第十五話 王国軍の兵士にジャガイモを食べさせたら、軍の食料事情が明らかになった
数日後。
カールが再びアルト村を訪れた。
今度は、兵士を五人だけ連れていた。
「……また来たんですか?」
エリクが尋ねた。
「ああ。少し調べたいことがある」
「何ですか?」
「ジャガイモという作物だ」
悠真が笑った。
「それなら、ちょうど収穫したところです」
共同炊事場。
悠真はジャガイモを茹で、兵士たちに振る舞った。
もちろん、芽や緑色になった部分の危険性も説明した。
カールは一口食べた。
「……うまい」
「でしょう?」
「これが、あの畑で育つのか?」
「はい」
カールは考え込んだ。
「……軍の食料に使えるかもしれない」
悠真が尋ねた。
「軍の食料は、そんなに不足しているんですか?」
カールの表情が曇った。
「……不足している」
兵士たちも黙った。
カールは続けた。
「国境の砦では、麦の配給が減っている」
「……どうして?」
エリクが尋ねた。
「収穫不足だ。さらに、輸送途中で食料が失われることもある」
悠真は眉をひそめた。
「……失われる?」
「盗賊に襲われることもある。だが、それだけではない」
カールは声を落とした。
「帳簿上では届いたことになっている食料が、実際には届いていない」
悠真は息を呑んだ。
「……横流しですか?」
カールは答えなかった。
しかし、その沈黙が答えだった。
エリクは拳を握った。
「……兵士まで飢えているのか」
カールは頷いた。
「軍の食料が不足すれば、兵士は弱る」
そして、静かに言った。
「国境で戦争が起きれば、もっと多くの食料が必要になる」
悠真は考え込んだ。
「……戦争」
その言葉が、重く響いた。
カールは立ち上がった。
「悠真」
「はい」
「この作物を、軍にも広められないか?」
悠真は少し考えた。
「……できます」
カールの顔が明るくなった。
軍の兵士が食べたジャガイモは、村の冬の備蓄から出したものだった。
歓声が上がる中、悠真だけは帳簿の数字を消せずにいた。
「一食を助けることと、軍全体を養うことは違う」カールは静かに頷いた。
しかし、悠真は続けた。
「ただし、条件があります」
「条件?」
「村人たちの種芋を取り上げないことです」
カールは黙った。
悠真は真剣な顔で言った。
「軍を救うために、農民を飢えさせるわけにはいきません」
長い沈黙。
そして、カールは頷いた。
「……分かった」
協定の前に、エリクはひとつ尋ねた。
「百袋納めたら、村には何袋残る?」
悠真は計算板を出した。
種芋、各家の食料、傷みを見込んだ分を差し引くと、軍に回せるのは注文の半分にも満たない。
「……足りませんね」
カールの顔が曇る。
「だが、村から奪うわけにはいかん」
「初回は余剰分だけ。足りない分は他の村と相談してください。次の作付けに必要な種まで売れば、来年は軍も村も飢えます」
カールは契約書の納入量を書き直した。
兵士の腹を満たす約束が、農民の明日を奪ってはならなかった。
カールの副官が低い声で抗議した。
「兵の食事が減れば、国境の守りが薄くなります」。
カールは黙って空の椀を見た。
「だからこそ、来年の収穫を潰す命令は出せん」。
副官は納得しなかった。
それでもカールは署名した。
軍を率いる責任は、目の前の兵だけでなく、次の冬の兵まで数えることだった。
その日。
王国軍と三つの村の間で、最初の食料供給協定が結ばれた。




