第171話 希望を求めて
【リーズ視点】
ある日、突然魔族が王都ディアスに攻め込んできた。
魔族と共に、得体の知れない魔物たちも多数現れた。
私たちは魔族たちを前に、全く歯が立たなかった。
街は焼かれ、人々は次々に殺された。
そして、殺されたルドラの民は、アンデッドとして甦った。
魔王軍の中には、フードを被った魔術師らしき魔族がいた。
おそらく、そいつが人々をアンデッドにしたヤツだと思われる。
私は騎士たちを率いて、魔王軍と応戦した。
しかし、私たちは歯が立たず、仲間たちが次々にやられてしまった。
そんな、私のもとに一体の魔物が飛び付いてきた。
絶体絶命のピンチ。
そこに父が颯爽と現れ、魔物を一刀両断した。
父はルドラ王国の中でも数々の武勇を誇る人物だ。
そんな父は、魔王軍に一切後れを取ることはなかった。
「無事か? リーズ」
「はい、私はなんとか。しかし、王都が……」
「こうなっては、王都はもうだめだ。リーズ、お前は西の都サイドへ逃げろ。そこに兵を集め、反撃の機会を窺うのだ」
「お父様は?」
「わしは王都に残る。このような事態を招いたのは、王であるわしの責任だ」
「イヤです、お父様! お父様が残るのなら、私も一緒に残ります!」
「ならぬ。お前はわしの娘にして、ルドラ王国の王女。お前はルドラ最後の希望だ!」
「わかりました」
「レベッカ、リーズのことは頼んだぞ!」
「はっ!」
私たちが王都を脱出しようとした直後、凄まじい炎がお父様を飲み込んだ。
「お父様っ!!」
私は父の命令で、従騎士レベッカや配下の騎士たちとともに王都から逃げた。
しかし、私は見てしまった。
敵の中に、実の兄であるマルコがいることを……!!
兄は、以前から自分が世界の王になると言っていた。
まさか、その兄が本当に裏切るとは思ってもみなかった。
マルコは魔族に混じって、王国の騎士たちを次々に殺していた。
私たちは、父の命令で命からがら王都からの脱出に成功する。
その後、道中魔物の群れに襲われてしまう。
私たちはあっという間に囲まれ、苦戦を強いられた。
「これまでか……!」
もうダメだと思ったその瞬間。
五人組みの冒険者が空から突然現れ、私たちに加勢する。
一人一人が圧倒的な実力を持っているようで、私たちが複数人で挑んでも苦戦する魔物を、分散して挑んでも圧倒した。
特に、青い鎧を身に纏った騎士はメンバーの中でも最も強いようだ。
剣で次々に魔物たちを薙ぎ倒し、同時に魔法も使いこなす。
そして、そのうちの一人はドラゴンから人間の姿に変身した少女で、口から炎を吐いて魔物たちを一掃した。
この子、竜族か。
ドラグーン大陸の中央部には竜族が生息していると聞いたことがあるが、もちろん実際に見るのは初めてだ。
そして、私たちが苦戦していた魔物たちを、冒険者たちはあっという間に倒してしまった。
「魔物たちは片付けたみたいだから、ボクは里に帰るね。バイバーイ」
竜族の少女は、そう言うと再びドラゴンに空へ飛んでいってしまった。
「大丈夫ですか?」
「あなたたちは?」
「僕はファイン・セヴェンスと申します。冒険者パーティー、星の英雄たちのリーダーです」
「なるほど。あなたたち勇者パーティーの一員なのね」
なるほど、道理で強い訳だ。
星の英雄たちとは、エノウ大陸における第二次王帝戦争で、ローランド王国軍の勝利に貢献した英雄のことである。
その後、ノトリア大陸で魔王軍を退けたこともすでに知っている。
まさか、他の大陸で活躍したと名高い勇者たちがルドラ王国にまでやってくるとは思ってもみなかった。
「失礼。私はリーズ・ヴァン・ルドラ。ルドラ王国の第一王女よ」
私は軽く自己紹介をした。
その夜、私は彼らにこれまでの出来事を話した。
王都ディアスが陥落したこと。
父が死んだこと。
そして、兄・マルコが裏切ったことを。
「私は誓ったの。ルドラ王国をこの手に必ず取り戻すとね。そして、お父様の意志は私が必ず継ぐわ」
「僕たちも協力させてください。このままディアブロを……いや、魔王を野放しにはできません」
すると、ファインは私たちに協力してくれると言った。
かの有名な英雄が私たちの味方になってくれるとは、これほど心強いことはないだろう。
数多の戦いで勝利を納めてきた星の英雄たちなら、きっとこの戦いでも勝利をもたらしてくれるはずだ。
「助かるわ。朝になったら、西の都サイドに向けて出発しましょう。生き残っている人はまだいるはずよ」
私たちはルドラ王国で二番目に大きい都市サイドを目指すことになった。
サイドには、まだ魔族の魔の手が及んでいないことに賭けて。
■■■■■
僕たちは、ルドラ王国西部にあるサイドという都市に到着した。
様子を見る限り、この街はまだ魔族の襲撃に遭っていないようだ。
しかし、今はいつ魔族が攻めてきてもおかしくない状況だ。
そのため、早く対策を立てないといけない。
「おお、リーズ殿下……! 殿下がこの街にいらっしゃるとは光栄です」
街の人たちも、リーズ王女が来たことに感動しているようだ。
「リーズ殿下! 殿下がご無事で嬉しい限りです!」
ルドラ王国軍所属と思われる兵士や騎士たちもこの街に集まっていたようだ。
「みんな! 私もみんなが無事でよかったです」
「王都が陥落したと聞いて、皆殿下の身を案じていました。ですが、殿下のお姿を一目見て安心いたしました」
「心配をかけましたね。私はこの通り無事です。こちらの冒険者たちが助けてくれたお陰で」
「あなた方が殿下を助けてくれたのですね。私たちからもお礼申し上げます」
ルドラ王国の騎士たちは、僕たちに頭を下げて感謝した。
「早速ですが、これから王都奪還のための作戦会議を行おうと思います」
「はっ。承知いたしました」
その後、街の会館にて王都奪還のための作戦会議が行われることになった。
この作戦のリーダーはもちろん、リーズ王女である。
そのため、王女主体で作戦会議が行われることになった。
「では、これより作戦会議を開始します。ルドラ王国の王都ディアスが魔族によって攻め込まれ、魔王軍に占領されてしまいました。そして、私の兄であるマルコ・ヴァン・ルドラが裏切り、魔王軍に寝返りました」
「マルコ王子が裏切ったって……!?」
「そんなバカな……」
「マルコ王子は前々から、世界の王になるとおっしゃっていたが、まさか魔王軍に寝返るとは……」
ルドラの王子マルコが裏切った。
その話を聞いた兵士たちから瞬く間にどよめきが走った。
その衝撃は、計り知れないものであろう。
すると、騎士レベッカが大声を出してその場を静める。
「静粛に。姫様の話を聞くように!」
「まず、具体的な作戦の内容ですが、王都を包囲し、全方向から一斉に攻撃をしかけます。最初の一手で全てが決まると言っても過言ではありません。そのためこの攻撃は非常に重要です。できる限り、敵に反撃の隙を与えないようにしてください」
なるほど、最初に総攻撃を仕掛けることによって、敵の反撃を許さないつもりか。
「兄は魔王軍と結託し、世界をその手に納めようとしています。兄がルドラの王になれば、ルドラは破滅するでしょう。いいえ、世界は闇に呑まれてしまいます。それこそ、魔王の手によって。私たち“人類”は、それだけは何としても避けねばなりません。今回は王都ディアスの奪還、そして、兄を……裏切り者のマルコの討伐を行います」
「同感です。ルドラをこの手に取り戻しましょう!」
「今回は星の英雄たちという冒険者パーティーが協力してくれるとのことです」
「おお、エノウ大陸の英雄が加わってくれるとは……これで我らの勝利は間違いないでしょう!」
リーズ王女から僕たちが紹介されると、ルドラ兵たちの士気は瞬く間にあがった。
これは責任重大だな。
「出発は明日の正午を予定しています。それまで、各員準備しておくように。それでは作戦会議を終了し、解散します」
リーズ王女が敬礼をすると、他の兵士たちも敬礼した。
その直後、兵士たちは各自解散した。
■■■■■
会議後、何となく修練場に足を運んでみた。
すると、ルナが弓矢を的に向かって撃っていた。
「うーん、なかなか当たらないわね」
どうやら、射撃練習をしているようだ。
僕は彼女に声をかけて見ることにした。
「ルナ」
「あっ、ファイン!」
「何しているんだい?」
「今度から弓矢を使って戦おうと思って、さっき武器屋で買ったの。今練習しているところなのだけれど、なかなか当たらないわね」
「どうして急に?」
「今まではファインやヒューイと同様に私も前線で戦っていたでしょう? それだとバランスが悪いかなって思って」
確かに、星の英雄たちは前衛は三人で、後衛が一人である。
他の冒険者パーティーと比較すると、少し偏ったパーティー構成となっている。
彼女のいう通り、後衛が一人増えればよりバランスの良いパーティーとなるか。
ルナは的に向かって矢を一発放った。
「あっ、当たった!」
矢は的の中心に当たった。
この子、相当覚えが良いのか。
初心者で的の中心に矢を当てられる者はそうそういない。
「すごいじゃないか」
「エヘヘ、ありがとう」
「もう夜だし、僕は寝るよ。明日は早いから、ルナも早く寝ろよ」
「うん、わかった。もう少し練習してるね」
「ああ」
「ねえ、ファイン?」
「うん?」
「王都奪還、頑張ろうね」
「ああ」
魔王アガレスの野望は、何としてでも阻止しなければならない。
そのためには王都ディアスを……いや、ルドラ王国は何としてでも取り戻さなくてはならない。
だが、これから先は想像以上の困難が待ち受けているに違いないだろう。
それでも、ここで足を止める訳には行かない。
僕たちは困難に立ち向かわなくてはいけない。




