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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第百六話 隣国の貴族が食料を隠していたので、ハインリヒ将軍が「もう戦争はしない」と宣言した

ヴァルシア王国。

軍司令部。

「……食料の隠匿?」

ハインリヒ将軍が尋ねた。

ルドルフは頷いた。

「はい」

そして、報告書を差し出した。

「王都の複数の倉庫で、申告されていない食料が見つかりました」

ハインリヒは、眉をひそめた。

「……誰の倉庫だ?」

ルドルフは答えた。

「一部の貴族と商人です」

「……目的は?」

「価格が上がるまで、売らずに保管していた可能性があります」

ハインリヒは、深いため息をついた。

「……またか」

十年前。

ヴァルシア王国は飢饉に苦しみ、アルディナ王国へ侵攻した。

十万の兵士を動員し、食料を奪おうとした。

だが、戦争は食料を増やさなかった。

むしろ、多くの農民が畑を離れ、食料生産はさらに減った。

ハインリヒは、静かに言った。

「……十年前と同じことを繰り返すつもりか」

ルドルフは頷いた。

「……私も、そう思います」

そのとき。

一人の貴族が、会議室へ入ってきた。

「……将軍!」

ハインリヒが顔を上げた。

「何だ?」

貴族は叫んだ。

「アルディナ王国から、もっと食料を送らせるべきです!」

ルドルフは、眉をひそめた。

貴族は続けた。

「向こうには、まだ備蓄がある!」

「我々が困っているのだから、援助する義務がある!」

ハインリヒは、静かに尋ねた。

「……それで?」

貴族は答えた。

「拒否するなら、軍を動かすべきです!」

会議室が静まり返った。

ルドルフは、息を呑んだ。

十年前と、同じ言葉だった。

ハインリヒは、ゆっくりと立ち上がった。

「……軍を動かす?」

貴族は頷いた。

「はい!」

ハインリヒは、静かに言った。

「……断る」

貴族が固まった。

「……何?」

ハインリヒは続けた。

「私は、十年前に十万の兵士を率いてアルディナへ侵攻した」

「飢えた兵士たちを救うためだと、自分に言い聞かせていた」

沈黙。

ハインリヒは続けた。

「だが、戦争は何も生まなかった」

「畑を荒らし」

「村を焼き」

「人を殺し」

数日前のことを、ふと思い出した。

ハインリヒは、押収された穀物袋を一つ開けた。

乾いた麦の匂いがした。

十年前、同じ匂いを求めて兵を国境へ送った。

帰らなかった兵士の名前を、今も覚えている。

「倉庫を守る兵を出しましょうか」

副官が尋ねた。

「違う。運び出す兵を出せ」

「貴族たちが反発します」

「法に従って調べる。証拠を残し、民に配る」

将軍は剣を外し、机に置いた。

「もう、この麦のために人を殺させない」

副官は静かに敬礼した。

「そして、さらに多くの飢えを生んだ」

貴族は、黙った。

ハインリヒは、静かに言った。

「……私は、もう戦争はしない」

そして、「食料が足りないなら、まず自分たちの倉庫を開けろ」

会議室に、重い沈黙が落ちた。

ルドルフは、深く頭を下げた。

「……将軍」

ハインリヒは続けた。

「軍は、食料の輸送を支援する」

「農地の復旧も手伝う」

「だが、隣国を侵略するためには動かさん」

貴族は、顔を真っ赤にした。

「……王命でもですか!?」

ハインリヒは、静かに答えた。

「王命であっても、まずその是非を問い、国の法に従って判断する」

そして、「民を飢えさせる政治の失敗を、戦争で隠すつもりはない」

ルドルフは、拳を握った。

十年前。

彼は、敵国の畑を奪う兵士だった。

今は、同じ畑を守るために働いている。

「……将軍」

ルドルフは、静かに言った。

「私も、協力します」

ハインリヒは頷いた。

「……頼む」

こうして、ヴァルシア王国では食料倉庫の調査と緊急配給が始まった。

だが、貴族たちの反発は強く、政治的な混乱は収まらなかった。

「私兵を動かす家もある」と部下が告げた。

ハインリヒは剣を見下ろした。

かつてなら軍を出して押さえ込んだだろう。

「まず倉庫を封鎖し、食料の流出を止めろ。抵抗した者は記録して裁判に送る。兵には先に手を出させるな」

戦争をしないという宣言は、武器を抜かずに耐える命令でもあった。

そして、その知らせはアルディナ王国にも届くことになる。

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