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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第三十話 十万の敵軍が二つに割れたので、戦争より先に食料会議が始まった

翌朝。

ヴァルシア王国軍は、大きく揺れていた。

ハインリヒ将軍に従う部隊。

そして、ルドルフ中尉を支持する部隊。

軍の内部で、意見が分かれていた。

「……戦争を続けるべきだ!」

「いや、食料を確保する方法を探すべきだ!」

「敵国の作物を奪えばいい!」

「奪うために戦えば、さらに食料が減る!」

議論は激しくなった。

しかし、どちらの部隊も、すぐに武器を向け合うことはなかった。

兵士たちは、同じ国の人間だったからだ。

国境の砦。

会議の席に置かれたのは、軍旗ではなく、三枚の紙だった。

一枚目は、敵味方を含めた負傷者の数。

二枚目は、残された食料の推計。

三枚目は、国境周辺の農地と水路の地図。

「今日、全員を満腹にはできません」

悠真は最初にそう告げた。

ヴァルシア側の将校が眉をひそめる。

「ならば、何のための会議だ」

「明日、もっと多くの人を飢えさせないためです」

エリクが続けた。

「まず民間人の避難路を確保する。捕虜と負傷者には水を渡す。軍の補給と村の食料は別に管理する」

「我々だけが武器を置けというのか」

カールは首を振った。

「双方が、決めた場所から部隊を動かさない。監視役を双方から出す」

ルドルフが問う。

「種芋の提供は?」

悠真は慎重に答えた。

「試験用の少量からです。栽培には季節も水も必要です。冬を越す食料とは分けて考えましょう」

そのとき、伝令が駆け込んだ。

「ハインリヒ将軍の本隊が動き始めました!」

会議場に緊張が走る。

ルドルフは机の上の三枚の紙を見つめた。

「……まだ終わっていない。むしろ、ここからだ」

悠真は頷いた。

「はい。だから、この紙を持って帰れるようにしましょう」

カールは報告を受けていた。

「……敵軍が分裂?」

「はい。進軍を続ける部隊と、停戦を求める部隊に分かれています」

カールは考え込んだ。

「……今が機会かもしれん」

悠真が尋ねた。

「何の機会ですか?」

「正式な停戦協議だ」

エリクの目が輝いた。

「……本当に?」

カールは頷いた。

「敵軍の一部が交渉を望んでいるなら、話し合いの場を作れる」

悠真は笑った。

「じゃあ、食料会議を開きましょう」

「……食料会議?」

「はい」

悠真は地図を広げた。

「戦争の原因が食料不足なら、食料をどう増やすか話し合えばいいんです」

カールは苦笑した。

「……軍議ではなく、農業会議か」

「そうです」

悠真は真剣に答えた。

「畑の話をするために、剣を抜く必要はありませんから」

数日後。

国境の中立地帯。

小さな天幕が設けられた。

アルディナ王国側。

カール。

悠真。

会議の終わりに、双方は三つだけ署名した。

負傷者への給水、民間人の避難路、翌日の日没までの部隊移動停止。

食料の分配も和平も、まだ決まっていない。

悠真は署名を見つめた。

「今日は戦争を終わらせられなかった。でも、明日話し合う人間を残せた」

エリク。

そして、農業担当の役人たち。

ヴァルシア王国側。

ルドルフ中尉。

補給担当官。

数人の農業技術者。

双方が向かい合った。

最初は、緊張した空気だった。

だが、悠真がジャガイモを机に置いた瞬間。

空気が変わった。

「……これが、例の作物か」

ヴァルシア側の農業技術者が尋ねた。

悠真は頷いた。

「はい」

「どれくらい増える?」

「土地や気候、種芋の状態によります」

「水は?」

「必要です。特に成長期には不足させない方がいい」

「肥料は?」

「必要です。土地改良だけでは養分は増えません」

質問が次々と飛んだ。

悠真は、一つひとつ答えた。

エリクも説明した。

「種芋は、健康な株から選びます」

「トウモロコシは、十分に熟した穂を乾燥させて種にします」

「ジャガイモの芽や緑色になった部分には毒があるので、注意してください」

ヴァルシア側の技術者たちは、真剣に記録していた。

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