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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第九十二話 国王が倒れたので、王太子ユリウスが「飢えた国民を一人も見捨てるな」と命じた

王都アルディア。

王宮。

「……父上!」

王太子ユリウス・フォン・アルディナが、寝室へ駆け込んだ。

国王アルベルト三世は、寝台に横たわっていた。

顔色は悪い。

だが、意識はあった。

「……ユリウスか」

「父上!」

ユリウスは、寝台の横に膝をついた。

「……ご無理をなさらないでください」

国王は、かすかに笑った。

「……国が大変なときに、倒れるとはな」

ユリウスは首を振った。

「今は、お休みください」

国王は、息子を見つめた。

そして、「……ユリウス」

「はい」

「王国を……頼む」

ユリウスは、息を呑んだ。

「……父上」

国王は続けた。

「食料は、まだ足りぬ」

「寒さも、続いている」

「だが……」

国王は、ゆっくりと息を吐いた。

「十年前より、我々は強くなった」

ユリウスは頷いた。

「……はい」

国王は、静かに言った。

「民を……頼む」

ユリウスは、深く頭を下げた。

「……必ず」

数日後。

王宮。

緊急閣議。

「……陛下は、当面政務を執ることができません」

宰相が報告した。

大臣たちは、沈痛な表情を浮かべていた。

ユリウスは、静かに立ち上がった。

「……私が、政務を代行する」

会議室が静まり返った。

宰相が頭を下げた。

「……承知いたしました」

ユリウスは続けた。

「まず、食料備蓄の状況を報告せよ」

財務大臣が答えた。

「現在、通常消費量の約四か月分です」

ユリウスは頷いた。

「……四か月か」

悠真が口を開いた。

「殿下」

「何だ、悠真」

「備蓄だけでは、長期の寒冷化を乗り越えられません」

ユリウスは頷いた。

「……分かっている」

悠真は続けた。

「温室や育苗施設を増やし、寒冷地でも作物を育てる方法を研究しています」

「住宅の断熱も進めています」

「燃料の共同調達も始まりました」

ユリウスは、静かに聞いていた。

そして、「……エリクは?」

エリクが立ち上がった。

「はい!」

「避難民の受け入れは、どうなっている?」

エリクは答えた。

「国境近くに、新しい村を建設しています」

「……問題は?」

「地元住民との調整が必要ですが、少しずつ進んでいます」

ユリウスは頷いた。

「……よくやっている」

エリクは頭を下げた。

「ありがとうございます」

そのとき。

一人の大臣が口を開いた。

「……殿下」

ユリウスが顔を上げた。

「何だ?」

「食料が不足しています」

「……分かっている」

「このままでは、すべての国民を助けることは難しいかもしれません」

会議室が静まり返った。

大臣は続けた。

「……優先順位を決める必要があります」

ユリウスは、しばらく黙っていた。

そして、「……優先順位は必要だ」

大臣が頷いた。

「……はい」

ユリウスは続けた。

「だが、身分や財産で命の価値を決めることは認めない」

沈黙。

ユリウスは、静かに言った。

「子供、病人、高齢者、妊娠中の女性など、特に支援が必要な人々を優先する」

「そして、働ける者には仕事を用意する」

「食料が不足する地域には、備蓄を送る」

大臣たちは頷いた。

ユリウスは続けた。

「さらに、隣国との協力も続ける」

一人の大臣が驚いた。

「……ヴァルシア王国への支援もですか?」

ユリウスは頷いた。

「そうだ」

「ですが、我が国も……!」

ユリウスは、静かに答えた。

「我が国の民を守ることは、当然だ」

そして、「だが、隣国が崩壊すれば、国境の混乱はさらに大きくなる」

「協力できる範囲で、協力する」

会議室が静まり返った。

ユリウスは、ゆっくりと立ち上がった。

そして、「……私は、父上から王国を託された」

大臣たちが顔を上げた。

ユリウスは続けた。

「十年前、この王国では食料がなく、多くの人々が飢えていた」

「だが、一人の若者がジャガイモを植えた」

悠真は、息を呑んだ。

ユリウスは続けた。

「五個のジャガイモから始まった農業改革は、村を救い、王国を救い、戦争を止めた」

「そして、今」

ユリウスは、大臣たちを見渡した。

「我々は、再び飢えと戦っている」

沈黙。

ユリウスは、静かに言った。

「……ならば、答えは一つだ」

そして、「飢えた国民を、一人も見捨てるな」

その言葉が、会議室に響いた。

大臣たちは、深く頭を下げた。

「……承知いたしました!」

その日の夕方。

悠真とエリクは、王宮の庭園を歩いていた。

「……ユリウス殿下、立派になったな」

エリクが言った。

悠真は頷いた。

「……うん」

エリクは続けた。

「十年前、俺たちは食べ物を探すだけで精いっぱいだった」

「……そうだね」

「でも、今は王国中で助け合っている」

悠真は笑った。

「……本当に」

数日前のことを、ふと思い出した。

会議室に集まった大臣たちは、王太子の命令を聞いても動かなかった。

「殿下。全員を救うというお言葉は立派です。しかし、荷車も兵も足りません」

ユリウスは唇を噛んだ。

「では、何人なら救える」

誰も答えなかった。

悠真が地図に赤い印をつけた。

「今夜中に食料が必要な村から運びます。救援の順番は身分ではなく、残りの食料で決めましょう」

「貴族の領地を後回しにするのか」

「飢えに爵位はありません」

ユリウスは、その言葉を自分の命令として繰り返した。

二人は、夕焼けを見つめた。

冷たい風が吹いていた。

だが、遠くの村では、温室が建てられていた。

新しい水路が掘られていた。

共同倉庫には、保存食が運び込まれていた。

そして、希望村では、避難民と地元住民が一緒に家を建てていた。

エリクは、静かに言った。

「……悠真」

「何?」

「俺、昔は思ってたんだ」

「……何を?」

「食べ物がたくさんあれば、誰も飢えなくなるって」

悠真は頷いた。

「……うん」

エリクは続けた。

「でも、違うんだな」

「……どういうこと?」

エリクは答えた。

「食べ物を作る人がいる」

「保存する人がいる」

「運ぶ人がいる」

「配る人がいる」

「そして、困っている人を見つける人がいる」

悠真は、静かに頷いた。

エリクは続けた。

「その全部が必要なんだ」

悠真は笑った。

「……そうだね」

そのとき。

王宮の鐘が鳴った。

夕刻を告げる鐘だった。

悠真は、空を見上げた。

「……長い冬になるかもしれない」

エリクは頷いた。

「……うん」

悠真は続けた。

「でも、今度は一人じゃない」

エリクは笑った。

「……当たり前だろ」

そして、「俺たちには、仲間がいるんだから」

二人は、笑い合った。

だが、その夜。

王立学術院へ、北方の観測所から新しい報告書が届いた。

エドガーは、それを読んで顔色を変えた。

【北方山岳地帯】

【積雪量、観測史上最大】

【氷河の拡大を確認】

【平均気温、さらに低下】

そして、最後の項目には、こう記されていた。

【北方の複数の河川で、凍結期間が長期化】

エドガーは、震える声で呟いた。

「……これは」

助手が尋ねた。

「……先生?」

エドガーは、静かに答えた。

「……寒さだけでは済まんかもしれん」

「……どういうことです?」

エドガーは、地図を広げた。

北方の山々。

そこから流れる川。

その川は、アルディナ王国の農業地帯へ続いていた。

「……春の雪解けが遅れれば、川の流れも変わる」

「さらに、急激な融雪が起これば……」

助手は、息を呑んだ。

「……洪水?」

エドガーは頷いた。

「……そうだ」

そして、「次に王国を襲うのは、飢えでも寒さでもないかもしれん」

窓の外では、冷たい雨が降り始めていた。

ユリウスが最初に署名した命令書は、華やかな即位の準備ではなかった。

王宮の食料を減らし、余剰を救護所へ回す。

貴族の私有倉庫には検査を求める。

ただし押収の数量と補償は記録に残す。

宰相は顔を曇らせた。

「反発が起きます」

「起きるだろう」

「殿下のお立場が」

「父上の言葉を守るために、誰かの機嫌を取る余裕はない」

それでも署名する手は震えた。

正しい命令でも、実行する人間には負担がかかる。

ユリウスはその重さを、自分の責任として引き受けた。

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