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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第七十六話 食料を買い占めた商人を捕まえたら、十年前の穀物横流し事件と同じ名前が出てきた

王都アルディア。

夜。

「……この倉庫だな」

カールが、兵士たちに小声で指示した。

「はい」

兵士たちは頷いた。

目の前には、大きな民間倉庫があった。

数日前から、複数の商人が食料を買い集めていた。

市場では麦が不足している。

だが、この倉庫には大量の麦が運び込まれていた。

「……開けろ!」

カールが命じた。

倉庫の扉が開かれた。

中には、麦袋が山積みになっていた。

「……これは」

兵士が息を呑んだ。

カールは帳簿を確認した。

【麦 2,400袋】

【豆 800袋】

【乾燥トウモロコシ 600袋】

「……大量だな」

そのとき。

倉庫の奥から、一人の男が現れた。

「……何の用だ!」

カールは答えた。

「王都食料取引に関する調査だ」

男は顔をしかめた。

「……商売をして何が悪い!」

カールは首を振った。

「通常の取引なら問題はない」

そして、「だが、偽名での購入と虚偽の在庫申告が確認されている」

男の顔色が変わった。

「……何?」

カールは続けた。

「さらに、複数の商会が同じ指示書に従って価格を操作している疑いがある」

男は黙った。

カールは、書類を取り出した。

「……この名前に覚えはあるか?」

そこには、こう書かれていた。

【グレゴール・ザイツ】

男は、息を呑んだ。

「……知らん」

カールは静かに言った。

「十年前、軍の穀物横流し事件で名前が出た男だ」

沈黙。

男は、後ずさった。

「……俺は関係ない!」

カールは頷いた。

「ならば、帳簿を確認させてもらおう」

翌日。

王宮。

「……グレゴール・ザイツ?」

悠真が尋ねた。

カールは頷いた。

「十年前、ヴァレン商会の取引先として名前が出た男だ」

エリクが顔をしかめた。

「……またアコギなのか?」

カールは首を振った。

「まだ分からん」

そして、続けた。

「現時点で、ヴァレン商会が今回の買い占めに関与した証拠はない」

悠真は頷いた。

「……まず、調べましょう」

カールは続けた。

「ただし、グレゴールが複数の商会を使って食料を集めていたことは確認できた」

「……目的は?」

「価格を吊り上げて売るつもりだったらしい」

エリクは拳を握った。

「……ふざけるな」

悠真は、静かに言った。

「食料が足りないときほど、こういう商売が出てくるんだね」

カールは頷いた。

倉庫の奥から見つかった帳簿には、同じ麦袋が二度売買された記録があった。

「名義を変えて、値をつり上げている」

カールが指で追うと、アコギは一箇所で手を止めた。

「この印は、昔わしが使わせていた仲介人のものだ」

沈黙が落ちた。

「証言すれば、あなたの過去も掘り返されます」

十年前の横流し事件の書類と、新しい買い占めの伝票が机に並んだ。

同じ名がある。

だが悠真は、すぐに逮捕を命じることには反対した。

「名前だけで決めたら、昔の役人と同じです。取引の日付と金の流れを確かめましょう」

証拠を揃える時間にも、食料の値段は上がっていく。

ユリウスは緊急の放出を先に認め、調査は別に続けさせた。

救済と裁きは、混同してはならなかった。

悠真が言うと、アコギは乾いた笑いを漏らした。

「掘り返されるべきだ。わしが教えたやり方なら、なおさらな」

ただしカールは、その場で全員を有罪とはしなかった。

押収した帳簿を封印し、証人と荷受け記録を照合するよう命じた。

「怒りだけで裁けば、また同じ過ちを繰り返す」

その言葉に、アコギは静かに頭を垂れた。

「……ああ」

そのとき。

扉が開いた。

「……高橋悠真君」

アコギ・ヴァレンが入ってきた。

エリクが顔を上げた。

「……アコギ!」

アコギは、静かに答えた。

「今回の件について、話がある」

カールが尋ねた。

「……何だ?」

アコギは、一冊の帳簿を差し出した。

「グレゴールの取引記録だ」

カールは目を見開いた。

「……なぜ、お前が持っている?」

アコギは苦笑した。

「十年前、私は彼と取引していた」

そして、「今回、彼から食料の買い集めに協力するよう持ちかけられた」

エリクが叫んだ。

「……何だって!?」

アコギは頷いた。

「だが、断った」

沈黙。

悠真が尋ねた。

「……どうしてですか?」

アコギは、静かに答えた。

「十年前なら、協力したかもしれん」

そして、「だが、今は違う」

アコギは帳簿を指さした。

「私は保存食を作っている」

「農民から作物を買い、加工し、遠くの町へ運んでいる」

「王国が飢えれば、その仕事も続けられない」

悠真は、しばらく黙っていた。

そして、「……ありがとうございます」

アコギは苦笑した。

「礼を言われるとは、妙な気分だな」

カールは帳簿を受け取った。

「……調査に使わせてもらう」

アコギは頷いた。

「好きにしたまえ」

こうして。

十年前、食料を独占しようとした商人が。

今度は、食料の買い占めを止めるために協力することになった。

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