第六十四話 王国の備蓄が四か月分しかなかったので、三年分の食料を貯めようとしたら大臣に怒られた
王宮。
農業政策会議。
「……三年分!?」
財務大臣が叫んだ。
悠真は頷いた。
「はい」
「そんなもの、どこに置くのだ!」
「倉庫を増やします」
「費用は!?」
「計算します」
「保存中に腐ったら!?」
「管理方法を改善します」
財務大臣は机を叩いた。
「簡単に言うな!」
悠真は黙った。
確かに。
三年分の食料を備蓄する。
言葉にするのは簡単だった。
だが、実際には途方もない量になる。
国民が一年間に食べる食料。
その三倍。
しかも、食料には保存期限がある。
古いものを食べ、新しいものを補充する仕組みがなければ、備蓄そのものが無駄になる。
「……すみません」
悠真は頭を下げた。
「少し、考えが足りませんでした」
財務大臣は驚いた。
「……何?」
財務大臣は算盤を置いた。
「三年分を買えば、穀物の値が跳ね上がる。今日食べる分まで買えなくなるぞ」
悠真は反論できなかった。
「一度に買うつもりはありません。まず、地域ごとの備蓄を増やし、古い穀物から順に使って入れ替えます」
「倉庫を建てる金は?」
「道路や乾燥施設にも分けて使いたいです。腐らせたら、貯めた意味がない」
「目標の三年分は?」
悠真は一瞬ためらった。
「最終的な目安です。まず一年分に届く道筋を作る。数字だけを先に達成したことにはしません」
財務大臣は長く息を吐いた。
「その答えなら、予算案を読んでやる」
悠真は続けた。
「いきなり三年分を貯めるのは、現実的ではありません」
そして、紙に数字を書き始めた。
【現状:約四か月分】
【第一目標:六か月分】
【第二目標:九か月分】
【第三目標:十二か月分】
「まず、一年分を目指します」
財務大臣は腕を組んだ。
「……一年分でも、大変だぞ」
「はい」
悠真は頷いた。
「だから、五年かけて少しずつ増やします」
さらに。
「王国が全部持つのではなく、村、地域、王国の三段階で備蓄します」
国王が尋ねた。
「……三段階?」
「はい」
悠真は説明した。
「村には、冬を越すための食料」
「地域には、不作の村を助けるための食料」
「王国には、広域災害に備える食料」
財務大臣が考え込んだ。
「……なるほど」
悠真は続けた。
「そして、備蓄した食料は、古いものから市場へ出して、新しい収穫物と入れ替えます」
国王が頷いた。
「……回転させるのか」
「はい」
悠真は笑った。
「食べられなくなるまで倉庫に置いておくのは、もったいないですから」
財務大臣は、しばらく黙っていた。
そして、「……一年分なら、検討できる」
悠真は顔を上げた。
「本当ですか?」
「ただし!」
財務大臣は指を立てた。
「予算は毎年審査する!」
「はい!」
「倉庫の管理記録も提出させる!」
「もちろんです!」
「腐らせた食料は、隠さず報告させる!」
悠真は笑った。
「それが一番大事です」
こうして。
王国食料備蓄五か年計画が始まった。
だが、その計画を聞いた貴族たちは、激しく反発した。
「……備蓄だと?」
「我々の税収を、倉庫に積み上げるつもりか!」
「そんな金があるなら、城を修理すべきだ!」
そして、一人の貴族が、静かに呟いた。
「……食料が余っているなら、税を増やせばよい」
その男の名は。
バルガス侯爵。
十年前から、農民たちを苦しめ続けてきた領主だった。
財務大臣は白紙に三つの欄を作った。
現在の備蓄、毎年の入れ替え量、凶作時の不足見込み。
「三年分という言葉だけでは予算は出せん。何をどこに置き、いつ食べるかまで書け」
悠真は頷いた。
「地域ごとに備蓄を分散します。保存しやすい穀物と種子は分けて管理し、道路が閉ざされても配れるようにします」
「三年分を本当に貯められるかは、まだ分からんな」
「はい。だから、達成できたふりはしません。まず冬を越せる地域別の備蓄を作り、保存損失を公表します。三年分という数字は、見直し続ける目標です」
大臣はようやくペンを取った。
夢を計画に変えるには、反対する人間の計算が必要だった。




