第六十六話 巨大な食料倉庫を建てたら、半年後に穀物が虫だらけになっていた
一年後。
アルディナ王国北部。
王国第二備蓄倉庫。
「……大変です!」
倉庫管理官が叫んだ。
「どうした!」
責任者が駆け寄った。
管理官は、一つの袋を指さした。
「……虫が!」
袋の隙間から、小さな虫が這い出していた。
責任者は顔色を変えた。
「……何だ、これは」
袋を開ける。
中には、乾燥麦が入っていた。
だが、穀粒の間を、小さな虫が動いていた。
さらに。
別の袋。
その隣の袋。
奥の袋。
次々と、害虫が見つかった。
「……まさか」
責任者は、青ざめた。
「……全部か?」
数日後。
悠真とエリクが、倉庫へ到着した。
「……これは」
悠真は、袋の中を見つめた。
小さな虫。
粉状になった穀物。
袋を開いた管理官は、顔を覆った。
「換気のために扉を開けていたのに……」
悠真は床に膝をついた。
湿った板の隙間に、黒い染みが広がっていた。
「風を通すだけじゃ駄目だった。床からの湿気も上がっている」
「全部捨てるしかないのですか」
「食べられるかどうかは、袋ごとに検査します。虫がいた袋を、そのまま配るわけにはいきません」
エリクは倉庫の外の長い列を見た。
「食料を守るはずの建物が、食料を傷めたんだな」
悠真は唇を噛んだ。
「僕の計画にも責任がある。急いで量を増やすことばかり考えていた」
その夜、被害の袋数は隠さず王宮へ報告された。
異臭のある袋もあった。
「……ひどい」
エリクが呟いた。
管理官は頭を下げた。
「申し訳ありません!」
悠真は首を振った。
「まず、被害を確認しましょう」
「……はい」
悠真は続けた。
「虫がいる袋と、まだ確認されていない袋を分けてください」
エリクが尋ねた。
「……食べられるものは?」
悠真は答えた。
「虫がいたからといって、全部が必ず食べられないとは限らない。でも、カビや異臭があるものは危険だから、専門の担当者に確認してもらおう」
そして、「勝手に混ぜたり、売ったりしないでください」
管理官は頷いた。
「……分かりました」
調査が始まった。
被害のあった袋。
被害のない袋。
品質確認が必要な袋。
それぞれを分けて記録した。
数日後。
被害の原因が見えてきた。
「……湿気ですね」
悠真が呟いた。
倉庫の一部では、床から湿気が上がっていた。
さらに。
袋が壁に密着して積まれ、空気が流れにくくなっていた。
搬入時の検査記録も不十分だった。
「……なるほど」
エリクが頷いた。
悠真は続けた。
「穀物を乾燥させても、保存中に湿気を吸えば品質が悪くなります」
そして、「害虫も増えやすくなる」
エリクは、倉庫を見つめた。
「……じゃあ、どうする?」
悠真は答えた。
「倉庫の構造と管理方法を変えよう」
その日。
王国第二備蓄倉庫では、緊急の改善工事が始まった。
床を高くする。
通風を確保する。
袋を床や壁から離す。
温度と湿度を記録する。
定期的に害虫を確認する。
そして、新しい食料を入れる前に、倉庫を清掃する。
悠真は、作業を見つめていた。
「……食料を作るのも大変だけど」
エリクが尋ねた。
「……うん?」
悠真は苦笑した。
「保存するのも、同じくらい大変だね」
エリクは頷いた。
「……本当だな」
だが、その夜。
別の地域から、さらに悪い知らせが届いた。
【王国第五備蓄倉庫】
【保存穀物の大量腐敗を確認】
悠真は、手紙を握りしめた。
「……一か所だけじゃないのか」
倉庫を開けた瞬間、甘く湿った異臭が流れた。
「帳簿には満杯とあるのに」
エリクは袋の奥まで確かめた。
上だけ乾いていて、下は熱を持っていた。
悠真は袋を閉じた。
「量だけ数えて、状態を見なかった。俺たちの失敗です」
廃棄量を隠さず記録し、倉庫ごとに換気と点検の担当を決めた。
失敗を公表する紙を貼ると、最初に読みに来たのは近所の農民たちだった。




