第二十四話 敵軍が最初の村を占領したのに、食料がほとんど見つからなかった
ヴァルシア王国軍の先遣隊が、国境のローデン村を占領した。
人口およそ八十人。
住民の大半は避難しており、家々には火の消えた竈だけが残っていた。
「倉庫を調べろ!」
指揮官の命令で兵士たちが走った。
だが、見つかったのは麦がわずかと、封をされた小さな種袋だけだった。
「ジャガイモは?」
「ありません!」
「トウモロコシは?」
「来年用の種だけです」
若い兵士が袋に手を伸ばした。
腹が鳴る。
「これを煮れば、今夜の分には……」
上官が手首をつかんだ。
「それを食えば、戻ってきた村人は春に何を植える」
「では、俺たちは何を食べるんです!」
誰も答えられなかった。
戸口には子供の木靴が片方だけ残っていた。
指揮官はそれを拾い、棚に戻した。
「家を焼くな。井戸を汚すな。村人が戻れなくなる」
「敵の村ですよ」
「占領地を墓場にしても、腹は膨れん」
食料は避難民とともに後方へ運ばれ、運びきれない分は周辺の村に分散していた。
敵軍が奪える蓄えはほとんどなかった。
先遣隊の報告を読んだハインリヒ将軍は机を叩いた。
「新作物で豊かになった村ではなかったのか!」
副官が答えた。
「豊かになったからこそ、逃げる準備ができたのでしょう。こちらの補給馬車は二日遅れています」
「次の村へ進め」
「進むほど食料が減ります」
「奪えばよい!」
副官は黙った。
奪うものがない村をいくつ占領しても、兵士の腹は満たせない。
一方、アルト村ではエリクがローデン村の避難民を迎えていた。
「子供と老人を先に! 荷物は共同倉庫の横へ!」
一人の老人が不安そうに聞いた。
「わしらは何も持ってこられなかった。本当に食べさせてもらえるのか」
「はい。ただ、こちらも無限にあるわけじゃありません。人数を記録して、みんなで分けます」
エリクは答えた。
炊事場で母親がジャガイモの入った器を少女に渡した。
「熱いから、気をつけてね」
少女は器を両手で包み込んだ。
「……ありがとう」
エリクは母親の横顔を見た。
かつて食べ物がなく、倒れかけていた人が、今は誰かに食事を配っている。
「母さん、生きていてくれてよかった」
母親は笑った。
「何度でも言うのね」
「何度でも言うよ」
その夜、ローデン村から来た老人は、自分が持っていた最後の種袋を共同倉庫に預けた。
「春になったら、村へ持って帰りたい」
エリクは袋に村の名を書いた。
「必ず、戻す場所を残しましょう」




