第六十五話 食料備蓄のために税金を使おうとしたら、貴族たちが城の改築を優先しろと言い始めた
王宮。
貴族会議。
「……食料備蓄など、無駄です!」
一人の伯爵が声を上げた。
「近年、王国の収穫量は増えております!」
別の貴族も頷いた。
「そうです! 飢饉など、もう起こらないでしょう!」
悠真は、静かに聞いていた。
国王が尋ねた。
「……悠真、どう思う?」
悠真は答えた。
「収穫量が増えたことは事実です」
貴族たちが頷いた。
「そうだろう!」
だが、悠真は続けた。
「でも、天候まで変えられたわけではありません」
沈黙。
悠真は、過去の凶作記録を広げた。
「二十年前、王国では夏の気温が大きく下がりました」
「麦の収穫量が減り、家畜の飼料も不足しました」
「さらに、翌年の種を食べてしまった村では、その次の年も収穫が回復しませんでした」
貴族たちは黙った。
悠真は続けた。
「備蓄は、食べ物を余らせるためのものではありません」
そして、「次の収穫まで、国民を生かすためのものです」
会議の外では、雨漏りする城壁の修理を訴える役人も待っていた。
「城を直さなければ、冬に兵士が凍えます」
悠真はその訴えを退けなかった。
「必要な修理は必要です。ただ、見栄えをよくするための改築と分けてください」
バルガス侯爵が鼻で笑った。
「農民の倉庫に金を積めば、王家の威厳が保てると?」
エリクが立ち上がりかけたが、悠真が制した。
「倉庫は王家の飾りではありません。次の不作で、侯爵の領民も食べるためのものです」
「領民は領主が守る」
「では、昨年の備蓄量を公開できますか」
侯爵は答えなかった。
国王は、改築費と備蓄費を別の項目として審議するよう命じた。
そのとき。
バルガス侯爵が口を開いた。
「……では、農民から追加の税を取ればよい」
悠真が顔を上げた。
「……追加の税?」
「そうだ」
侯爵は笑った。
「豊作なのだから、余剰分を徴収すればよい」
悠真は首を振った。
「それでは、農民の備蓄が減ります」
侯爵は眉をひそめた。
「……何?」
「村の食料を減らして王都の倉庫を増やしても、王国全体の備蓄は増えません」
沈黙。
悠真は続けた。
「必要なのは、余剰生産を増やし、適正な価格で買い上げることです」
財務大臣が頷いた。
「……なるほど」
侯爵は不満そうだった。
「……金がかかるではないか」
悠真は答えた。
「はい」
そして、静かに続けた。
「でも、飢饉が起きてから食料を買い集める方が、もっと高くつくかもしれません」
その言葉に、国王が頷いた。
「……その通りだ」
そして、「備蓄計画を進めよ」
貴族たちは、渋々頭を下げた。
だが、会議のあと。
バルガス侯爵は、廊下で一人の男と会っていた。
「……アコギ殿」
「侯爵閣下」
アコギ・ヴァレンが微笑んだ。
「食料備蓄計画が始まるそうですな」
侯爵は顔をしかめた。
「……まったく、面倒なことだ」
アコギは静かに答えた。
「ですが、商売の機会でもあります」
侯爵が顔を上げた。
「……何?」
アコギは笑った。
「倉庫を建てる」
「食料を運ぶ」
「保存食を加工する」
「そして、備蓄を管理する」
侯爵は、ゆっくりと笑った。
「……なるほど」
アコギは続けた。
「ただし、今回は不正な独占契約など結べません」
侯爵は眉をひそめた。
「……なぜだ?」
アコギは苦笑した。
「高橋悠真君が、必ず帳簿を確認するからです」
その言葉に、侯爵は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
その後の予算審議で、貴族は新しい謁見の間の図面を掲げた。
「国の威信がかかっている」
財務大臣は備蓄倉庫の修繕費を示した。
「こちらには、国民の冬がかかっています」
ユリウスは両方を見た。
「威信は、飢えた国民には食べられない」
その言葉で会議は終わらなかった。
建築職人の仕事を失わせないよう、王宮工事の一部を倉庫の補修へ振り向ける案が作られた。




