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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第六十一話 穀物商が保存食を作り始めたので、悠真が初めて素直に褒めた

数か月後。

王都アルディア。

「……新商品?」

悠真は、商会から届いた箱を見つめていた。

箱には、こう書かれていた。

【ヴァレン商会 保存食シリーズ】

中には、さまざまな食品が入っていた。

乾燥トウモロコシの粉。

豆の乾燥食品。

ジャガイモを加工した保存食。

そして、麦と豆を混ぜた携帯食。

エリクが驚いた。

「……何だ、これ?」

悠真は一つを手に取った。

「……保存食だね」

カールも覗き込んだ。

「……軍用か?」

「軍にも使えそうですね」

悠真は、添えられた説明書を読んだ。

【水分を減らし、保存性を高めた食品】

【密封容器にて保管】

【製造日・保存期限を記載】

悠真は、目を丸くした。

「……すごい」

エリクが驚いた。

「……え?」

悠真は続けた。

「ちゃんと保存方法まで考えてある」

そのとき。

アコギが現れた。

試食の前に、悠真は保存食の袋を裏返した。

「作った日と、保管場所は記録していますか」

アコギが眉を上げる。

「味より先に、そこを聞くのか」

「飢饉のときに頼る食料なら、食べられるかどうかが一番大切です」

試作品の一つには、乾燥不足で湿り気が残っていた。

悠真が指摘すると、アコギは職人を叱ろうとしたが、思い直した。

「これは売らん。工程を見直せ」

エリクは驚いた。

「商会が損をするぞ」

「腐った品を売って信用を失う方が高くつく」

アコギは苦々しく言った。

悠真は初めて、彼の商売の計算に救われる人もいるのだと感じた。

「……気に入ってもらえたかな?」

悠真は振り返った。

「アコギさん!」

アコギは微笑んだ。

「市場での手数料競争は、どうやら君たちに分がある」

悠真は黙った。

アコギは続けた。

「だから、私は別の商売を始めた」

そして、箱を指さした。

「保存食だ」

悠真は頷いた。

「……いいと思います」

アコギは驚いた。

「……何?」

悠真は笑った。

「すごくいいと思います」

アコギは、しばらく黙っていた。

「……本気か?」

「はい」

悠真は続けた。

「収穫した食料を長く保存できれば、不作の年にも役立ちます」

そして、「遠くの村へ運ぶこともできます」

アコギは、静かに頷いた。

「……そうだ」

悠真は続けた。

「ただし、ジャガイモの加工品は水分や油分の状態によって保存性が大きく変わります。実際の保存試験や品質管理は必要ですね」

アコギは笑った。

「もちろんだ。すでに専門の職人を雇っている」

悠真は頷いた。

「それなら、いいですね」

エリクが、悠真に小声で尋ねた。

「……本当に褒めていいのか?」

悠真は笑った。

「いいことは、いいことだから」

エリクは、しばらく考えた。

そして、「……なるほど」

アコギは、二人を見つめていた。

やがて。

「……高橋悠真君」

「はい?」

「君は、私が嫌いではないのか?」

悠真は少し考えた。

「……困った人だとは思っています」

アコギは苦笑した。

「……ひどいな」

悠真は続けた。

「でも、食料を長く保存する技術を広めるなら、協力できます」

アコギは、しばらく黙っていた。

そして、「……そうか」

静かに笑った。

「ならば、今度は競争ではなく、取引をしよう」

悠真は頷いた。

「はい」

「国境に送った一台の荷車、どうなりました?」

悠真が尋ねると、アコギは紙を一枚差し出した。

荷傷みは減った。

運賃はまだ高い。

御者の賃金を引けば、利益はわずかだった。

「大儲けではありませんね」

「だが、損でもない。次は二台だ。ただし値決めは農民の代表とする」

エリクが驚いて顔を上げた。

「俺たちが決めていいんですか」

「決めるだけなら誰でもできる。失敗したとき、互いに帳簿を開けるかが問題だ」

アコギは以前なら口にしなかった言葉を、自分の声で聞いた。

こうして。

ヴァレン商会は、保存食の製造と流通へ本格的に進出した。

農業組合は、原料となる作物を供給した。

商会は、加工と輸送を担当した。

そして、両者は、初めて互いの役割を認め合うことになった。

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