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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第百三話 王立農業学校を開校したら、最初の授業で生徒に「先生は農業の専門家ですか」と聞かれた

王都アルディア。

王立農業学校。

「……ついに完成した」

悠真は、目の前の建物を見上げた。

石造りの校舎。

広い実習畑。

小さな温室。

種子を保存する倉庫。

そして、図書室。

十年前には、考えられなかった施設だった。

「……立派だな」

隣にいたエリクが呟いた。

悠真は頷いた。

「うん」

エリクは笑った。

「お前が先生になるとはな」

「……やめてくれよ」

悠真は苦笑した。

「俺、まだ二十一歳の大学生だったんだぞ」

「この世界に来て十年だろ?」

「……そうだけど」

「じゃあ、もう三十一歳じゃないか」

悠真は固まった。

「……そうか」

エリクは笑った。

「今さら気づいたのか?」

「……考えないようにしてた」

その日。

王立農業学校の開校式が行われた。

第一期生は、四十八人。

農民の子供。

商人の子供。

元兵士。

避難民。

そして、貴族の子供もいた。

身分に関係なく、農業を学ぶために集まった若者たちだった。

最初の授業。

悠真は、教壇に立った。

「……えーと」

生徒たちが、じっと見つめている。

悠真は咳払いした。

「皆さん、こんにちは」

「こんにちは!」

元気な返事が返ってきた。

悠真は頷いた。

「今日から、農業について一緒に学んでいきます」

そのとき。

一人の少年が手を挙げた。

「……先生!」

「はい」

「先生は、農業の専門家なんですか?」

教室が静まり返った。

悠真は、固まった。

「……え?」

少年は続けた。

「先生は、ジャガイモを広めた人ですよね?」

「……まあ、そうだね」

「でも、農業をどこで勉強したんですか?」

悠真は、しばらく黙った。

そして、「……実は」

生徒たちが身を乗り出した。

「俺は、農業の専門家じゃありません」

沈黙。

「……え?」

「……専門家じゃない?」

教室がざわめいた。

悠真は苦笑した。

「元いた世界で、農業の知識を少し知っていただけです」

「実際に畑を耕した経験は、ほとんどありませんでした」

少年が尋ねた。

「……じゃあ、どうして王国を救えたんですか?」

悠真は、静かに答えた。

「俺一人で救ったわけじゃないからです」

生徒たちが顔を上げた。

悠真は続けた。

「村の農民が、畑を耕してくれた」

「鍛冶屋が、農具を作ってくれた」

「商人が、食料を運んでくれた」

「兵士が、村を守ってくれた」

「学者が、作物の病気を調べてくれた」

そして、「失敗したときには、みんなで原因を考えました」

悠真は、黒板に大きく書いた。

【農業に、万能の答えはない】

生徒たちは、その文字を見つめた。

悠真は続けた。

「土地によって、気候が違います」

「水の量も違います」

「土の性質も違います」

「だから、同じ方法が必ず成功するとは限りません」

そして、「ここでは、正解を覚えるだけではなく、失敗から学ぶ方法を勉強してほしいんです」

教室が静まり返った。

やがて。

最初に質問した少年が、笑った。

「……分かりました!」

悠真は頷いた。

「じゃあ、最初の授業を始めよう」

少年が尋ねた。

「何をするんですか?」

悠真は笑った。

「……畑を耕します」

「……え?」

「全員、外へ!」

教室に悲鳴が響いた。

「……いきなり実習!?」

「座学じゃないの!?」

悠真は笑った。

「農業学校だからね」

こうして、王立農業学校の最初の授業が始まった。

実習畑では、悠真は生徒たちに二つの鉢を見せた。

同じ日に植えたジャガイモ。

片方は葉が茂り、もう片方は小さかった。

「どちらが正しい育て方だと思う?」

生徒たちは元気な鉢を指さした。

悠真は土を掘り返す。

葉の茂った鉢には小さな芋しかついていなかった。

「見た目だけでは決められない。記録して、掘って、確かめるんだ」

一番前の少年が手を挙げた。

「先生も間違えるんですか?」

「毎年ね」

教室に笑いが起きた。

悠真は黒板に大きく書いた。

『失敗を隠さない』

それが、学校の最初の約束になった。

畑に出ると、一人の生徒だけが鍬を持たずに立っていた。

「家の畑は借金でなくなりました。土を見たくありません」

悠真は鍬を置いた。

「なら、今日は種を植えなくていい。どうして畑を失ったのか、みんなに話してくれないか」

農業学校が教えるべきものは、作物の育て方だけではなかった。

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