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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第三十八話 国王にジャガイモを献上したら、王宮の食卓が静まり返った

数日後。

王宮。

悠真たちは、国王アルベルト三世への謁見を許された。

大広間。

玉座には、年老いた国王が座っていた。

「……お前が、異国の作物を持ち込んだ男か」

「はい。高橋悠真と申します」

悠真は深く頭を下げた。

国王は頷いた。

「話は聞いている」

そして、尋ねた。

「ジャガイモという作物で、多くの村が救われたそうだな」

「はい」

悠真は答えた。

「ですが、まだ十分ではありません」

国王の目が細くなった。

「……どういうことだ?」

悠真は、王都で見た光景を話した。

飢えた子供たち。

高騰した食料価格。

大量の在庫を抱えた倉庫。

そして、軍の納入記録に見つかった不正の疑い。

国王は、黙って聞いていた。

やがて。

「……なるほど」

静かに呟いた。

「食料が増えても、飢えは消えないか」

悠真は頷いた。

「はい」

そのとき。

王宮の料理人が、ジャガイモ料理を運んできた。

茹でたジャガイモ。

野菜と煮込んだもの。

そして、トウモロコシの粉で作ったパン。

国王は、一口食べた。

「……うむ」

しばらく黙った。

そして、「……これは、うまい」

悠真は微笑んだ。

「ありがとうございます」

国王は続けた。

「食卓を囲んでいる今だからこそ、お前に聞きたいことがある」

「余の宮殿には、毎日食事が届く。なぜ民の家には届かぬ」

悠真は答えを急がなかった。

「作物が足りない地域もあります。でも、今の王都では、買えない人と、売らずに持っている人がいます」

大臣の一人が口を挟んだ。

「商人の財産を無理に奪えば、来年は誰も食料を運ばなくなります」

「その通りです」

悠真は頷いた。

「だから、価格と量を公開し、必要なら王国が正当な対価で買い上げて放出する仕組みが要ります」

国王は、器の中の芋を見た。

「これを作った農民にも、食べられぬ民にも、明日が必要なのだな」

悠真は深く頭を下げた。

王宮の静けさが、今度は無関心ではなく、決断の重さに思えた。

国王は皿に目を戻した。

「しかも、これが痩せた土地でも育つことがあるのか」

「はい。ただし、水や肥料、気候などの条件によります」

国王は頷いた。

「……なるほど」

そして、静かに言った。

「余は、長年、食料不足を解決できずにいた」

大広間が静まり返った。

「収穫が減れば、税を増やす者がいた。食料が不足すれば、価格を吊り上げる者がいた」

国王は悠真を見た。

「だが、お前は食料そのものを増やした」

悠真は首を振った。

「俺だけじゃありません」

「……何?」

「村人たちが畑を耕して、水を運んで、種を残したからです」

悠真は続けた。

「俺のスキルだけでは、王国中の食料を増やすことはできません」

国王は、しばらく黙っていた。

そして、微笑んだ。

「……よく分かった」

国王は玉座の肘掛けに手を置いた。

かつて飢饉の報告を受けたとき、彼は「輸送の遅れ」と書かれた一枚の紙に署名しただけだった。

翌月、救援が間に合わなかった村の名を聞いた。

「余は、数字を見て人を見なかったことがある。救援が届かなかった村の名を、いまだに覚えておる」

大臣たちの視線が集まる。

「今度は、倉庫の中身だけでなく、そこへ届かぬ者の名まで調べさせる」

玉座から立ち上がった。

「王国全土で、新作物の栽培を調査せよ」

大臣たちが驚いた。

「陛下!?」

財務大臣が一歩進み出た。

「陛下。調査官を増やすにも費用がかかります。地方の役人は、帳簿を出すことを嫌がるでしょう」

国王は答えた。

「まず王宮の倉庫から調べよ。地方に命じる前に、余の足元を明らかにする」

大臣たちの表情が変わった。

王宮の備蓄にも、誰かの利益が結びついている。

悠真は国王の横顔を見た。

命令一つで国は変わらない。

だが、その命令が最初に誰を傷つけるかで、本気かどうかは分かる。

国王は続けた。

「そして、食料の備蓄と流通を調べよ」

さらに。

「軍の納入不正についても、徹底的に調査する」

その命令に、大広間がざわめいた。

悠真は深く頭を下げた。

「……ありがとうございます」

国王は静かに言った。

「礼を言うのは、余の方だ」

そして、ジャガイモを見つめた。

「この小さな作物が、王国を変えるかもしれぬな」

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