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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第三話 ジャガイモを育てるには領主の許可が必要だと言われたので、村人たちが怒り始めた

アルト村に、領主の使者がやって来た。

馬に乗った兵士が三人。

その中央に、立派な服を着た役人がいた。

「村長はいるか!」

村人たちが集まってくる。

役人は羊皮紙を広げた。

「領主バルガス侯爵の命令を伝える!」

そして、声高らかに読み上げた。

『新たに発見されたジャガイモおよびトウモロコシは、領内の重要農産物と認定する』

「……重要農産物?」

村人が首を傾げた。

『今後、これらの作物を栽培する者は、領主の許可を受けなければならない』

広場が静まり返った。

『また、収穫量の三割を領主税として納めるものとする』

「三割!?」

誰かが叫んだ。

「まだ十分に食べられるほど収穫できていないんだぞ!」

「種芋まで取るつもりか!」

役人は冷たく答えた。

「領主様の命令だ」

そのとき。

「許可を待っている間に、畑は耕せるんですか」悠真が尋ねると、役人は答えに詰まった。

村人の怒りはもっともだったが、無断で作付けを始めれば種芋ごと没収されるかもしれない。

悠真は声を落とした。

「怒るのは後にしましょう。まず、誰が何を禁じているのか、文書で確かめたい」

人混みの中から、一人の少年が進み出た。

エリクだった。

「……それは、おかしい」

役人が眉をひそめた。

「何だ、小僧」

「この作物は、悠真が持ってきたものだ」

「それがどうした?」

「領主様は、何もしていない」

広場がざわついた。

エリクは続けた。

「畑を耕したのは俺たちだ。水を運んだのも俺たちだ。なのに、どうして三割も持っていくんだ?」

役人の顔が赤くなった。

「領地の作物は、領主の保護を受けている!」

「じゃあ、去年、母さんが飢えて倒れたとき、領主様は何をしてくれたんだ?」

沈黙。

役人は答えられなかった。

エリクは拳を握った。

「俺の母さんは、ジャガイモがあったから助かった」

その声は震えていた。

「それを、勝手に取り上げないでくれ!」

兵士が剣に手をかけた。

「無礼者!」

しかし、「待ちなさい!」

声がした。

エリクの母親だった。

まだ少し痩せていたが、自分の足で歩いてきた。

「この子の言っていることは、間違っていますか?」

役人が顔をしかめた。

「女が口を出すな!」

母親は引かなかった。

「私たちは、税を一切払わないと言っているのではありません」

彼女は役人を見つめた。

「せめて、次に植える種芋と、子供たちが冬を越す食料だけは残してください」

役人は言葉に詰まった。

村人たちが次々と声を上げた。

「そうだ!」

「種芋まで取られたら来年は何も作れない!」

「俺たちを飢え死にさせる気か!」

役人は羊皮紙を巻いた。

「……この件は領主様に報告する!」

そして、兵士を連れて立ち去った。

エリクは母親を見た。

「……母さん」

母親は優しく笑った。

「よく言ったわ」

その日の夕方。

ベルナ村にも、同じ命令が届いた。

悠真は羊皮紙を読んで、深いため息をついた。

「……やっぱり、こうなるのか」

ハインツが尋ねた。

その夜、村長たちは徴税の記録を突き合わせた。

昨年の麦税と新作物の税が重なる家もある。

悠真は初めて、自分の持ち込んだ作物が農民の負担を増やしている事実を数字で見た。

「畑を増やす前に、守る約束を作らないといけない」

使者が去ったあと、村の広場では二つの意見がぶつかった。

「明日のうちに植えよう。命令なんか待てるか!」

「兵士に畑を踏み荒らされたら、種も食料も失うぞ!」

誰も間違ったことを言っていない。

それがいちばん厄介だった。

エリクは母の痩せた手を見た。

やっと温かくなったその手を、もう冷たくしたくなかった。

悠真は土に枝で三本の線を引いた。

「すぐ植える畑、許可が出るまで待つ畑、それから、来年用の種を守る場所。全部を一つの賭けにしないでください」

「それで領主が納得するか?」

「分かりません。だから、村ごとに使者の言葉を記録して、同じ条件で交渉します。口約束だと、あとで変えられてしまう」

ハインツはしばらく黙り、村人たちを見渡した。

「怒るのは簡単だ。だが、子供の腹は怒鳴っても膨れん」

広場に沈黙が落ちた。

悠真は、自分がこの世界に持ち込んだものが、初めて村人を危険にさらしていると感じた。

種を渡すだけでは足りない。

種を守る仕組みまで作らなければならない。

「どうする?」

悠真は少し考えた。

「領主様に会いに行きます」

「一人でか?」

「いいえ」

悠真は、アルト村の方角を見た。

「エリクにも来てもらいます」

使者たちが村を去ろうとしたとき、兵士の一人が馬を止めた。

「俺の故郷でも、税を払うために種を食べた年があった」。

役人が振り返ると、兵士は口を閉ざした。

悠真はその沈黙を見送った。

命令を伝える側にも、飢えを知る人間がいる。

だからこそ、言葉だけで争いを終わらせてはいけないのだ。

こうして。

ジャガイモをめぐる最初の争いが始まった。


挿絵(By みてみん)

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