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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第百十二話 最後の一粒を奪い合っていた世界で、子供たちが種を分け合うようになった

さらに、十年後。

アルディナ王国。

ベルナ村。

春。

「……先生!」

一人の少女が、悠真へ駆け寄ってきた。

悠真は、顔を上げた。

「……どうしたの?」

少女は、小さな袋を差し出した。

「……これ、見てください!」

悠真は、袋を開いた。

中には、山麦の種子が入っていた。

「……山麦だね」

少女は頷いた。

「はい!」

「でも、普通の山麦より、少し大きいんです!」

悠真は、目を見開いた。

「……本当?」

少女は続けた。

「学校で、何年も選んで育てたんです!」

悠真は、種子を見つめた。

確かに、粒の大きいものが混じっていた。

「……すごいな」

少女は、嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます!」

悠真は尋ねた。

「……これから、どうするの?」

少女は答えた。

「隣の村にも分けます!」

悠真は、顔を上げた。

「……どうして?」

少女は、不思議そうに答えた。

「……だって」

そして、「みんなで育てた方が、たくさん増えるでしょう?」

悠真は、しばらく黙った。

そして、静かに笑った。

「……そうだね」

その日の午後。

悠真は、ベルナ村の古い畑を訪れた。

そこは、三十年前。

最初にジャガイモを植えた場所だった。

「……懐かしいな」

悠真は、静かに呟いた。

隣には、エリクがいた。

「……ああ」

二人とも、すっかり年を重ねていた。

エリクは、笑った。

「……覚えてるか?」

悠真が顔を上げた。

「……何を?」

「最初の収穫だよ」

悠真は笑った。

「……もちろん」

エリクは続けた。

「五個のジャガイモから、あんなに増えるなんて思わなかった」

「……俺も」

二人は、笑い合った。

そのとき。

遠くから、子供たちの声が聞こえた。

「……こっちの畑にも種をまこう!」

「種が足りないよ!」

「じゃあ、半分あげる!」

「ありがとう!」

悠真は、その光景を見つめた。

そして、三十年前のことを思い出した。

飢えた村。

空っぽの倉庫。

痩せた子供たち。

食料を求めて争う人々。

隣村から食料を奪おうとする農民。

十万の兵士を率いて侵攻してきた隣国。

あのころ。

人々は、最後の一粒を奪い合っていた。

だが、今。

子供たちは、種を分け合っている。

悠真は、静かに呟いた。

「……変わったんだな」

エリクは頷いた。

「……ああ」

悠真は続けた。

「俺たちの世界は、まだ完璧じゃない」

「……そうだな」

「不作もある」

「災害もある」

「食料が足りなくなることもある」

エリクは頷いた。

悠真は続けた。

「でも……」

そして、「……飢えたときに、奪い合う以外の方法を知っている」

エリクは、静かに笑った。

「……それが、一番大きな変化かもしれないな」

悠真は頷いた。

「……うん」

その日の夕方。

ベルナ村では、小さな収穫祭が開かれていた。

村人たちが、料理を持ち寄った。

ジャガイモの煮込み。

トウモロコシのパン。

山麦の粥。

豆のスープ。

野菜の料理。

どれも、豪華なものではない。

だが、温かかった。

「……悠真!」

村長ハインツの孫が、声をかけた。

「……こっちへ!」

悠真は、笑った。

「……今行くよ!」

広場には、大きな食卓が並んでいた。

子供たち。

農民。

商人。

元兵士。

旅人。

そして、隣国から来た人々。

さまざまな人が、同じ食卓を囲んでいた。

エリクが、悠真の肩を叩いた。

「……お前の席もあるぞ」

悠真は頷いた。

「……ありがとう」

二人は、席についた。

そして、食事が始まった。

「……いただきます!」

悠真が言った。

子供たちが、不思議そうに尋ねた。

「……いただきます?」

悠真は笑った。

「俺の故郷の言葉だよ」

「……どういう意味?」

悠真は、しばらく考えた。

そして、「……食べ物と、それを作ってくれた人たちへの感謝かな」

子供たちは、目を輝かせた。

「……じゃあ、僕たちも!」

数日前のことを、ふと思い出した。

収穫祭の片隅で、子供たちが種の袋を交換していた。

「こっちは寒いところで育った麦だよ」

「じゃあ、僕の村の豆と取り替えよう」

悠真は声をかけかけて、やめた。

袋には、採れた年と村の名前が書かれている。

学校で習ったとおり、子供たちは小さな記録まで添えていた。

エリクが隣で笑った。

「俺たちより、ずっと慎重だな」

「うん。だから安心できる」

悠真は、種を握る小さな手を見つめた。

かつては隠して守った種を、今は情報と一緒に分け合っている。

そして、「いただきます!」

広場に、笑い声が響いた。

夜。

収穫祭が終わったあと。

悠真は、一人で畑へ向かった。

月明かりが、静かに土を照らしていた。

そこには、小さな芽が出ていた。

悠真は、しゃがみ込んだ。

そして、土に触れた。

「……三十年か」

静かに呟いた。

三十年前。

この世界へ来たとき。

悠真は、何も持っていなかった。

五個のジャガイモ。

百粒のトウモロコシ。

それだけだった。

だが、今。

王国には、農業学校がある。

農業組合がある。

食料備蓄がある。

災害対策がある。

そして、困っている人を助ける仕組みがある。

少女は手に残った種を見て、もう一度隣の子に渡した。

「これ、来年も返さなくていいよ」

「でも、君の分が減る」

「増やして、また誰かに渡せばいいんだって先生が言ってた」

悠真は答えなかった。

昔なら、自分が教えなければ始まらなかったことが、いまは子供たちの間で自然に起きている。

悠真は、静かに笑った。

「……よかった」

そのとき。

後ろから、声がした。

「……悠真」

振り返ると、エリクが立っていた。

「……こんなところにいたのか」

悠真は笑った。

「……ちょっと、昔を思い出してた」

エリクは頷いた。

そして、隣にしゃがみ込んだ。

「……なあ、悠真」

「……何?」

エリクは、静かに尋ねた。

「お前は、この世界へ来てよかったと思うか?」

悠真は、しばらく黙った。

そして、「……うん」

静かに頷いた。

「最初は、怖かった」

「……そうだろうな」

「食べ物もなかった」

「……ああ」

「戦争もあった」

「……そうだな」

悠真は続けた。

「でも、ここには……」

そして、「……大切な人たちがいる」

エリクは、静かに笑った。

「……俺も、そう思う」

二人は、夜空を見上げた。

星が、静かに輝いていた。

悠真は、最後に小さく呟いた。

「……これからも、きっと大丈夫だ」

エリクが尋ねた。

「……どうして?」

悠真は、笑った。

そして、「もう、この世界には、種を分け合う人たちがいるから」

夜風が、畑を通り抜けた。

小さな芽が、静かに揺れていた。

それは、三十年前と同じように。

これからも、ゆっくりと成長していく。

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