第百七話 隣国の食料危機を知った悠真が技術を公開すると言ったら、商人たちが大反対した
王都アルディア。
王宮。
「……農業技術を公開する?」
ユリウス国王が尋ねた。
悠真は頷いた。
「はい」
ユリウスは、しばらく考えた。
「……どこまでだ?」
悠真は答えた。
「作物の栽培方法」
「土壌改良」
「病害対策」
「水路の管理」
「保存技術」
「そして、寒冷地向けの栽培試験の結果です」
ユリウスは頷いた。
「……なるほど」
そのとき。
商人代表が口を開いた。
「……反対です!」
悠真が顔を上げた。
「……どうしてですか?」
商人は答えた。
「農業技術は、我が国の強みです!」
「それを隣国へ無償で渡すなど、理解できません!」
別の商人も頷いた。
「ヴァルシア王国が食料を自給できるようになれば、我々の輸出が減ります!」
悠真は、静かに聞いていた。
商人は続けた。
「さらに、将来また戦争になったらどうするんですか!」
「こちらの技術を使って食料を増やし、軍を養うかもしれません!」
会議室が静まり返った。
悠真は、しばらく考えた。
そして、「……その可能性は、完全には否定できません」
商人たちが顔を上げた。
悠真は続けた。
「でも、食料が足りない国は、隣国から奪おうとする危険も高くなります」
「……それは」
「十年前、実際に戦争が起きました」
商人たちは黙った。
悠真は続けた。
「隣国が安定して食料を作れるようになれば、戦争の原因を一つ減らせるかもしれません」
ユリウスは頷いた。
「……確かにな」
そのとき。
アコギ・ヴァレンが口を開いた。
「……悠真殿」
悠真が顔を上げた。
「はい」
アコギは尋ねた。
「技術を公開したら、我々商人は何を売ればいい?」
悠真は、少し笑った。
「……農具や保存設備は、まだ必要ですよね?」
商人たちは、公開する栽培記録を机に積んだ。
「これを渡せば、独占できなくなる」
悠真は答えた。
「独占している間に、飢える人がいます」
アコギが口を挟んだ。
「公開しても、種が病気なら広がるだけだ。検査法と失敗例も一緒に出せ」
悠真は顔を上げた。
「その通りです」
技術は、成功した手順だけではない。
失敗を見分ける知識も、分け合う必要があった。
アコギは頷いた。
「……当然だ」
悠真は続けた。
数日前のことを、ふと思い出した。
商人代表は、悠真の資料を指で叩いた。
「公開した技術を使って、他国が安い穀物を売り込んできたらどうする!」
悠真は頷いた。
「その心配はもっともです。だから種子の検査基準や病害の情報も、同時に共有したい」
「商売の損失は?」
「加工や輸送、品質管理には仕事が残ります。ただ、誰もが今までどおり儲かるとは言えません」
議場が静かになった。
「でも、隣国が飢えれば国境はまた戦場になる。市場だって消えます」
ユリウスは資料を閉じた。
「公開の範囲と、国内農家の移行支援を一緒に決めよう」
「種子の品質管理」
「農具の製造」
「倉庫の建設」
「輸送」
「加工」
「商人の仕事は、なくなりません」
アコギは、しばらく考えた。
そして、「……なるほど」
悠真は続けた。
「むしろ、隣国の農業が発展すれば、取引できるものが増えます」
アコギは、静かに笑った。
「……確かに」
そして、「農業技術そのものを独占するより、農業が発展した世界で商売をする方が、長く続くかもしれんな」
悠真は頷いた。
「そう思います」
ユリウスは、静かに立ち上がった。
「……決めた」
大臣たちが顔を上げた。
「王立農業学校の基礎的な研究成果を、公開する」
「ただし、病気のある種子や未検証の技術を無制限に広めることは認めない」
「各国の研究者と協力し、安全性を確認しながら普及させる」
悠真は、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
ユリウスは笑った。
「……礼を言うのは、こちらだ」
こうして、アルディナ王国は農業技術の国際共有を始めることになった。
だが、その知らせは思わぬ国々へ広がっていった。




