第十八話 国境の砦でジャガイモを育てたら、敵国の兵士が畑を見に来た
王国北部。
ヴァルシア王国との国境。
そこには、小さな砦があった。
兵士は、およそ三百人。
周囲には荒れた土地が広がっていた。
「……ここで育てるのか?」
カールが尋ねた。
悠真は頷いた。
「はい。まずは試験栽培です」
エリクも同行していた。
「土が硬いな」
「そうだね」
悠真は地面に手を当てた。
「……土地改良」
淡い緑色の光が広がる。
土が柔らかくなった。
兵士たちが驚いた。
「……魔法か!?」
「すごいぞ!」
悠真は苦笑した。
「水と肥料は必要ですからね」
兵士たちは畑を耕した。
ジャガイモを植える。
トウモロコシも少し蒔いた。
畑は、兵士たちが思っていたより小さかった。
「三百人分の食事には、到底足りませんね」
カールが言う。
悠真は頷いた。
「最初から全員を養う畑じゃありません。ここで何が育つか、どれだけ水が要るかを調べる畑です」
砦の井戸から水を運ぶ兵士が、肩で息をしていた。
「畑を広げたら、飲み水が足りなくなるぞ」
「だから、無理に広げない。水が確保できる場所と、季節を先に調べます」
兵士の一人が残念そうに笑った。
「魔法でも、腹いっぱいにはしてくれないのか」
「魔法は手伝ってくれる。でも、食べ物を作るのは土と水と人の仕事だよ」
数日後。
成長促進の効果もあり、芽が伸び始めた。
兵士たちは大喜びだった。
「本当に育った!」
「これなら食料が増える!」
「もう、薄い麦粥だけじゃなくなるのか!」
エリクは笑った。
「ちゃんと育てればな!」
そのとき。
見張りの兵士が叫んだ。
「国境の向こうに人影!」
カールが振り返った。
「……敵兵か?」
川の向こう側。
ヴァルシア王国の兵士が、数人立っていた。
武器は持っている。
だが、攻撃する様子はない。
一人が、大声で叫んだ。
「おい!」
カールが警戒した。
「何だ!」
国境の土は、故郷の畑より石が多かった。
試験区画の半分は芽を出さず、残りも水不足で葉が丸まった。
悠真は失敗した畝を隠さず、兵士に見せた。
「敵にも味方にも、同じ土の限界があります」
敵兵は、畑を指さした。
「……それは、何を育てているんだ!?」
エリクは驚いた。
「……畑を見に来たのか?」
悠真は苦笑した。
「そうみたいだね」
敵兵は続けた。
「こっちは食料が足りないんだ!」
その言葉に、カールの表情が変わった。
「……何?」
敵兵は叫んだ。
「そっちの作物は、食べられるのか!?」
悠真は、川の向こうを見つめた。
「……向こうも、飢えているのか」
エリクは拳を握った。
「……敵なのに?」
悠真は静かに答えた。
「敵でも、腹は減るよ」
その言葉に、エリクは黙った。
川の向こうの兵士は、槍を地面に立てたまま動かなかった。
こちらの兵士も弓を下ろさない。
悠真は一歩前に出ようとして、カールに腕をつかまれた。
「声は届いても、矢も届く距離だ」。
悠真は立ち止まった。
飢えを知ったからといって、すぐに信用し合えるわけではない。
国境の向こうにも。
飢えた人々がいた。




