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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第百八話 農業技術を公開したら、大陸中の国から「ジャガイモを売ってくれ」と手紙が届き始めた

王立農業学校。

校長室。

「……先生!」

リーナが駆け込んできた。

悠真は顔を上げた。

「……どうしたの?」

リーナは、大量の手紙を抱えていた。

「……また届きました!」

悠真は、机を見つめた。

手紙。

手紙。

手紙。

さらに、手紙。

「……何通あるの?」

リーナは答えた。

「今日だけで、四十七通です!」

悠真は固まった。

「……え?」

リーナは続けた。

「南方の商業都市から!」

「西方の山岳王国から!」

「東方の大公国から!」

「それから、海を越えた国からも!」

悠真は、頭を抱えた。

「……そんなに?」

リーナは笑った。

「はい!」

悠真は、一通の手紙を開いた。

『我が国では寒冷化により麦の収穫が減少しております。

貴国のジャガイモ栽培技術について、ご教示願いたく――』

次の手紙。

『山岳地帯に適した作物について、共同研究を希望します』

さらに。

『種芋を大量に購入したい』

悠真は、深いため息をついた。

「……全部に対応するのは無理だ」

リーナが尋ねた。

「……どうしますか?」

悠真は、しばらく考えた。

そして、「……農業会議を開こう」

リーナが首を傾げた。

「……農業会議?」

「うん」

悠真は続けた。

「各国の研究者や農業担当者を招いて、情報を交換するんだ」

「……すごい!」

リーナは目を輝かせた。

悠真は笑った。

「ただし、最初から大規模にするのは難しいから、参加国を絞って始めよう」

その後。

アルディナ王国は、周辺諸国へ正式な招待状を送った。

【第一回大陸農業会議】

【議題】

【寒冷化への農業対策】

【作物の多様化】

【食料保存】

【種子の品質管理】

【災害時の食料協力】

悠真は、会議の準備中に届いた一通の手紙を思い出した。

手紙の山の一番下に、土で汚れた封筒があった。

『寒い谷で種芋を植えましたが、芽が出ません。

何が悪かったのでしょう』

悠真は返事を書きかけて、筆を止めた。

気温も土も分からない。

成功した方法だけを送れば、相手の種を無駄にするかもしれない。

「リーナ。質問票を作ろう。植えた日、土の湿り気、霜の回数、失敗した場所も聞くんだ」

「売って終わり、じゃないんですね」

「種は渡しただけじゃ育たないからね」

二人は、その夜遅くまで返事を書いた。

数か月後。

王都アルディアに、各国の代表が集まった。

ヴァルシア王国。

西方の山岳王国。

南方の商業都市国家。

東方の農業大国。

そして、北方の小国。

会議室には、さまざまな服装の人々が並んでいた。

悠真は、壇上に立った。

「……皆さん」

会議室が静まり返った。

悠真は続けた。

「今日は、遠いところから来ていただき、ありがとうございます」

「私たちは、寒冷化によって大きな被害を受けています」

「しかし、この問題は一つの国だけでは解決できません」

代表者たちが頷いた。

悠真は続けた。

「ある国には、寒さに強い作物があります」

「別の国には、優れた灌漑技術があります」

「また別の国には、食料保存の知識があります」

そして、「それらを共有すれば、もっと多くの人々を救えるかもしれません」

拍手をしなかった代表もいた。

寒冷地で長年育てた品種を持つ国の使節だった。

「技術を無償で渡せば、我が国の農民は種の販売で暮らせなくなります」

悠真は反論しかけ、言葉を止めた。

飢えをなくすための共有が、別の誰かの生活を壊してはならない。

「栽培の知識は公開し、種の供給や増殖には当事者が参加できる取り決めを考えましょう」

その場で合意は得られなかった。

だが、反対する理由が会議録に残ったことは、協力への最初の一歩だった。

会議の休憩中、若い代表が悠真に小声で告げた。

「私の国では、種を作る農家が借金をして倉庫を建てています。知識を公開することには賛成です。でも、種まで無料で配れば彼らは破産します」

悠真はすぐに反論できなかった。

「技術を隠さず、作り手も守る。両方を条件にしたいです」

「それができるなら、私も賛成したい」

握手は交わされなかった。

まだ契約書も予算もなかったからだ。

だが、話し合う相手の顔は見えた。

会議はまだ続いた。

別の代表が口を開いた。

「……質問があります」

悠真が顔を上げた。

「はい」

代表は続けた。

「技術を共有するのはよい」

「だが、食料が本当に不足したとき、各国は自国を優先するでしょう」

会議室が静まり返った。

代表は、静かに尋ねた。

「……そのとき、どうやって協力するのですか?」

悠真は、しばらく黙った。

それは、避けて通れない問題だった。

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