第六十七話 備蓄倉庫が次々と失敗したので、エリクが全国の倉庫を調べることになった
王都。
王宮の会議室に、五つの倉庫から届いた被害報告が並べられていた。
「備蓄した穀物の一部が、食用に適さなくなっています」
財務大臣の声は沈んでいた。
「温度を記録した倉庫もあれば、湿度を測る道具さえない倉庫もある。古い穀物と新しい穀物を混ぜたところもありました」
悠真が報告書をめくると、国王が尋ねた。
「何を直せばよい?」
「倉庫を建てるだけでは駄目です。入庫日、保存状態、出庫量を同じ方法で記録して、誰でも照合できるようにします」
「書類を増やすだけでは、現場は変わらんぞ」
財務大臣の指摘に、悠真は頷いた。
「だから、現場で試してから基準を決めたいんです」
そのとき、会議の末席にいたエリクが立ち上がった。
「俺に、調べさせてください」
「エリク?」
「村の倉庫なら、収穫量も種芋も配給も、ずっと帳簿につけてきました。王国中のやり方が違うなら、まず一つずつ見てきます」
大臣は眉をひそめた。
「現場の管理者が、よその村の倉庫を批判すれば反発されるぞ」
「批判だけはしません。湿気が多ければ、なぜ乾かせなかったかを聞きます。人手が足りないなら、その人数も記録します」
「帳簿を見せない倉庫があったら?」
エリクは少し迷った。
「無理に扉を壊したりしません。でも、見せてもらえなかったことは、王都へ報告します」
国王はエリクを見つめた。
「よかろう。食料備蓄監査団の現地責任者を任せる。ただし、保存技術者と独立した監査官を同行させる。お前一人の判断で廃棄を決めてはならん」
「はい」
会議が終わると、悠真は廊下でエリクに言った。
「腐った穀物を見つけるだけじゃ、次の飢饉は防げないよ」
「分かってる。どうすれば腐らずに済んだのか、それを持ち帰る」
数日後。
アルト村。
「全国を回るの?」
母親は旅支度をするエリクを見て、驚いた。
「うん。倉庫を調べる仕事を任されたんだ」
エリクは小さな帳面を開いた。
湿気、虫、入出庫の日付、確認した人の名前。
同じ質問を、どの倉庫でもするつもりだった。
「昔は鍬の数を数えるのも嫌がっていたのにね」
母親が笑うと、クリスが干し芋の袋を差し出した。
「道中で食べて。ちゃんと帰ってきてね」
「ありがとう」
袋を受け取ったエリクは、少しだけ黙った。
「昔は、旅に持っていく芋なんてなかった」
母親は息子の手を握った。
「今は王国中の人の食べ物を心配しているんだね」
「母さんが生きていてくれたからだよ」
翌朝、エリクは監査団の馬車に乗った。
最初の目的地は、被害の報告が遅れた北部の倉庫。
倉庫の扉を開く前に、エリクは帳面の一行目へ書いた。
『食料が失われた理由を、誰か一人の罪だけで終わらせないこと』
長い旅は、そこから始まった。




