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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第二十八話 敵軍で反乱が起きたので、エリクは剣を抜かずに国境へ向かった

国境の砦。

「……敵軍で反乱?」

エリクが驚いた。

カールは頷いた。

「一部の部隊が、進軍命令を拒否している」

悠真が尋ねた。

「……理由は?」

「食料不足だ」

カールは続けた。

「兵士たちは、農業技術の提供を受け入れるよう要求しているらしい」

エリクは黙った。

そして、「……会いに行こう」

カールが眉をひそめた。

「剣を持たずに行くなんて、自殺行為だ」

砦の将校はエリクを止めた。

エリクは首を振る。

「武器を隠して近づけば、向こうは交渉だと思わない」

カールは地図に指を置いた。

「それでも護衛はつける。白旗を掲げ、双方から見える場所で話せ。約束の刻限を過ぎたら引き返せ」

悠真は小さな布袋をエリクへ渡した。

中には、乾燥した種が入っている。

「これを見せて。食料をすぐに生み出す魔法じゃない。でも、戦争のあとに残るものだ」

エリクは袋を握りしめた。

「……母さんがくれた種と、同じだな」

国境へ歩き出すと、背中に砦の視線が突き刺さった。

敵を信用したわけではない。

それでも、信用できる相手が一人もいなければ、戦争は終わらない。

「誰に?」

「その兵士たちに」

「危険だぞ」

「分かってる」

エリクは頷いた。

「でも、戦いたくない人たちがいるなら、話せるかもしれない」

悠真も頷いた。

「俺も行きます」

カールは深いため息をついた。

「……まったく」

そして、立ち上がった。

「私も同行する」

国境の川辺。

そこには、ヴァルシア王国軍の兵士たちが集まっていた。

およそ百人。

武器は持っている。

だが、剣は抜いていなかった。

その中央に、一人の若い将校が立っていた。

「……お前たちが、アルディナの使者か?」

カールが答えた。

「そうだ」

若い将校は名乗った。

「ヴァルシア王国軍、ルドルフ・ベルナー中尉だ」

カールは頷いた。

「カール・フリック百人隊長だ」

二人は向かい合った。

ルドルフが尋ねた。

「……本当に、食料を増やす方法があるのか?」

悠真が進み出た。

「あります」

そして、袋を開いた。

中には、ジャガイモの種芋と、乾燥させたトウモロコシの種子が入っていた。

「これです」

ルドルフは驚いた。

「……これが?」

悠真は頷いた。

「はい。育てれば増えます。ただし、水と肥料、適切な土地が必要です」

エリクが剣を置いたのは、敵を信じたからではなかった。

背後には武装した護衛が距離を取っていた。

彼は両手を見せ、ゆっくり進んだ。

「撃つなら俺だけを撃て。畑で待つ子供たちには手を出すな」

ルドルフは、種芋を見つめた。

「……本当に、これで飢えを減らせるのか?」

悠真は答えた。

「すぐに全員を救えるわけではありません」

そして、続けた。

「でも、戦争で畑を焼くよりは、ずっと多くの食料を作れる可能性があります」

ルドルフは黙った。

エリクが口を開いた。

「俺の母さんは、飢えて死にかけた」

ルドルフが顔を上げた。

「……そうなのか?」

「ああ」

エリクは頷いた。

「でも、この作物があったから助かった」

そして、静かに言った。

「だから、俺は戦争を止めたい」

ルドルフは、しばらくエリクを見つめていた。

そして、「……俺もだ」

小さく呟いた。

「俺も、もう戦いたくない」

その日。

国境で、二人の若者が握手を交わした。

一人は、母親を飢えから救われた少年。

もう一人は、飢えた軍隊を率いる若い将校。

二人の願いは、同じだった。

家族を、飢えさせたくない。

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