第三十六話 王都の倉庫を調べたら、飢えている人々の横に大量のトウモロコシが積まれていた
七日後。
王都アルディア。
悠真たちは、巨大な城壁を見上げていた。
「……すごい」
エリクが呟いた。
高い城壁。
石畳の道。
立派な建物。
人々で賑わう市場。
アルト村とは、まるで別世界だった。
だが、悠真は、すぐに違和感に気づいた。
「……あれ?」
路地の隅に、痩せた子供たちが座っていた。
市場の外れには、食べ物を求める人々が列を作っていた。
「……王都でも、飢えているのか」
エリクが呟いた。
カールは頷いた。
「物価が上がっている。食料を買えない者が増えているんだ」
悠真は眉をひそめた。
「……なのに」
その視線の先。
巨大な倉庫が並んでいた。
王都穀物商会。
倉庫の扉には、大きな文字が書かれていた。
【ヴァレン穀物商会所有】
【許可なき搬出を禁ず】
悠真は立ち止まった。
「……ここですか」
カールが頷いた。
「ああ」
三人は、商会の責任者に面会を求めた。
だが、「……在庫は企業秘密です」
責任者は冷たく答えた。
悠真が尋ねた。
「王都で食料不足が起きているんです。販売できる在庫があるかだけでも確認できませんか?」
「ありません」
「……え?」
「現在、一般販売に回せる在庫はありません」
そのとき。
倉庫の奥から、荷車が出てきた。
積まれていたのは、大きな袋。
袋の隙間から、黄色い粒がこぼれていた。
エリクが叫んだ。
「……トウモロコシ!」
責任者の顔が変わった。
「……何?」
悠真も袋を見つめた。
「……あれは、俺たちが育てた作物と同じものです」
責任者は慌てて言った。
倉庫の外で、小さな女の子が母親の袖を引いていた。
「お母さん、あの袋の中、パン?」
母親は答えなかった。
値札を見る前から、買えないと知っていた。
悠真は倉庫の壁に手を当てた。
冷たい石の向こうに食料があり、こちら側に飢えた人がいる。
「中を見せてください」
「許可がありません」
責任者は繰り返した。
カールが軍の補給証票を示しても、商会は正式な監査命令を求めた。
「ならば命令を取る」
カールの声は低かった。
その夜、悠真は倉庫の見取り図と搬入口の数を紙に書いた。
怒りだけで扉を破れば、明日の輸送が止まる。
必要なのは、誰が何を隠し、どこへ運ぶはずだったのかを示す証拠だった。
「これは、軍への納入予定品です!」
カールが眉をひそめた。
「……軍への?」
「はい!」
カールは静かに尋ねた。
「どの部隊への納入だ?」
責任者は答えられなかった。
「……それは」
カールは軍の身分証を示した。
「私は王国軍百人隊長、カール・フリックだ」
責任者の顔が青ざめた。
「……軍の納入記録を確認したい」
長い沈黙。
そして、「……少々、お待ちください」
責任者は奥へ消えた。
エリクは、倉庫を見つめていた。
「……悠真」
「ん?」
「食料は、あるんだな」
悠真は頷いた。
「……少なくとも、あの倉庫にはある」
エリクは拳を握った。
「……なのに、外では子供が飢えてる」
悠真は答えられなかった。
その夜。
三人は、王都の宿で帳簿を整理した。
カールが言った。
「……軍への納入記録に、不自然な点がある」
悠真が尋ねた。
「どんな?」
「同じ食料が、複数の部隊へ納入されたことになっている」
エリクは驚いた。
「……同じ食料?」
カールは頷いた。
「帳簿上だけで、何度も売られている可能性がある」
悠真は静かに呟いた。
「……食料が足りないんじゃない」
そして、「食料の流れが、おかしくなっているんだ」




