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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第二十六話 敵軍の兵士が脱走してきたので、ジャガイモを食べさせることにした

深夜。

アルト村の見張り台。

「……誰だ!」

自警団の若者が叫んだ。

暗闇の中から、一人の男が現れた。

軍服を着ている。

だが、武器は持っていなかった。

「……助けてくれ」

男は、かすれた声で言った。

「……食べ物を」

そして、その場に倒れた。

翌朝。

エリクは、共同炊事場で男を見つめていた。

「……敵兵?」

カールが頷いた。

「ああ。ヴァルシア王国軍の兵士だ」

男は衰弱していた。

軍服は汚れ、靴は片方しかなかった。

もう片方の足には、血のにじんだ布が巻かれていた。

自警団は身元と武器の有無を確認し、離れた小屋に見張りを置いていた。

悠真が尋ねた。

「……どうして、ここまで?」

男は弱々しく答えた。

「……逃げてきた」

「脱走したのか?」

カールが尋ねた。

男は頷いた。

「……食料が、ない」

沈黙。

男は続けた。

「補給が遅れている。配給が減った。兵士たちは、腹を空かせている」

カールの表情が険しくなった。

「……十万の軍勢で?」

「……ああ」

男は目を閉じた。

「将軍は、敵国の食料を奪えばいいと言っている」

悠真は黙った。

やはり。

敵軍は、補給に苦しんでいた。

エリクが尋ねた。

「……食べるか?」

男は目を開いた。

「……何?」

エリクは、ジャガイモの煮込みを差し出した。

「食べ物だ」

男は驚いた。

「……俺は、敵だぞ」

エリクは頷いた。

「知ってる」

「……それなのに?」

エリクは答えた。

「腹が減ってるんだろ?」

男は、しばらく黙っていた。

そして、震える手で器を受け取った。

「……ありがとう」

一口。

脱走兵を助ければ、敵に情報が漏れるかもしれない。

カールは尋問を命じ、悠真は水を渡した。

「話は飲ませてからでも聞けます」脱走兵は椀を両手で抱えた。

「俺たちは、戦うためじゃなく、食べるためにここへ来た」

二口。

男の目から、涙がこぼれた。

「……温かい」

男は器を見つめた。

「弟は、軍に入れば食えると言われていました。行軍の途中で倒れたんです」

悠真は返す言葉を失った。

目の前の一人を救っても、向こう岸にはまだ大勢の飢えた兵士がいる。

エリクは、その姿を見つめた。

敵兵も、自分たちと同じ人間だった。

腹が減る。

家族がいる。

生きたいと思っている。

その夜。

カールは、男から詳しい話を聞いた。

敵軍の補給状況。

兵士たちの不満。

将軍の命令。

そして、「……兵士の中には、戦争を望んでいない者も多い」

男は言った。

カールは頷いた。

「……そうか」

悠真が尋ねた。

「その人たちに、農業の話を伝えられませんか?」

男は顔を上げた。

「……農業?」

悠真は答えた。

「戦争をしなくても、食料を増やせる方法があるって」

男は、しばらく考えていた。

そして、「……伝えたい」

静かに言った。

「俺の仲間にも、腹いっぱい食べてほしい」

「戻れば脱走兵として裁かれるかもしれない」とカールが告げた。

男は器を両手で包んだ。

「それでも、あいつらはまだ向こうで飢えています」

悠真は無理に送り返さなかった。

農法を書いた紙と、国境で受け渡せる種芋を用意することにした。

善意だけで人を危険に追いやってはいけない。

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