第172話 幹部襲撃
作戦会議の翌日、いよいよ王都ディアスに向けて出発する日が来た。
朝になり、集合時間を迎えた。
街の広場には、すでにルドラ王国の騎兵たち全員が馬に乗っていた。
先頭では、リーズ王女がこちらを向いて立っている。
「全員集まったわね。では行きましょう。全ては、ルドラ王国の王都ディアスを取り戻すために」
「「「おおおおッ!!」」」
ルドラ王国の兵士たちの士気は高まったようだ。
ところが、突然サイド上空に黒い雲がかかった。
上空に現れた転移門からは、竜に乗った多数の魔族が降下してきた。
「魔王軍!? こんな時に……」
「至急、戦闘配備! 何としても、サイドの民は死守するのだ!」
「はっ!」
レベッカの指示で、ルドラ騎士たちが戦闘態勢に入る。
すると、地上にも転移門が出現し、中からクリーチャーやエビルアイといった魔物たちが出てきた。
ルドラ王国軍は魔王軍との戦闘を開始する。
街の住民たちは逃げ惑う。
平和な街サイドは瞬く間に戦場と化した。
「見つけたぞ、星の英雄たち!」
何者かが剣で僕を斬り付けて来たので、聖剣を抜いて防御する。
現れた魔族は鎧を身に着けており、腰に剣を装備している。つまり、こいつは剣士あるいは騎士ということか。
「さすがにこの一撃は防ぐか。なかなかやるな!」
「不意打ちで僕を倒せると思ったら大間違いだぞ」
そんな会話をしていると、右から火球が飛んできた。
ヒューイが盾で僕を守った。
「ファイン、よそ見していると危ないぜ!」
「ありがとう、ヒューイ」
さらに、二人の魔族が僕たちの前に現れた。
「ジェイソン、私たちも援護するぞ」
「面白そうではないか、お前ら。おれも混ぜろ!」
「来てくれたか。恩に着るぞ」
一人はフード付きローブを着用しており、魔術師と思われる。
もう一人は巨漢の魔族であった。
「俺の名はジェイソン! 魔王軍幹部の一人だ!」
「私はアダムス。同じく魔王軍幹部だ」
「おれはゴードン! 同じく魔王軍幹部よ!」
中央にいる剣を扱う魔族は、魔王軍幹部のジェイソンと名乗る。
その左にいるアダムスという男は、フード付きローブを着用している。
そして、右の男ゴードンは巨漢の魔族で、体格から察するに壁役のようだ。
「星の英雄たちよ! お前らの相手は俺たちが務める! 行くぞ!」
ジェイソンはそう言ってこちらに向かって走ってきた。
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「ヒューイ、君はデカイ奴の相手を頼む!」
「おう!」
「ルナとセレーネは後方支援だ!」
「ええ!」
「はい。防御鎧、魔法壁!」
戦闘開始前、セレーネはバフの魔法をかける。
これで、敵の被ダメージを軽減できるようになる。
魔族は筋力・魔力ともに人間を凌駕するため、少しでも被ダメージは減らしておきたい。
ジェイソンが僕に到達し、剣で斬りかかる。
速い。
さすがは魔王軍幹部を名乗るだけはある。
しかし、避けられない訳ではない。
落ちついて対処すれば、問題はない。
僕はジェイソンの攻撃を受け止める。
「さすがは勇者だな! この一撃は防ぐか。だが、これならどうだ?」
ジェイソンはそう言って突然後退した。
すると、向こうから氷の槍が五発飛んできた。
なるほど、アダムスの援護射撃か。
僕は結界を張って防御した。
「なかなかやるな。この攻撃を防御するとはな!」
「言っておくが、この程度の攻撃で僕たちを倒せると思ったら大間違いだぞ」
ジェイソンは再びダッシュでこちらに向かってくる。
僕の後方からルナの矢が飛んできた。
ジェイソンは難なく回避した。
「来い! 相手をしてやる!」
「それじゃあ遠慮なく行くぜ! おりゃああああッ!!」
そして、ヒューイもゴードンとの戦闘を開始したようだ。
「よそ見は禁物だぜ、勇者ファイン!」
ジェイソンは再び僕に近づき斬撃する。
しかし、僕はひらりと身をかわして聖剣で反撃する。
その一撃がジェイソンかすった。
「グフッ!」
この攻撃で、ジェイソンはよろめきを見せる。
今がチャンスだ。
僕はジェイソンにとどめを刺そうとした。
ところが、ジェイソンは辛うじて僕の攻撃を回避する。
そして、その傷はすぐに回復した。
どうやら、後ろの魔術師が治癒魔法を使ったらしい。
確か、名前はアダムスと言ったか。
「お前の聖剣は魔族に大ダメージを与えることも知っているぞ。だが、俺にそのような武器は効かんぞ!」
どうやら、ダメージは浅かったようだ。
そして、聖剣でジェイソンを斬った時、妙な手応えを感じた。
ヤツの着ている鎧は光属性に耐性があるのか。
と言うことは、多少のダメージを与えたところで致命傷にはならないという事だ。
僕は走って距離を詰めようとする。
「暗黒刃!」
ジェイソンは僕に近づかれる前に、剣を横に薙ぐ。
闇の衝撃波が僕に迫り来る。
僕は横に動いて回避する。
しかし、安心したのも束の間。
その直後、僕の頭上に雲が現れた。
咄嗟に後退すると、雷が降り注いできた。
今のはアダムスの仕業か。
「マルチショット!」
ルナが複数の矢を同時に発射し、アダムスを狙った。
しかし、狙いに気づいたゴードンが自ら身を呈して防御した。
ゴードンは両腕でガードしたため無傷であった。
「その程度か! 大したことはないな!」
「どこ見ている! お前の相手はオレだぜ!!」
ヒューイは斧を構えて再びゴードンに突撃する。
「おりゃああああああああッ、破断岩斧!!」
「スキル【鉄壁】!」
ゴードンは両腕で自分の身を守る。
ヒューイの斧がゴードンの腕を直撃した。
ところが、その一撃は防がれてしまった。
「フン、その程度か! やはり大したことはないわ!!」
ゴードンは拳の一撃でヒューイに反撃する。
ヒューイは反撃を喰らってしまうものの、ダメージは大したことはないようだ。
「チクショー、オレの自慢の一撃を喰らってノーダメージとはな! お前、なかなかやるじゃねぇか!」
アダムスが火炎爆弾を放つ。
爆発が広がり、僕たちは後ろに回避するしかなくなる。
アイツの援護射撃が厄介だ。
まずは、アイツをどうにかしないといけない。
「セレーネ、あの魔術師の魔法を封じろ!」
「はい。沈黙!」
僕の指示で、セレーネがアダムスの魔法を封じようとする。
しかし、アダムスはお構い無しに火球を放つ。
「無駄だ。状態異常など私たちには効かんぞ」
「なら……! 魔封じ!」
「効かんと言っている!」
アダムスは構わず、空気刃を放つ。
セレーネは結界を展開して防御した。
どうやら、アダムスはステータス異常を防ぐ防具を装備しているようだ。
したがって、魔法を封じる戦法は通じなさそうだ。
ジェイソンは僕に接近し、剣戟を行う。
それを僕が受け止め、すぐに反撃する。
しかし、ジェイソンは回避する。
すると、その直後に前方から火球が三発飛んできた。
僕は咄嗟に防盾で防御した。
ジェイソンたちは巧みな連携力を見せる。
複雑な攻撃こそして来ないが、三人は意外と強くて手を焼く。
そりゃあそうか。
こいつらは腐っても魔族。
簡単に倒すことができなくて当然だろう。
グロウやジャークは強かったが、彼らは単独であった。
一方、こいつらは三人編成のチームである。
この戦いにおいて、チームで挑んでくる敵が手強いことを改めて認識させられた。
「ルナ、まずはあの魔術師を倒すんだ!」
「ええ!」
僕もターゲットを変え、アダムスに向かって走る。
しかし、ジェイソンが僕を阻止する。
「おおーっと! お前の相手は俺だ。勇者ファイン!」
「仕方がない。相手をしてやる!」
僕は改めてジェイソンの相手をすることにした。
ジェイソンは剣を使って攻撃してくる。
今のところ、勝負は互角である。
魔族の幹部なだけはあり、そう簡単に首はくれないようだ。
僕は一瞬のスキを突いて首を狙った。
ところが、ジェイソンは僕の攻撃を素早く躱した。
ヤツの速度が急に増した。
どうやら、アダムスが後方からバフの魔法をかけたようだ。
「どうだ? このスピードには追い付けまい!」
確かに、速い。
だが、こちらも負けてはいない。
「なぜだ!? なぜ貴様は俺のスピードに追い付ける!?」
僕のスピードもジェイソンに合わせて上昇した。
そう、後方からセレーネが高速化の魔法をかけてくれたのだ。
お陰でジェイソンの速度に追従することができる。
いや、むしろこちらの方がスピードは上だ。
僕は一瞬の隙を突いてジェイソンを斬ろうとした。
ところが、火球が飛んできたことにより、僕の攻撃は妨害されてしまった。
今のはアダムスの仕業か。
アイツの後方支援は本当に厄介だ。
「破断岩斧!!」
ヒューイが必殺技の破断岩斧を、ゴードンに向けて放つ。
ところが、ゴードンは両腕で斧による一撃を完全に防御してしまった。
「バカがッ、何度やっても同じよ!!」
ゴードンは丸太のような拳で、ヒューイに対して反撃する。
ヒューイはその一撃を、モロに胴体へ受けてしまう。
「ぐおおおおおおおおッ!?」
強烈な一撃を喰らい、ヒューイはそのまま吹き飛ばされてしまった。
ルナは矢を放ち、アダムスを攻撃する。
しかし、アダムスは結界で自身を守る。
「竜巻!」
「しまった! きゃああああああああっ!!」
アダムスは後方から竜巻を放つ。
ルナはかわしきれず、吹き飛ばされてしまった。
「大丈夫か、二人とも!!」
「だ、大丈夫よ……」
「これしきのことでやられるかよ……!」
「よそ見している場合か!!」
ジェイソンが僕に斬りかかってきたため、聖剣で受け止めて防御する。
僕が反撃すると、ジェイソンはすぐに後退する。
ジェイソンは空中に逃げたため、隙を突いて風斬刃を放つ。
ジェイソンは風の刃を喰らうが、傷は浅い。
そして、アダムスがその傷をすぐに回復した。
「大丈夫ですか? 治癒!」
セレーネがすぐに二人を回復する。
「この程度か、勇者ども! もっと強いと思っていたのだが、口ほどにもないな!」
「フン、もはや私たちの敵ではないな」
「その通り! 貴様らなど取るに足らぬわ!」
「チクショー、言いたい放題言いやがって!」
「僕たちを侮ると、痛い目に遭うぞ」
「減らず口を叩けるのも今のうちだぞ!」
ジェイソンたちは余裕の笑みを浮かべている。
僕たちは武器を構え直す。
この場に緊張感が走った。
「行くぞ、星の英雄たち! 貴様らの旅も、ここで終焉を迎えるのだ!」
ジェイソンはそう言って、僕たちに向かって走る。
その後方から、アダムスの放った暗黒球が飛んできた。
僕は聖剣で球を切り裂く。
エクスカリバーの聖なる効果ならば、闇の力に打ち勝つことは容易だ。
前方からジェイソンが剣で攻撃する。
しかし、暗黒球が目眩ましであることはお見通しである。
僕はジェイソンの接近と同時に、地面から土針を五本放つ。
ところが、ジェイソンは素早くジャンプして回避した。
やはり、魔族の運動能力や反射神経は人間を上回っている。
「破断岩斧!」
「バカが、何度やっても同じよ! 鉄壁!!」
ヒューイがゴードンの足止めをする。
「闇の衝撃波!」
ジェイソンの放った暗黒の衝撃波がこちらに迫ってくる。
僕が避けると、ジェイソンはすぐそこまで近づいていた。
「勝負あったな、ファイン・セヴェンス! これで終わりだ!!」
ジェイソンは僕にとどめを刺そうと剣を上げた。
「う、動けん!? これは一体……!?」
僕は事前に麻痺罠を足元に仕掛けておいた。
そこにジェイソンは見事に引っ掛かり、身動きが取れなくなった。
僕はトドメを刺すべく、聖剣を構えた。
さらばだ、ジェイソン。
ところが、ゴードンが身代わりとなり、ジェイソンを突き飛ばした。
「グオオオオオオオオッ!!」
「ゴードン!!」
ゴードンは断末魔の声を上げて消滅した。
「よくもゴードンを……!」
「エンジェルショット!」
ルナは弓矢による強烈な一撃を放つ。
その矢は、まばゆい光に包まれていた。
「無駄だ。結界!」
アダムスは結界で防御する。
ところが、矢はバリアーを突き破った。
「なにぃ!?」
そして、光の矢はアダムスの眉間に命中した。
「ぐわああああああああああああ!!」
光の矢を受けたアダムスは、そのまま消滅した。
「アダムス!! よくも……!」
ジェイソンは、アダムスが死んだことに気を取られる。
今、相手の陣形は瓦解した。
その一瞬の隙を突き、僕はジェイソンの胸部に聖剣を突き刺した。
「バ、バかな……俺たちが人間ごときに……」
ジェイソンはそう言い残して消滅した。
何とか魔王軍幹部たちを倒すことに成功した。
だが、戦いはまだ終わっていない。
この街に攻めて来た全ての敵を倒さなくてはならない。
「ルナ、セレーネ! 二人の魔法で全ての敵を一掃させるんだ!」
「「ええ!」」
「エンジェルフォーム、解放!」
「「出でよ、光の精霊ウィル・オ・ウィスプ」」
ルナとセレーネは息を合わせて光の精霊を召喚する。
「「聖なる光よ、邪なる者を浄化せよ……【ホーリーライト】!」」
光の精霊ウィル・オ・ウィスプがまばゆい光の魔法を放ち、残った魔族たちをすべて消滅させた。
これで、何とか西の街の平和を守ることができた。
しかし、この戦いでルドラ王国軍の騎士たちが何人か犠牲になってしまった。
そのため、王都ディアスを取り戻す戦いは、予定よりも困難になることが予想されるだろう。




