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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第二十一話 十万の敵軍が迫っているのに、悠真はジャガイモの収穫を始めた

アルディナ王国。

北西部。

「……十万!?」

エリクが叫んだ。

カールは頷いた。

「ヴァルシア王国が、大規模な軍の動員を始めた」

悠真は黙っていた。

「……目的は?」

カールが答えた。

「食料だ」

沈黙。

エリクは拳を握った。

「……俺たちの畑を奪うつもりなのか」

カールは頷いた。

その朝、収穫場に集まった村人は、誰も笑っていなかった。

「戦争が始まるなら、畑なんて放っておいて逃げた方がいい」

若い農夫の言葉に、誰も反論できない。

悠真は掘り上げた芋を掌に載せた。

まだ湿った土がついている。

「逃げるなら、なおさら収穫しよう。地中に置いたままでは持っていけない」

「全部持ち出せるのか?」

「無理だ。だから種芋、食用、避難民向けに分ける。運べない分は共同倉庫へ移す」

「敵に奪われたら?」

悠真は答えに詰まった。

村を守るために兵を置けば、今度はその兵が食べる分が必要になる。

「……奪われるかもしれない。でも、何もしなければ確実に腐る」

沈黙のあと、年老いた農夫が鍬を握り直した。

「だったら掘るしかねえ。子供が腹を空かせて逃げるのは、もう見たくない」

一人、また一人と畑に戻った。

土を掘る音が、戦の知らせより大きく響き始めた。

「可能性は高い」

ハインツが青ざめた。

「……そんな」

村人たちも不安そうだった。

「十万の軍勢なんて、勝てるわけがない!」

「逃げるしかないのか!?」

「畑はどうする!?」

そのとき。

悠真が口を開いた。

「……収穫しましょう」

全員が振り返った。

「……え?」

エリクが尋ねた。

「悠真、何を言ってるんだ?」

悠真は畑を指さした。

「ジャガイモです」

「……今、それどころじゃないだろ!」

「今だからこそです」

悠真は真剣な顔で言った。

「敵が来る前に、収穫できるものを収穫します」

カールが眉をひそめた。

「……なるほど」

悠真は続けた。

「収穫したものを、村ごとに分散して保管します。全部を一つの倉庫に置いていたら、奪われたときに終わりです」

ハインツが頷いた。

「……確かに」

「それから、種芋と種子は別に保管します」

エリクが尋ねた。

「……どうして?」

悠真は答えた。

「食料を奪われても、種が残っていれば、また育てられるから」

エリクは息を呑んだ。

悠真は続けた。

「戦争で畑が荒らされても、種があればやり直せる」

長い沈黙。

そして、エリクが頷いた。

「……分かった」

少年は立ち上がった。

「みんな! 収穫するぞ!」

村人たちが動き始めた。

ジャガイモを掘る。

トウモロコシを収穫する。

種芋を選ぶ。

乾燥させた種子を袋に詰める。

食料を分散して保管する。

収穫を急ぐ畑の脇で、避難する家族が荷物を縛っていた。

エリクは作業を止めて子供を馬車に乗せた。

「全部は運べない」悠真は頷く。

「だから残す畑を決める。人の命を先にする」刈り残した作物が風に揺れた。

その作業は、夜遅くまで続いた。

悠真は畑を見つめた。

「……頼む」

小さく呟いた。

「みんな、生き延びてくれ」

その夜。

エリクの家では、母親が夕食を作っていた。

ジャガイモの煮込み。

麦の粥。

そして、少しの野菜。

クリスが笑った。

「お兄ちゃん、今日はいっぱい働いたね!」

エリクは頷いた。

「……うん」

母親が尋ねた。

「何かあったの?」

エリクは少し迷った。

そして、答えた。

「……戦争になるかもしれない」

母親の手が止まった。

「……そう」

エリクは続けた。

「でも、俺が守るから」

母親は息子を見つめた。

そして、静かに笑った。

「……無理をしないで」

エリクは頷いた。

戦いが始まれば、畑の作物は踏み荒らされる。

悠真は収穫を急がせる一方、種芋だけは別の場所へ運ばせた。

「今日の兵糧に全部使えば、来年は誰が食べるんだ」エリクの問いに、誰もすぐには答えられなかった。

「分かってる」

母親は、息子の手を握った。

「あなたが生きて帰ってくることが、一番大切なのよ」

エリクは、その言葉を胸に刻んだ。

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