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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第四十四話 三年前の契約書を読み返したら、収穫物を全部売ることになっていた

ベルナ村。

村長の家。

「……これだ」

ハインツが古い書類を取り出した。

三年前。

アコギ・ヴァレンと交わした契約書だった。

悠真は、慎重に読み始めた。

『ベルナ村で生産された新作物について、ヴァレン商会は優先的に買い取る権利を有する』

「……優先的に?」

悠真が呟いた。

ハインツは頷いた。

「当時は、買い手がいるだけでありがたかったからな」

悠真は続きを読む。

『買い取り対象は、販売可能な収穫物とする』

『翌期の栽培に必要な種芋・種子、および村内消費分については対象外とする』

悠真は、ほっと息を吐いた。

「……よかった」

ハインツが尋ねた。

「何がだ?」

「種芋と村で食べる分は、ちゃんと除外されています」

三年前。

悠真が最初にアコギと握手したとき。

ハインツは、村の食料と翌年の種だけは残すよう求めていた。

その条件が、契約書に記されていたのだ。

「……村長、ありがとうございます」

ハインツは笑った。

「村人を飢えさせる契約など、結べるものか」

悠真も笑った。

だが、次の項目を読んだ瞬間。

その表情が変わった。

『販売可能な余剰収穫物について、第三者への販売を希望する場合は、事前にヴァレン商会へ通知するものとする』

「……これか」

悠真が呟いた。

ハインツが尋ねた。

「何か問題か?」

「商会は、この条項を利用して、ほかの商人への販売を妨げようとしているのかもしれません」

「……そんなことができるのか?」

「契約には、通知するとは書いてあります。でも、商会の許可が必要とは書いてありません」

悠真は続けた。

「それに、種芋を自分で使うことも禁止されていません」

ハインツは腕を組んだ。

「……なるほど」

悠真は契約書を閉じた。

「王都へ確認しましょう」

契約書の読み合わせには、字を読める者だけでなく、署名した村人全員が集まった。

「こんな小さな字、誰が読めるんだ」

老人の声に、ハインツはうつむいた。

「わしが確認したつもりだった」

悠真は責めなかった。

三年前は明日の食料を得るだけで精一杯だった。

「大事なのは、今から同じことを繰り返さないことです」

村人の前で、条文を一つずつ読み上げる。

『優先的』と『独占的』の違い。

『通知』と『許可』の違い。

種芋と自家消費分の扱い。

若い農民が手を挙げた。

「来年、別の商人と契約する時も、みんなで読むのか」

「そうしよう」

ハインツは答えた。

「畑はみんなのものだ。契約も、みんなの目で守る」

悠真は、紙一枚が飢えを招くことも、防ぐこともあると知った。

「また王都か?」

「はい」

悠真は笑った。

「今度は戦争じゃなくて、契約の問題です」

ハインツは深いため息をついた。

「……お前が来てから、退屈する暇がないな」

「すみません」

「謝るな」

ハインツは笑った。

「お前のおかげで、村の子供たちは腹いっぱい食べている」

そして、真剣な顔になった。

「それだけは、誰にも奪わせん」

数日後。

王都。

ヴァレン穀物商会。

アコギは、悠真から届いた書面を読んでいた。

『既存契約において、村内消費分および翌期栽培用の種芋・種子は買い取り対象外と明記されています』

『また、第三者への販売は事前通知を要するものの、商会の許可を必要とする規定は確認できません』

アコギは、しばらく黙っていた。

そして、「……なるほど」

静かに笑った。

「三年前の契約書を、よく読んだものだ」

部下が尋ねた。

「どういたしますか?」

アコギは答えた。

「契約では縛れないか」

そして、新しい帳簿を開いた。

「ならば、別の方法を考えよう」

そこには、こう書かれていた。

【農地取得】

【農業融資】

【収穫物担保契約】

アコギは微笑んだ。

「……土地と借金なら、どうかな」

帳簿を閉じかけた部下が尋ねた。

「返せなくなった農家は、畑を失います」

アコギはすぐには答えなかった。

かつて飢えた村で、麦一袋を巡って人が争う姿を見たことがある。

「契約は合法だ」と言いかけ、言葉を飲み込む。

合法であることと、正しいことは同じではない。

だが商会の支払い期限は待ってくれなかった。

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