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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第五十四話 寒い国でもジャガイモは育つと思っていたら、畑が霜で真っ黒になった

一か月後。

ヴァルシア王国北部。

「……悠真さん!」

ルドルフが、慌てて宿へ飛び込んできた。

「大変です!」

悠真は顔を上げた。

「どうしました?」

「畑が……!」

二人は、急いで畑へ向かった。

そこには、信じられない光景が広がっていた。

昨日まで青々としていたジャガイモの葉が、黒く変色していた。

「……これは」

悠真は、葉に触れた。

冷たい。

そして、しおれている。

「……霜ですね」

ルドルフが息を呑んだ。

「……霜?」

「はい。夜の気温が下がりすぎたんです」

ルドルフは、畑を見つめた。

「……寒い国でも育つと聞いていたのに」

悠真は頷いた。

悠真は黒くなった葉を一枚だけ摘み、根元の土を掘った。

「地上部が枯れても、地下の芋まで全部駄目とは限りません。でも、収穫量は落ちるでしょう」

「次はどうするんですか」

ルドルフの声には、責める響きよりも疲れがあった。

「植え付けを遅らせる畑と、早く収穫する畑を分けます。谷底の冷気が溜まる場所も避けたい」

「全部を一度に試すのですか」

「いいえ。失敗したら食べるものがなくなる。試験区だけで比較します」

元兵士たちは黙って聞いていた。

昨日まで、悠真の言葉は奇跡に聞こえていた。

今日初めて、彼も失敗する人間なのだと知った。

「育てられる地域はあります。でも、霜に当たれば地上部が傷むことがあります」

「……では、もう駄目なのですか?」

悠真は首を振った。

「まだ分かりません」

そして、続けた。

「地下の芋が無事なら、株によっては回復する可能性があります。ただ、収量は減るかもしれません」

ルドルフは黙った。

悠真は、畑を見つめた。

「……俺の説明が足りませんでした」

ルドルフが顔を上げた。

「……そんな」

「寒い地域なら、植え付け時期をもっと慎重に決めるべきでした」

悠真は続けた。

「気温の記録が必要です」

その日から。

悠真たちは、毎朝と毎晩、気温を記録することにした。

霜が降りた日。

風の強さ。

雨の量。

土の温度。

そして、村の老人たちから、過去の天候を聞いた。

「……この辺りでは、春でも急に冷える」

老人が言った。

「山から冷たい風が下りてくるんだ」

悠真は頷いた。

「なるほど」

村へ戻った二人を、厳しい現実が待っていた。

霜で畑を失った農家の父親が、倉庫の前で立ち止まった。

冬の種芋にする分を残せば、今夜の食卓が薄くなる。

今夜食べれば、来春の畑がなくなる。

「どちらを選べばいい」

悠真は答えを急がず、ルドルフと村の備蓄を数え直した。

救済に回せる量を明示し、足りない分は近隣へ頼むしかない。

万能なスキルで埋められない損失が、帳簿に残った。

ルドルフが尋ねた。

「……どうしますか?」

悠真は答えた。

「植え付けを遅らせる畑を作りましょう」

「……遅らせる?」

「はい。霜の危険が小さくなる時期を選びます」

さらに。

「早く植える畑には、霜よけの覆いを試してみましょう。ただし、広い畑すべてを守るのは難しいので、まずは小規模に」

ルドルフは頷いた。

「……分かりました」

悠真は、黒くなった葉を見つめた。

「……農業って、本当に難しいですね」

ルドルフは苦笑した。

「戦争より難しいかもしれません」

悠真は笑った。

「少なくとも、敵に勝てば終わり、という話ではありませんね」

その言葉に、二人は静かに笑った。

夕暮れ、農家の女が小さな袋を持って訪ねてきた。

「これだけは食べずに残したの。来年、植えられるかしら」

袋の底には、傷のある種芋が五つ。

悠真は一つずつ確かめた。

腐りかけたものは植えられない。

「全部は使えません。無理に植えても病気が広がるかもしれない」

女は目を伏せた。

悠真は使える芋を別の袋に移し、試験畑の分を分ける約束をした。

ただし、その分だけ別の農家へ渡す種が減る。

「順番は村で決めましょう。俺だけで決めたら、きっと間違えます」

女は小さく頷いた。

助ける方法があっても、全員を同時に救えるとは限らなかった。

その年の北部では、ジャガイモの収穫が大幅に減った。

農業革命は、最初から順調には進まなかった。

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