締め上げたりして

探索者を撃退した


彼らを包んでいたオーラが

厚みを増して強い白光に変わる


光が消えると一行の姿も

跡形もなく消えていた


彼らは今頃はテントの中で

悪夢から目覚めて

飛び起きていることだろう


ナイラはそっと神獣が護るエリアに近付いた

目立った傷はなさそうだが

念の為に聞いてみる


「治癒は入り用ですか」


「不要じゃ

 それを妾に聞くか

 そなた何者じゃ」


「流しの治癒術師です

 戦闘はしません」


大事なことなので

先に念を押しておいた


こんな人に襲いかかられたら

二ターンで死んでしまう


ちなみに一ターン目は石化の不発だ


「戦闘したがらない治癒術師の女?

 ……そなた、もしや『ナイラ』か」


「あれ

 ご存じなんですか?

 私のこと」


「最近よく聞くようになったわ

 ……しかしそうであれば

 見過ごすわけにはいかんの

 構えるが良い

 武器でも道具でも」


「いやいや申し上げましたよ私!

 闘いたくないんです……って

 やってる場合ですか!

 ラミア様ケガしてる

 治させていただけませんか?」


「不要じゃと言うたぞ

 癒しの湯で湯治でもするとしよう

 ──そなたを殺してからのう!」


「わっ……」


予想通り一撃目は石化の視線


自分の表面を雲母のように薄い石が覆う


手足をばたつかせて

その薄石を払い落とした後

ナイラはトヤのことを思い出し

防石スプレーを構えた


「この中身

 私にはアロマですけど

 貴女たちには

 涙と鼻水が止まらなくなる

 そういうものが入ってます」


「ふん

 それでいかがする?」


「お願いするだけです

 攻撃を止めてください」


「それで本当に

 止めてくれるとでも思うておるなら

 そなたは相当

 能天気なものよの

 ようここまで来れたわ

 ──涙と鼻水がどれほどのものよ!」


アレルギーのようなものだ


重度であれば寝込むこともある


おそらく経験がないのだろう


ナイラは問答無用で

スプレーを吹き付けるべきだった


それをしなかった彼女は

炎の爪で右手を抉られ

スプレーを叩き落とされた


「……っ」


火傷の跡に血が滲んでいる


ひりひりするのと

じわじわするのとで

耐えられなくはないが

痛みに顔をしかめる


それを楽しそうに見やって

大きな剣の柄を握りしめて

ずるりと這い寄る神獣は

切先をナイラの心臓へ向けると

憎々しげに言い放った


「さぞや怨みであろう

 化けて出ても構わぬぞ

 返り討ちにしてくれるわ」


「……?

 あの

 私何かラミア様に

 特別失礼なことでもしましたか?

 初めて会ったとは思えないほど

 貴女は私を敵視してる

 どうして……」


「そう。理由はある

 しかし知らずとも良いことじゃ

 ここで死ぬそなたはのう!」


「!」


今度こそ駄目かと

身をすくめて

かたく両目を瞑る


そこへ小さな風が割り込んできた


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― 新着の感想 ―
ラミア、強いし恐ろしいですね。しかもなんだかナイラのことをとても敵視しているようで…。石化対策もしないといけないような中でも、相手の怪我を気遣うナイラの優しさが胸に響きました。 続きも楽しみに、これか…
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