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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第三十七話 穀物商の帳簿を調べたら、存在しない軍隊に食料が売られていた

翌日。

王国軍の補給監査官が、ヴァレン穀物商会を訪れた。

カールの報告を受け、軍が正式に調査を始めたのだ。

「……帳簿を提出してください」

監査官が言った。

商会の責任者は、顔を引きつらせた。

「……どの帳簿でしょうか」

「軍への納入記録すべてです」

責任者は黙った。

やがて、大量の帳簿が運び込まれた。

悠真とエリクは、監査官の許可を得て、数量の照合作業を手伝った。

「……これ、おかしくない?」

エリクが一つの記録を指さした。

悠真が覗き込む。

【北部第七補給隊】

【乾燥トウモロコシ 200袋】

【納入完了】

悠真は首を傾げた。

「……北部第七補給隊?」

カールが顔を上げた。

「……そんな部隊は存在しない」

沈黙。

エリクが尋ねた。

「……どういうこと?」

カールは答えた。

「架空の部隊だ」

悠真は息を呑んだ。

「……つまり」

カールは頷いた。

「存在しない部隊に、食料を売ったことになっている」

さらに調べると、同じような記録が次々と見つかった。

存在しない補給隊。

実際には届いていない食料。

重複した納入記録。

監査官の顔が険しくなった。

「……これは、重大な不正の疑いがある」

そのとき。

商会の奥から、一人の男が現れた。

アコギ・ヴァレンだった。

「……ずいぶん賑やかですな」

カールが振り返った。

「アコギ殿」

アコギは微笑んだ。

「何か問題でも?」

監査官は、架空の補給隊の名前を赤い墨で囲んだ。

「記載の誤りかもしれません。まず、軍の編成簿と照合します」

カールは黙って頷いた。

怒りで裁けば、同じ不正を繰り返すだけだ。

編成簿に部隊名はない。

輸送隊の通行証にもない。

さらに倉庫番の受領印は、別の日の帳簿から写された形跡があった。

「一件なら間違いで済む」

監査官は言った。

「だが、三件とも同じ印の欠け方をしている」

エリクは息を呑んだ。

「紙の上だけで食料を運んだことにしたのか」

「その可能性が高い。だが、誰が金を受け取ったかは、これから調べる」

悠真は窓の外を見た。

飢えた人々に必要なのは犯人探しだけではない。

調査が終わる前にも、明日の食事は必要だった。

カールは帳簿を示した。

「存在しない軍部隊への納入記録がある」

アコギは眉を上げた。

「……ほう」

「説明していただきたい」

アコギは、しばらく帳簿を見つめていた。

そして、「……記録上の誤りでしょう」

静かに答えた。

カールの目が細くなった。

「……誤り?」

「ええ。大きな商会ですから、多少の記載ミスはあります」

その言葉に、エリクが声を上げた。

「……多少!?」

アコギが少年を見た。

「何だね?」

エリクは拳を握った。

「食料が届かなくて、飢えている人がいるんだぞ!」

アコギは冷たく笑った。

「商売とは、そういうものだ」

悠真が口を開いた。

「……違います」

アコギが振り返った。

悠真は静かに言った。

「商売は、人を飢えさせるためにあるんじゃありません」

アコギは、しばらく悠真を見つめていた。

そして、「……君は、相変わらず甘いな」

微笑んだ。

「食料を作ることと、食料を売ることは別なのだよ」

悠真は答えた。

「……だからこそ、売り方を変えなければならないんです」

「存在しない部隊に売った麦が、どこへ消えたのか」

悠真の問いに、会計係は視線を落とした。

カールは兵籍簿を開いた。

「この部隊番号は、二年前に解散している」

「なら、取引の受領印は誰のものですか」

問いを重ねるたび、机の上に別の書類が増えた。

誰か一人の悪意だけではなく、確認を省く仕組みが横流しを長く隠していた。

「この印は私が押しました」若い会計係が震える声で言った。

「上役に命じられたんです。逆らえば家族の配給を止めると」

カールは記録係に命じた。

「証言も脅迫も、そのまま書け。罪を調べる前に、家族の配給を守る」

悠真は頷いた。

恐怖を残したまま帳簿だけ正しても、次の偽印はなくならない。

その日。

ヴァレン穀物商会への正式な監査が始まった。

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