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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第四十話 王都でトウモロコシを安く売ったら、食料を奪い合う人々が泣き始めた

王都アルディア。

中央市場。

その日。

広場には、長い列ができていた。

「……本当に安く買えるのか?」

「国王陛下の命令らしい」

「乾燥トウモロコシが、いつもの半額以下だって?」

人々は半信半疑だった。

だが、市場の中央には、大きな看板が立っていた。

【王国緊急食料販売所】

【一世帯あたりの購入量に上限あり】

【子供・病人・高齢者のいる世帯を優先】

人々は、静かに列を作った。

エリクは、配給所の手伝いをしていた。

「次の方!」

一人の女性が進み出た。

腕には、小さな子供を抱いている。

「……これ、本当にこの値段で買えるんですか?」

エリクは頷いた。

「はい」

女性は震える手で銅貨を差し出した。

「……ありがとうございます」

袋を受け取った瞬間。

女性は泣き始めた。

「……どうしたんですか?」

エリクが尋ねた。

女性は首を振った。

「……昨日まで、この子に何を食べさせればいいか分からなかったんです」

エリクは黙った。

女性は続けた。

「……もう、食べ物を買えないと思っていました」

エリクは、袋をしっかりと渡した。

「……よかったですね」

女性は何度も頭を下げた。

その後も、人々が続いた。

昼前、列の後方で怒号が上がった。

「前の者が二袋買ったぞ!」

「うちには子供が三人いる!」

人々が押し合い、売り場の木柵が軋んだ。

エリクは台に上がった。

「聞いてください! 今日の分がなくなっても、明日の搬入予定があります。ここに数量を書きます!」

帳簿を開き、到着予定の荷車と袋数を読み上げる。

信じてもらうには、ただ「大丈夫」と叫ぶだけでは足りなかった。

一人の老人が言った。

「昨日も同じことを言われた。昨日は何も来なかった」

エリクは言葉を詰まらせた。

「……そうですよね。だから明日、俺がここにいます。来なければ、俺に文句を言ってください」

笑う者はいなかった。

それでも列は少しずつ静かになった。

夕方、最後の袋を渡したエリクの手は、剣を握った日と同じように震えていた。

今度は誰も傷つけずに済んだ。

そのことが、ひどく嬉しかった。

老人。

子供連れの母親。

仕事を失った職人。

負傷した兵士。

誰もが、食料を受け取るとほっとした表情を浮かべた。

その光景を見て、悠真は静かに呟いた。

「……ようやく、届いた」

カールが隣に立った。

「……ああ」

悠真は続けた。

「畑で作った食料が、やっと必要な人のところへ届いた」

カールは頷いた。

「……長かったな」

悠真は笑った。

「まだ、始まったばかりですけどね」

その日の夕方。

王都の食料価格は、少しずつ落ち着き始めた。

買い占めを恐れていた人々も、必要以上に買い込まなくなった。

市場には、久しぶりに笑顔が戻っていた。

だが、ヴァレン穀物商会では、アコギが帳簿を見つめていた。

「……価格が下がったか」

部下が頷いた。

「はい。王国の緊急販売によって、商会の在庫価格も下落しています」

アコギは、しばらく黙っていた。

そして、「……まだ終わらん」

静かに呟いた。

「食料を支配する方法は、一つではない」

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