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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第九十三話 北方の氷河が川を塞いだので、悠真は地図に存在しない湖を発見した

王立学術院。

「……湖ができた?」

悠真は、老学者エドガーの言葉を聞き返した。

「そうです」

エドガーは大きな地図を広げた。

「北方のグラディス山脈。その谷を流れるルーデン川が、氷河によって塞がれています」

悠真は地図を覗き込んだ。

「……ここですか?」

「ええ」

エドガーは赤い印を指さした。

「以前は川が流れていただけの場所です」

「今は?」

「氷の壁の上流に、水がたまり始めています」

悠真は顔を上げた。

「……どれくらいですか?」

エドガーは報告書をめくった。

「調査隊による推定では、すでに大きな湖になっています」

悠真の背筋に、冷たいものが走った。

「……まずい」

エリクが尋ねた。

「何が?」

悠真は説明した。

「氷が川を塞いでいるなら、その氷が崩れたとき、水が一気に流れ出す可能性がある」

「……洪水か?」

「普通の洪水より急激になるかもしれない」

エリクの表情が変わった。

「……下流には?」

エドガーが答えた。

「農村が十二。町が二つ」

悠真は息を呑んだ。

「……人口は?」

「およそ三万人です」

沈黙。

エリクが呟いた。

「……三万人」

悠真は、地図を見つめた。

ルーデン川は北部の農業地帯を通り、希望村の近くを流れている。

「……希望村も危ない」

エリクが顔を上げた。

「何だって!?」

悠真は頷いた。

「川の本流から少し離れているけど、低い土地がある」

エリクは立ち上がった。

「……すぐ知らせないと!」

悠真も頷いた。

「まず避難路の確認だ。確かな情報と、まだ分からないことを分けて伝えよう」

エドガーは古い測量記録と新しい報告を並べた。

「湖の広さは分かりません。調査隊も岸まで近づけないのです」

「なら、決壊までの日数も?」

「断言できません」

悠真は地図の下流に指を滑らせた。

村が三つ、橋が二つ、そして避難路が一本。

「確実に起きると言い切れなくても、逃げ道だけは先に作りましょう」

エドガーは頷いた。

「予測が外れれば、無駄な出費と責められますよ」

「外れたら、それでいいんです」

悠真は小さく息を吐いた。

「人が生きているなら、外れた予測を笑ってもらえます」

エドガーは調査隊への連絡文を書き始めた。

氷の壁の状態を監視し、分かったことと不明なことを毎日知らせてもらう。

エリクは下流の村を担当することになった。

「逃げられない人から先に調べる。橋を渡れない人の人数も、荷車の数も」

「俺は王都に避難路の整備を頼む」と悠真は答えた。

「警報が届く方法も、村ごとに確かめよう」

悠真は、地図に赤い線を引いた。

ルーデン川。

その両岸。

村。

町。

畑。

そして、希望村。

「……この川沿いにいる人たちを、全員守らないと」

地図の上で赤く塗られた三万人は、ただの数字に見えた。

エリクは指を置いた。

「この辺りには、橋を渡れない年寄りがいる」。

エドガーは避難経路に印を足した。

徒歩で逃げられる人と、荷車が要る人。

警報が届く村と、山に遮られる村。

悠真はようやく理解した。

三万人を守る計画は、三万人をひとまとめに数えるだけでは作れない。

だが、そのとき。

調査隊から新しい報告が届いた。

【氷の壁に亀裂を確認】

【湖の水位、上昇中】

【崩壊時期、予測不能】

悠真は、報告書を握りしめた。

「……時間がない」

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