第十四話 自警団を作ったら、王国軍の百人隊長が反乱軍だと言ってやって来た
一週間後。
アルト村に、王国軍がやって来た。
兵士二十人。
その先頭に立つのは、若い百人隊長だった。
カール・フリック。
まだ二十代半ばの軍人である。
「この村に、武装した集団がいると聞いた」
カールは馬から降りた。
エリクが進み出る。
「俺たちです」
カールは少年を見た。
「……お前が指揮官か?」
「自警団長です」
「何のために武器を集めた?」
「食料を守るためです」
カールは眉をひそめた。
「食料?」
エリクは焼け焦げた共同倉庫を指さした。
「ここが襲われたんです」
カールは倉庫を見た。
壁には、まだ黒い焦げ跡が残っていた。
「……誰に?」
「雇われた男たちです」
「証拠は?」
悠真が進み出た。
「捕まえた三人がいます。証言も記録しました」
カールは驚いた。
「……記録?」
「はい」
悠真は帳簿を差し出した。
襲撃日時。
被害状況。
目撃者。
捕らえた男たちの証言。
カールは黙って読み進めた。
「……ずいぶん詳しいな」
「後で、誰が何をしたのか分からなくならないようにしました」
カールは顔を上げた。
「……なるほど」
そのとき。
エリクの母親が、広場へ出てきた。
「隊長様」
「何だ?」
「この子たちは、反乱を起こそうとしているのではありません」
彼女は深く頭を下げた。
「私たちは、ただ食べ物を守りたいだけなのです」
カールは母親を見た。
痩せた頬。
粗末な服。
しかし、目には強い光があった。
「……食料は足りているのか?」
母親は答えた。
「以前よりは、ずっと」
「……以前は?」
「私は、飢えて死にかけました」
カールは黙った。
母親は続けた。
「この子たちが育てたジャガイモのおかげで、今は生きています」
カールは、エリクを見た。
「……そうなのか?」
エリクは頷いた。
「はい」
カールの副官が低い声で告げた。
「隊長。武装した農民を見逃したと報告されれば、こちらが処罰されます」
広場の空気が凍った。
カールは焦げた壁と、震える母親の手を交互に見た。
「自警団の人数、武器、活動範囲を提出させろ。軍の監督下に置く。無届けの遠征は禁止だ」
エリクが唇を噛む。
「俺たちは信用されていないんですね」
「信用したいから、記録を残す。お前たちが反乱軍ではないと、私が証明できるようにな」
その言葉に、悠真は初めてカールの顔をまっすぐ見た。
カールは武器の数を数えた。
「農民の剣は、王国には脅威にも見える」エリクは一歩前に出た。
「なら、巡回記録も見てください。誰を守り、誰を傷つけていないか」カールは帳面の余白に、軍の監督者として署名した。
カールは長い間、何も言わなかった。
やがて。
「……自警団の武装は、必要最小限にしろ」
エリクが顔を上げた。
「……え?」
「領主への反乱に使うな。村の外で勝手に戦うな」
カールは続けた。
「そして、襲撃事件については、私が調べる」
悠真は驚いた。
「調べていただけるんですか?」
「当然だ」
カールは答えた。
「放火は犯罪だ。誰が命じたかに関係なくな」
その言葉を聞いて、エリクは初めて笑った。
「……ありがとうございます!」
しかし、カールが村を離れた直後。
部下の一人が尋ねた。
「隊長、本当に調べるのですか?」
「ああ」
「相手は、バルガス侯爵の関係者かもしれません」
カールは馬上で答えた。
「……だからこそだ」
若い百人隊長は、静かに呟いた。
「軍は、誰のために存在する?」
部下は答えられなかった。




