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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第九十六話 堤防を作ろうとしたら農民が反対したので、悠真は畑を水没させる覚悟を問われた

ルーデン川中流。

ベルク平原。

「……冗談じゃない!」

農民たちが叫んだ。

悠真は、集会所で説明を続けていた。

「……この地域を、一時的に水を受け止める場所として使いたいんです」

一人の農民が机を叩いた。

「つまり、俺たちの畑を水没させるってことだろ!」

悠真は頷いた。

「洪水の規模によっては、そうなります」

「……ふざけるな!」

農民は叫んだ。

「今年だって不作なんだぞ!」

「やっと育った作物を、水に沈めろと言うのか!」

悠真は、言葉を失った。

確かに。

この土地の農民たちは、寒冷化に苦しんでいた。

収穫量は減り、食料も不足している。

そんな中で、畑を洪水対策に使う。

簡単に受け入れられるはずがなかった。

「……皆さん」

悠真は、静かに言った。

「畑を失う苦しさは、分かっているつもりです」

農民が叫んだ。

「分かるものか!」

悠真は黙った。

農民は続けた。

「お前は、王都へ帰ればいい!」

「だが、俺たちはここで暮らしているんだ!」

沈黙。

悠真は、深く頭を下げた。

「……その通りです」

農民たちが驚いた。

悠真は続けた。

「だから、皆さんの同意なしに進めるべきではありません」

「……え?」

「まず、ほかの候補地も調べます」

「そして、どうしても必要な場合は、補償と生活再建の方法を決めます」

農民たちは、顔を見合わせた。

そのとき。

一人の老人が口を開いた。

「……悠真殿」

「はい」

「この畑を水没させれば、下流の町は助かるのか?」

悠真は、しばらく考えた。

そして、「……被害を減らせる可能性があります」

老人は頷いた。

「……そうか」

悠真は続けた。

「ただし、洪水の規模によっては、それでも足りないかもしれません」

老人は、静かに頷いた。

「……正直だな」

悠真は苦笑した。

「……約束できないことは、約束したくありません」

老人は、しばらく黙っていた。

そして、「……わしは、十年前の飢饉を覚えている」

農民たちが顔を上げた。

老人は続けた。

「食料が足りなくて、隣村から奪おうとした者もいた」

老人は悠真の計画書を指した。

「畑を沈めたら、来年の種はどうする。家を直す金だけでは、畑は戻らんぞ」

悠真は言葉を詰まらせた。

補償案には、次の作付けに必要な種子と耕作地の確保が抜けていた。

「……俺の計画が足りませんでした」

悠真は紙を伏せた。

「避難先、代替の耕作地、種子の支給を協議に加えます。共同備蓄を使う条件も書面に残します。国王の承認を得るまでは、工事を始めません」

「書面だけで暮らしが戻るわけじゃない」

「はい。だから復旧作業にも責任を持ちます」

老人はすぐには頷かなかった。

それでも、悠真の話を最後まで聞いた。

「あのとき、ベルナ村から種芋が届いた」

「そのおかげで、わしらは生き延びた」

悠真は黙った。

老人は続けた。

「……今度は、わしらが助ける番なのかもしれん」

農民たちがざわめいた。

だが、老人はすぐに続けた。

「ただし、条件がある」

悠真が顔を上げた。

「……何でしょう?」

老人は答えた。

「畑を失った者が、飢えないようにしてくれ」

「……はい」

「家を失った者が、住む場所をなくさないようにしてくれ」

「……はい」

「そして、洪水が終わったあと、畑を直すのを手伝ってくれ」

悠真は、深く頭を下げた。

「……必ず、制度として約束します」

こうして、ベルク平原では遊水地計画の協議が始まった。

土地の所有者。

農業組合。

王国の役人。

工兵部隊。

全員が参加し、補償と避難の条件を話し合った。

数週間後。

一部の土地について、合意が成立した。

だが、すべての農民が賛成したわけではなかった。

悠真は、その事実を重く受け止めていた。

「……誰かを助けるために、別の誰かを犠牲にしてはいけない」

そう呟きながら。

彼は、何度も計画を書き直した。

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