第四話 領主にジャガイモを献上したら、税金を五割に増やされそうになった
バルガス侯爵の城館へ向かう馬車には、献上用のジャガイモと、来年植えるための種芋が別々の袋に入っていた。
「同じ芋なのに、なぜ分けるんだ?」とエリクが聞いた。
「こっちは今日食べられる。こっちは来年の食べ物になる。間違えると、村が冬を越せても春に困る」
悠真の言葉に、ハインツは深く頷いた。
城館では、磨き上げられた床に彼らの泥靴の跡が残った。
執事は顔をしかめたが、献上品を見ると大広間へ通した。
バルガス侯爵はジャガイモを一つ持ち上げた。
「麦より多く採れるそうだな。ならば、新作物の税は五割にする」
「五割!?」
エリクが声を上げた。
ハインツが袖をつかむ。
侯爵は薄く笑った。
「豊作なのだろう。何が不満だ」
悠真は種芋の袋を開いた。
「この袋は食べられます。でも食べれば、次の収穫はありません。五割を納めたあとに家族の食事と種を残せない農家は、来年、畑を空けることになります」
「ならば、もっと植えればよい」
「畑を増やすには、水路も農具も人手も必要です」
侯爵は指輪で肘掛けを叩いた。
「つまり、私に税を諦めろと言うのか?」
「違います。来年も、その次も税を納められる畑を残してほしいんです」
「農民の口から領地経営を教わるとはな」
侍従が失笑した。
そのとき、ハインツが一歩進み出た。
「侯爵様。去年、麦の税を納めるため、村の三軒が種まで売りました。その三軒の畑は今年、作付けできておりません」
「……三軒か」
「はい。五割になれば、来年は三軒では済みません」
侯爵の表情が変わった。
怒りではない。
空いた畑からは税が取れないと気づいた顔だった。
「では、収穫を二倍にできるか?」
「約束はできません」と悠真は答えた。
エリクが息を呑む。
ここで強がれば、村が代償を払う。
「ただし、耕作放棄地を調べ、試験区を作り、収穫量を記録します。税率は現状のまま、収量が増えた分だけ税収が増えるか確かめてください」
侯爵はしばらく黙っていた。
「一年だ。収穫記録を持ってこい。増えなければ、この話は終わりだ」
「税率を五割にする話も、保留にしていただけますか」
「……書記、記せ」
書記の羽根ペンが走った。
悠真は署名を確認してから頭を下げた。
帰りの馬車で、エリクが怒鳴った。
「一年で結果が出なかったら、どうするんだ!」
「失敗したら、失敗した数字を持ってもう一度交渉する。嘘の豊作は作れない」
ハインツが苦笑した。
「侯爵の前で、よくそんなことを言えたな」
「怖かったですよ」
悠真は種芋の袋を抱え直した。
「でも、あの場で黙ったら、来年の畑を守れなかった」
エリクは袋の片側を持った。
「だったら、記録は俺もつける。村の約束なんだから」
馬車の窓の向こうに、まだ何も植えられていない畑が続いていた。




