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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第九十五話 洪水対策に必要な金額を計算したら、王国の財務大臣が倒れそうになった

王都アルディア。

王宮。

「……いくらだと?」

財務大臣が尋ねた。

悠真は、静かに答えた。

「現時点の概算です」

そして、書類を差し出した。

財務大臣は目を通した。

一枚。

二枚。

三枚。

そして、「……待て」

悠真が顔を上げた。

「はい?」

財務大臣は、震える声で尋ねた。

「……堤防の補強」

「はい」

「……避難路の整備」

「はい」

「……高台の避難施設」

「はい」

「……水路の改修」

「はい」

「……遊水地の確保」

「はい」

財務大臣は、書類を机に置いた。

「……全部やるのか?」

悠真は頷いた。

「必要なものから、優先して進めます」

財務大臣は、深いため息をついた。

「……王国が破産するぞ」

会議室が静まり返った。

王太子ユリウスが尋ねた。

「……それほどか?」

財務大臣は頷いた。

「現在、王国は食料支援、燃料確保、公共事業、避難民対策に多額の資金を使っています」

「さらに、税収も減っています」

ユリウスは考え込んだ。

「……なるほど」

悠真は口を開いた。

「殿下」

「何だ?」

「全部の堤防を一度に作る必要はありません」

ユリウスが顔を上げた。

悠真は地図を広げた。

「まず、人命を守るための避難計画を優先します」

「次に、町や村を守るための最低限の工事」

「そして、洪水を一時的に受け止める場所を確保します」

財務大臣が尋ねた。

「……遊水地か?」

悠真は頷いた。

「はい」

「人家の少ない土地へ、一時的に水を逃がす方法です」

財務大臣は考え込んだ。

「……だが、その土地の農民はどうする?」

悠真は頷いた。

「そこが重要です」

そして、財務大臣は、必要経費の横に別の数字を書き込んだ。

「橋を一本守るために、別の村の冬の配給を削ることになる」

悠真は息を呑んだ。

「それは駄目です」

「では、どこを削る」

沈黙が落ちた。

やがて悠真は、工事の優先順位を三段階に分けた。

避難路と警報を最優先。

堤防の補強は危険区間から。

新しい石造りの施設は後回し。

「全部を今すぐ守ると言えば、結局どれも完成しません」

大臣は赤い線を引いた。

「よし。これなら議会に出せる」

悠真は、地図上で水を逃がす候補地に印をつけた。

「勝手に畑を水没させるわけにはいきません」

「事前に説明し、合意を得て、被害が出た場合の補償を決める必要があります」

ユリウスは頷いた。

「……よかろう」

さらに、悠真は続けた。

「軍の工兵部隊も活用できませんか?」

カールが顔を上げた。

「……工兵か」

「はい」

「戦争のためではなく、洪水対策に協力してもらいます」

カールは頷いた。

「……できる」

そして、「兵士たちも、喜んで働くだろう」

財務大臣は最後の一枚をめくった。

「工事費だけではない。移転する農家の補償、避難先の食料、来年の税収減まで数えるべきです」

「その通りです」と悠真は答えた。

「しかし、それを加えれば他の事業を止めることになる」

カールは沈黙した。

軍にも必要な修繕がある。

ユリウスは大臣たちを見渡した。

誰かにだけ負担を押しつけて命を救ったことにはできない。

議場の隅から、川沿いの村の代表が立ち上がった。

「遊水地になる土地には、うちの墓地もあります。金を渡されれば済む話ではありません」

財務大臣は書類を閉じた。

悠真も返す言葉を探した。

ユリウスは地図の印を一つ消した。

「候補地を決める前に、そこに暮らす人々の話を聞く。避難路だけは先に整えよう」

「それでは工事が遅れます」と大臣が言う。

「急ぐことと、奪ってよいことは違う」

議場は静かになった。

ユリウスは立ち上がった。

「……決めた」

大臣たちが顔を上げた。

「洪水対策を国家事業とする」

「ただし、財政には限界がある」

「人命に直結する対策を最優先し、工事は段階的に進めよ」

財務大臣は、深く頭を下げた。

「……承知いたしました」

そして、小さく呟いた。

「……胃が痛い」

悠真は、苦笑した。

「……すみません」

財務大臣は首を振った。

「謝るな」

そして、「金がないからといって、三万人を見捨てるわけにはいかん」

その言葉に、悠真は静かに頷いた。

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