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飢えた王国 IF ~五個のジャガイモから始める、誰も飢えない国づくり~  作者: レモンティー


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第十話 ジャガイモの販売権を商人に独占されたので、村人たちは市場を作ることにした

バルガス侯爵からの通達を、ハインツは二度読み直した。

『新作物の領主税を二割とする。

ただし、領外販売は王都穀物商会を通じて行うこと』

「税が下がったのはありがたい。だが、これでは値段を決めるのは商会だ」

翌日、商会の買い取り係が告げた値は、ジャガイモ一袋につき銅貨二枚だった。

「王都では六枚で売ると聞いたぞ」

「運送費、倉庫代、腐敗の危険がある。嫌なら売らなくて結構」

係は笑いもしなかった。

買い手がほかにいないと知っている顔だった。

若い農民が袋を抱え直した。

「これでは種芋の代金も返せない」

悠真はすぐには反論できなかった。

運ぶ費用があるのは本当だ。

だが、費用の内訳を誰も見せてもらえない。

「領外へは売れない。でも、領内の村同士で交換することまで禁じられてはいません」

「市場を作るのか」とエリク。

「作ろう。ただし、自由に売れる場所を作るだけでは足りない」

三村の代表は広場に集まり、共用の秤、荷車の当番、使用料、売れ残りを置く倉庫について決めた。

帳簿は誰でも読める場所に置き、秤の検査は売り手以外が担当する。

最初の市には芋、麦、豆、薪、布が並んだ。

「豆一袋と芋一袋を交換したい」と老女が言う。

「袋の大きさが違う」と農民が渋ると、エリクが秤を持ってきた。

老女は自分の目で針を確かめ、ようやく頷いた。

昼過ぎには子供たちの笑い声が広場を満たした。

悠真も、少しだけ胸を撫で下ろした。

だが、夕刻に問題が起きた。

隣村から来るはずの荷車が二台とも現れない。

車輪の軸を直す鍛冶屋には、王都穀物商会から急ぎの仕事が入っていたという。

「うちの修理を断れとは言われていない。ただ、商会の仕事を先にすれば倍払うと言われた」と鍛冶屋は困った顔をした。

さらに商会の係が広場に現れた。

「王都向けの買い取りは明朝までだ。今日売れ残った分なら、一袋銅貨一枚で引き取ってやろう」

遠い村の農民が青ざめた。

運べなければ芋は傷む。

今夜の宿代もない。

「買ってもらおう」と誰かが言った。

「待って」とエリクが声を上げた。

「この値段で売ったら、来年の種が買えない」

「じゃあお前が運んでくれるのか!」

怒鳴られたエリクは黙った。

正しいことを言うだけでは荷車は動かない。

悠真は広場の端に積まれた空き木箱を見た。

「売れ残りを共同倉庫に移す。今夜の保管費は市場の積立金から出そう。ただし、それだけでは明日の運賃が払えない」

ハインツが自分の荷車の鍵を置いた。

「明日はわしの車を使え。代わりに収穫期には返してもらう」

「俺も車を出す」と別の農民が言った。

「でも無償じゃ続かん」

「運送費を取引額から一定割合で払う仕組みにします。負担した人の名前も帳簿に残す」

全員が納得したわけではなかった。

積立金を使うことに反対する者もいた。

結局、今夜だけの臨時支出とし、次の市までに費用の上限を決めることになった。

商会の係は値下げの札を外した。

「今夜は売れなくても、明日も同じ値で買えるとは限らないぞ」

「分かっています」と悠真は答えた。

「だから、運べる道を一つ増やします」

広場の端で一部始終を見ていた調査員が、報告書を書いた。

『領内に独立市場成立。

輸送の共同化を開始。

価格統制に支障。

対策を要する』

数日後、その報告書はアコギ・ヴァレンの机に置かれた。

アコギは「共同化」の三文字に指を止めた。

「市場だけなら潰せる。荷車まで持たれたら、話が違うな」


挿絵(By みてみん)

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