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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第二十七話 敵軍の兵士に農業を教えたら、ハインリヒ将軍の命令を拒む者が現れた

ヴァルシア王国軍。

前線陣地。

「……何だ、この紙は?」

一人の兵士が尋ねた。

隣の兵士が答えた。

「ジャガイモの育て方らしい」

「……ジャガイモ?」

「ああ。国境の向こうで育てている作物だ」

紙には、簡単な栽培方法が書かれていた。

種芋を植える。

水を与える。

土を寄せる。

収穫する。

そして、芽や緑色になった芋の危険性。

薄い紙は、兵士たちの手を渡るたびに皺だらけになった。

「種芋は切って植える、とあるぞ」

「腐ったらどうする?」

「乾かすんだと。でも水も土も要る。紙を読んだだけで明日食えるわけじゃない」

若い兵士の言葉に、周囲が黙った。

そこへ補給係が現れた。

「今夜の配給は半分だ。明日の分は、まだ届かない」

「なら、どこへ進むんです?」

「命令だ」

「命令で腹は膨れません!」

声を上げた兵士の膝は震えていた。

反抗すれば軍法で裁かれる。

「……これで食料が増えるのか?」

「らしい」

兵士は紙を見つめた。

「……だったら、戦争なんてしなくてもいいんじゃないか?」

隣の兵士は黙った。

そのとき。

上官が現れた。

「何をしている!」

兵士たちは慌てて立ち上がった。

上官は紙を奪った。

「……敵国の宣伝か!」

「違います!」

兵士が叫んだ。

「これは、作物の育て方です!」

上官は怒鳴った。

「敵の言葉を信じるな!」

そして、紙を破り捨てた。

だが、別の兵士が口を開いた。

「……隊長」

「何だ!」

「俺の村では、去年、弟が飢えて死にました」

上官は黙った。

兵士は続けた。

「もし、この作物で食料が増えるなら……」

拳を握った。

「俺は、戦争よりも畑を耕したいです」

沈黙。

さらに、別の兵士が言った。

「俺もです」

「俺も……」

上官は顔をしかめた。

「……貴様ら!」

しかし、兵士たちは、もう黙らなかった。

「俺たちは、食料が欲しいんです!」

「敵国の村を焼きたいわけじゃない!」

「家族を食べさせたいだけなんです!」

その声は、少しずつ広がっていった。

栽培方法を読み始めた兵士たちは、すぐに軍を捨てたわけではない。

故郷の家族を人質に取られた者もいた。

ルドルフは彼らの名前を記録し、命令拒否の責任を自分が負うと告げた。

初めて、反対の声が一つにまとまった。

ある若い兵士は、命令書の前で震えていた。

故郷には幼い妹がいる。

命令に逆らえば、家族にまで疑いが及ぶかもしれない。

「お前まで残らなくていい」とルドルフは言った。

「でも、俺が行けば、あの畑を焼くことになります」

兵士は震える手で命令書を机に戻した。

勇敢だったからではない。

怖いまま、選んだのだ。

ルドルフは命令書を回収せず、机の上に置いたままにした。

「署名しなければ軍法会議だ。私も庇いきれない」

兵士は頷いた。

背後には、同じ村から徴兵された二人が立っている。

「俺の村は、去年の冬に種麦まで食べました。畑を焼いたら、あの村も同じになる」

「だから命令に背くのか」

「いいえ。食料を確保する別の命令をください。運ぶ仕事ならします」

ルドルフは答えなかった。

代わりに、部隊の食料残量と畑の位置を記した報告書を作り始めた。

反抗の言葉を、軍が無視できない数字に変えるためだった。

数日後。

ハインリヒ将軍のもとに、報告が届いた。

『前線部隊の一部で、進軍命令への不服従が発生』

『兵士たちが、新作物の栽培技術提供を要求』

将軍は激怒した。

「……反乱だ!」

副官が頭を下げた。

「しかし、兵士たちは食料を求めているだけです」

「黙れ!」

将軍は机を叩いた。

「軍人は命令に従えばよい!」

そして、命じた。

「首謀者を捕らえろ!」

副官は青ざめた。

「……処刑するのですか?」

ハインリヒは冷たく答えた。

「必要ならばな」

だが、その命令が、さらに多くの兵士たちの怒りを買うことになる。

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