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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第百話 洪水で畑が水没したので、悠真は十年前と同じように五個のジャガイモを取り出した

洪水から、一週間後。

希望村。

水は、少しずつ引き始めていた。

だが、村の被害は大きかった。

住宅の一部は倒壊。

畑には泥が積もり、農具も流されていた。

共同倉庫の一部は浸水し、保存食の廃棄も必要になった。

「……ひどいな」

エリクが呟いた。

悠真は、静かに頷いた。

「……うん」

村人たちは、壊れた家を見つめていた。

一人の男が言った。

「……もう、駄目だ」

別の女性も呟いた。

「また、全部なくなった」

エリクは、拳を握った。

希望村は、避難民たちがようやく手に入れた故郷だった。

それが、洪水によって大きな被害を受けた。

「……どうする?」

エリクが尋ねた。

悠真は、しばらく黙っていた。

そして、「……まず、安全な場所に住めるようにしよう」

エリクは頷いた。

「……うん」

悠真は続けた。

「家を直す前に、地盤と洪水の危険を調べる」

「また同じ場所に建てたら、次の洪水で被害が出るかもしれない」

エリクは頷いた。

「……そうだな」

その後、王国の技術者たちが調査を始めた。

危険な低地には、住宅を再建しない。

高台に新しい住宅地を整備する。

水没した畑は、土の状態を調べる。

泥や汚水による汚染が疑われる場所では、すぐに作物を育てない。

そして、使える農地から少しずつ復旧する。

数日後。

悠真は、村の集会所へやってきた。

手には、小さな袋を持っていた。

「……皆さん」

村人たちが顔を上げた。

悠真は、袋を机に置いた。

そして、中身を取り出した。

一個。

二個。

三個。

四個。

五個。

ジャガイモだった。

エリクが、目を見開いた。

「……悠真」

悠真は笑った。

「……覚えてる?」

エリクは、しばらく黙った。

そして、「……忘れるわけないだろ」

十年前。

悠真が、この世界へやってきたとき。

持っていたのは、五個のジャガイモと百粒のトウモロコシだった。

そこから、すべてが始まった。

「……最初は、これだけだった」

悠真が言った。

村人たちは、ジャガイモを見つめた。

悠真は続けた。

「五個のジャガイモだけでは、村全体を救えません」

「でも、そこから少しずつ増やすことはできます」

エリクは頷いた。

悠真は続けた。

「今は、十年前とは違います」

「種芋を保存する倉庫があります」

「農業組合があります」

数日前のことを、ふと思い出した。

「五個だけで、村が元に戻るのか」

泥だらけの少年が尋ねた。

悠真は首を振った。

「戻らない。家も道も、五個の芋じゃ直せない」

少年の顔が曇る。

「じゃあ、どうして植えるの?」

「来年の畑を諦めないためだよ」

悠真は、種芋を泥の上に直接置かなかった。

水の引いた高台で土の状態を調べ、使える畑を選び、病気のない芋を分けた。

「これを植えるのは、今日食べる分を配ってからだ」

少年は頷き、芋を大事そうに抱えた。

希望は、腹を満たす仕事の代わりにはならない。

だからこそ、両方が必要だった。

「水路があります」

「食料を運ぶ道があります」

「そして……」

悠真は、村人たちを見渡した。

「助けてくれる仲間がいます」

沈黙。

一人の老人が、静かに言った。

「……もう一度、始められるかのう」

悠真は頷いた。

「はい」

そして、「今度は、五個から始める必要もありません」

その言葉に、村人たちは顔を上げた。

悠真は続けた。

「王国中の農業組合が、種芋と種子を送ってくれることになりました」

「建築組合も、家の修理に協力してくれます」

「食料備蓄も、すでに輸送が始まっています」

村人たちの目に、涙が浮かんだ。

「……本当に?」

悠真は頷いた。

「本当です」

エリクは笑った。

「……よし!」

そして、「もう一度、村を作ろう!」

村人たちが、少しずつ立ち上がった。

「……ああ!」

「今度は、高い場所に家を建てよう!」

「畑も直そう!」

「水路も作り直すぞ!」

希望村に、再び活気が戻り始めた。

悠真は、机の上の五個のジャガイモを見つめた。

「……十年前より、ずっと強くなったんだな」

エリクは頷いた。

「……ああ」

そして、「今度は、俺たちが誰かを助ける番だ」

エリクは悠真の袋を見つめていた。

「また五個から始めるのか」

「象徴としてはね。でも、今は五個だけじゃ足りない」

悠真は村人の前で、被災した家の数、使える畑、残った種子、支援を求める先を読み上げた。

被災した畑を前に、悠真は「また五個から始めればいい」とは言わなかった。

今は農業学校があり、倉庫があり、助けを求める道がある。

「まず残った種を数えよう。次に、誰が困っているか調べよう」。

その声に、村人たちは一人ずつ動き始めた。

「昔は、俺一人でできると思っていた。今は違う。農民も、運び手も、学校の生徒もいる」

村の少女が手を上げた。

「私たちにもできる?」

「もちろん。まずは、使える種を数えるところから」

泥にまみれた集会所で、人々は一つずつ名前と役割を書き始めた。

五個のジャガイモが残したのは、作物だけではなかった。

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