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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第八十七話 アコギが保存食工場を増やしたら、今度は農家から原料が届かなくなった

ヴァレン商会。

王都加工工場。

「……新しい乾燥設備が完成しました!」

工場長が報告した。

アコギは頷いた。

「よろしい」

工場では、豆や穀物を保存食に加工していた。

燃料を節約するため、設備を改良し、熱を無駄にしない工夫も取り入れた。

生産能力は大きく増えた。

だが、「……問題があります」

工場長が言った。

アコギは眉をひそめた。

「……何だ?」

「原料が足りません」

「……何?」

「農家から届く麦と豆が、予定より少ないんです」

アコギは、しばらく黙っていた。

そして、「……工場を増やしても、作物がなければ意味がないな」

工場長は頷いた。

「はい」

数日後。

アコギは、悠真を訪ねた。

「……相談がある」

悠真は笑った。

「珍しいですね」

アコギは苦笑した。

「笑い事ではない」

そして、帳簿を広げた。

「加工能力は増えた」

「だが、原料が足りない」

悠真は頷いた。

「……収穫量が減っていますからね」

アコギは続けた。

「何か、方法はないか?」

悠真は、しばらく考えた。

そして、「……原料の種類を増やしましょう」

アコギが首を傾げた。

「……種類?」

「はい」

悠真は続けた。

「麦だけに頼るのではなく、豆、ジャガイモ、トウモロコシなど、地域ごとに収穫できる作物を使います」

アコギは頷いた。

「……なるほど」

「ただし、保存方法は作物ごとに違います」

アコギが提示した買い取り価格を見て、農民の代表は顔を曇らせた。

「これでは種を残せません」

「工場も赤字になる」

アコギは即座に返した。

だが、農民が袋から取り出したのは、痩せた豆だった。

「今年はこれだけです。来年の畑まで売れば、もう作れない」

アコギは長く黙り、契約書を破った。

「余剰が出たときだけ買う。収穫の少ない年は、約束の量を減らせるようにしよう」

部下が慌てた。

「工場の計画が立ちません!」

「畑が消えたら、工場の計画など紙切れだ」

悠真はその横顔を見た。

利益を数える商人が、ようやく来年の種まで数え始めていた。

悠真は説明した。

「ジャガイモは光に当てると緑化することがありますし、芽や傷んだ部分にも注意が必要です」

「トウモロコシは乾燥不足だとカビが問題になります」

「だから、加工前の検査を徹底します」

アコギは頷いた。

「……分かった」

さらに、悠真は続けた。

「それから、農家に無理な出荷を求めないでください」

アコギは顔を上げた。

「……なぜだ?」

「種まで売ってしまったら、来年の収穫がなくなります」

アコギは、しばらく黙っていた。

そして、「……十年前の私なら、全部買っていただろうな」

悠真は苦笑した。

「そうかもしれませんね」

アコギは笑った。

「だが、今は違う」

そして、「農家が来年も作れるようにすることが、商売を続ける条件だ」

悠真は頷いた。

「その通りです」

こうして、ヴァレン商会は農業組合と新しい契約を結んだ。

種子と家庭用食料を確保したうえで、余剰分を買い取る。

品質基準を明確にする。

不作時には、契約量を柔軟に調整する。

さらに、地域ごとに加工できる作物を増やす。

保存食の供給は、少しずつ安定し始めた。

工場の裏手で、若い従業員がアコギに訴えた。

「買い取りを減らしたら、僕らの給料はどうなるんですか」。

アコギはすぐに答えられなかった。

翌日、彼は加工場の仕事を一部、傷んだ袋の選別と倉庫の補修に振り替えた。

利益は減る。

それでも、来年の畑と今年の職場の両方を残す方法を探し続けた。

だが、寒冷化が続くなか、北部の農民たちは別の問題に直面していた。

春になっても、畑の土が十分に暖まらなかったのだ。

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