第173話 双子の魔族
魔王城にて。
魔王は水晶で戦いの様子を終始見ていた。
玉座の間に、カミラが現れた。
「魔王様、ジェイソンたちが勇者パーティーに敗れたようです」
「知っている。今、戦いの様子を見ていたところだ」
「結果はやはり、魔王様の予想通りだったようですね」
「フン、ジェイソンどもめ。やはり使えぬな。まあよい。所詮、奴らはゴミ同然の存在よ。とは言え、勇者たちもそれだけ侮れぬ存在ということだな」
魔王とカミラが会話していると、玉座の間に二人の魔族が突然現れた。
「「お呼びでしょうか、魔王様」」
「来たか、ネラとメラよ。聞いての通り、ジェイソンたちが勇者どもに敗れた。お前たちには、直々に勇者撃破の任務を与える」
「「はっ、ありがたき幸せ!」」
暗闇で見えなかった二人の顔が明らかになってきた。
二人の魔族は同じ顔をしていた。
つまり、ネラとメラは双子である。
「行け。ネラとメラ、双子の姉妹よ。お前たちの実力を勇者どもに知らしめるのだ!」
「「はっ!」」
ネラとメラは魔王城を出発する。
「聞いた? メラ」
「うん、聞いたよネラ」
「ジェイソンたちが敗れたって」
「あいつら、ただのザコじゃん。あたしたちの足元には遠く及ばないよ」
「まあ、勇者ってもただの人間だし、余裕っしょ!」
「そうそう。あたしたちの手にかかれば楽勝でしょ!」
「勇者たちを倒して魔王様に認めてもらえば、あたしたちが次の四天王入りも間違いなしだね!」
「だね!」
ネラ&メラは楽しそうに会話をしながら魔王城を飛び出した。
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現在、星の英雄たちは、リーズ王女率いるルドラ王国軍と行動を共にしている。
王都ディアス奪還に向けて移動しているところだ。
西の都サイドを出発してから四日が経つ。
この日はどんよりとした曇りの日である。
今は森の中を進んでいる。
木々の先は薄暗くて見通すことはできない。
そんな中、僕は怪しい気配を感じた。
「何か来る。気を付けて!」
僕が警告を発すると、全員が武器を構えた。
その直後、何者かが木々の隙間から僕を狙って攻撃して来た。
僕は咄嗟に剣を抜いてガードした。
「ファイン、大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ」
一瞬だったので姿がよく見えなかったが、聖剣に当たった感覚と音は金属のものであった。
つまり、刃物による攻撃である。
木陰から姿を見せぬ程の素早い攻撃方法は、暗殺者によるものか。
しかし、こんな人混みの中で精確に僕だけを狙うとは。
敵は相当な手練れに間違いない。
とはいえ、僕の命を狙う者は十中八九魔族であろう。
そう思った矢先、敵は姿を現した。
敵は二人組の魔族である。
「アンタがファイン・セヴェンスだよね? あたしはネラ。魔王四天王の一人だよ」
「あたしはメラ。同じく魔王四天王の一人だよ」
「魔王様直々の命令で、あたしらネラ&メラのコンビがアンタらを始末させてもらうよ!」
ネラとメラを名乗る魔族は、小柄な体格の少女であった。
それぞれの両手には、湾曲した片刃の双剣を持っている。
そして、一番の特徴は二人とも顔が同じである。
つまり、双子の姉妹ということだろう。
違いはネラが赤いリボンを、メラが緑のリボンをそれぞれ身に付けている。
「双子の魔族!?」
ルナも二人の姿を見て驚いている。
「リーズ王女たちは先に行ってください。ここは僕たちが足止めします!」
「本当に四人だけで大丈夫なの?」
「敵はたったの二人。それだけの人数に大勢で挑む必要はありません。何よりこいつらは強い。一般兵では力不足です。無闇に挑んで兵力を消耗させたくはありません」
「でも……」
「アンタ、オレたちを誰だと思っていやがるんだ! オレたちは天下無敵の星の英雄たちだぜ! そんじょそこらの魔族には負けないぜ!」
「わかったわ、くれぐれも死なないでね」
「はい」
リーズ王女率いるルドラ王国軍は先へ進んだ。
敵の狙いは僕だ。
ならば、ここは僕たちが足止めをかけるべきだろう。
その隙にルドラ軍は先へ進ませて、一刻も早く王都ディアスへ辿り着いてもらうべきだ。
『気を付けて、ファイン。こいつらとっても強いわよ!』
「わかっているさ、エクス」
「行くよ、勇者ファイン!」
「アンタの首を魔王様に差し出して、あたしたちは次の魔王四天王に認めてもらうんだからね!」
ネラ&メラはそう言うと、突然姿を消した。
「!?」
その直後、ネラ&メラは木陰から左右交互に飛び出してきた。
僕は聖剣を使って上手く防御した。
「へぇ~、アンタなかなかやるじゃん」
「あたしたちの攻撃が避けられたのも初めてだよ」
「やっぱり勇者と名乗るだけはあるね」
ネラ&メラは再び木陰の中に消えた。
木陰から敵が飛び出してきた。
僕は聖剣を使って迎撃を行う。
相手は素早く僕の攻撃をかわした。
しかし、その後ろを双子のもう一人が走って来ていた。
そして、双剣で攻撃してきたため、僕は聖剣でガードした。
ところが、僕の背後から一人目が再び攻撃を仕掛けてくる。
挟み撃ちか。
僕はすぐにその場を離れたことで難を逃れた。
「この攻撃を見切るとは、なかなかやるね!」
「でも、うちらの攻撃にいつまで耐えられるかしら?」
ネラ&メラはそう言って、また木陰に姿を消した。
そして、息を合わせて突然飛び出してきた。
「速い!」
二人は左右から交差するように攻撃してきた。
目にも止まらぬ程のスピードで猛攻を浴びせてくる。
「チッ、素早い!」
するとその時、僕の後方から目にも止まらぬ速さで矢が飛んできた。
ルナが援護射撃をしてくれたのだ。
しかし、ネラは素早く身を退いて回避する。
「援護射撃か。命拾いしたね」
「でも、その程度じゃあたしたちは倒せないよ」
ネラ&メラはそう言って、また木陰に消えた。
「探知」
僕は感覚を研ぎ澄ませ、双子が攻撃してくるのを待ち構える。
それから、程なくしてネラとメラは息を合わせてクロスアタックを仕掛けてきた。
僕は瞬間移動で回避し、双子の一方の背後に回り込んだ。
「消えた!?」
そして、聖剣で首を狙って攻撃した。
ところが、僕の斬撃はあっさり回避されてしまった。
勘のいいヤツだ。
「なかなか楽しそうじゃねぇか、ファイン! オレも混ぜろ!」
「楽しくなどない。二人は強敵だ。気をつけろ!」
「おう!」
ヒューイも戦闘に加わった。
「今度はオレ様が行くぜ。おりゃああああああああ!!」
ヒューイはいつも通り雄叫びをあげながら、斧を構えて突っ込んだ。
そして、双子に向かって思いっきり斧を振り下ろした。
しかし、強烈なその一撃を双子は難なく躱す。
双子が息を合わせてヒューイを攻撃する。
だが、ヒューイも負けてはおらず上手く盾で防御した。
「チクショー、なかなか素早いヤツらだぜ!」
「下がれ、ヒューイ。君では二人の速さに追いつけない!」
そう言って、僕は再び双子に挑む。
ネラに対して聖剣の一撃を与える。
刃が敵にかすり、傷口から血が出てきた。
しかし、その傷は程なくして塞がった。
「アンタの持っているその剣、聖剣エクスカリバーっていうらしいね。あたしら魔族の弱点になっているらしいけど、今の感じだと大したことなさそうだね!」
「何せあたしたちは、上級魔族だからね!」
なるほど、どうやらエクスカリバーの力はまだ未完成のようだ。
そして、今のままでは強力な魔族相手に致命傷を与えることは難しい。
したがって、心臓などの急所を突く必要がありそうだ。
「こうなったら、二人を引き離す。風斬刃!」
二人を引き離し、メラの背後に瞬間移動した。
しかし、僕の攻撃はかわされてしまう。
まるで、攻撃が来ると分かっていたみたいだった。
「おりゃああああッ、破断岩斧!!」
ヒューイが双子のもう一方である、ネラに斬撃をかます。
だが、その一撃は容易にかわされてしまった。
そして、双子はまた一緒になって、僕に攻撃を仕掛ける。
「その首もらったよ!」
「低速化!」
セレーネがデバフの魔法をかけて双子のスピードを下げようとする。
その隙に、僕は聖剣で一気に畳みかけようとした。
ところが、双子の素早さは落ちておらず、依然として素早い動きで難なく回避する。
「こいつら、全然スピードが落ちていないぞ!?」
「残念。あたしら、低速化の魔法に耐性あるんだよね」
なるほど、どうやら暗殺者たるネラ&メラのスピードを下げることはできないようだ。
戦闘開始時にセレーネが高速化をかけたため、全員の素早さが上がっている。
しかし、それでも双子のスピードは速く、追従するのに苦労しているところだ。
「ところでメラ、後ろのサポーター、生かしておくと後々厄介になるかもよ」
「そうだね。先にやっつけちゃおう!」
双子の標的が変わった。
二人は物凄いスピードでセレーネに迫る。
「セレーネ!!」
ところが、ヒューイが盾でセレーネを守った。
「危ないところだったぜ。オレがいることを忘れてもらっちゃあ困るぜ!」
「ちぇっ、惜しい惜しい!」
「命拾いしたね!」
僕は隙を見計らって、何とか反撃に出る。
しかし、双子の一人に攻撃を受け止められてしまう。
ネラ&メラは、素早い動きを駆使して僕たちを翻弄する。
双子姉妹のコンビは思いのほか強く、苦戦を強いられる。
「やはりこいつら、今までの魔族とは違う!」
「当然でしょ。あたしたちは双子のコンビなんだから」
「他の魔族とは比べものにならないよ!」
「ならば、今度はオレ様が行くぜ!」
ヒューイが双子に戦いを挑む。
しかし、その素早さに追従できずにダメージを受けてしまう。
「その程度の速さじゃ、あたしらにはついてこれないよ!」
しかし、元の頑丈さに加えて、セレーネが支援魔法をかけたお陰でダメージは軽減されていた。
「チクショー、オレの攻撃をかわすとは! オレ様が頑丈だったから大したダメージを受けなかったからいいがよ」
「くっ! アンタ意外と頑丈ね」
セレーネがすぐに傷の治療を行う。
ヒューイが気を引いてくれている隙に、僕は双子に攻撃を仕掛ける。
しかし、双子にはすぐに気づかれてしまい、そのまま回避されてしまう。
「チッ! 反応が早い!」
「二人とも、離れて! マルチショット!」
ルナが後方から複数の矢を用いて、援護射撃を行う。
その矢は、強靭かつ高速で敵に向かう。
並みの魔族なら避けることすらかなわない。
しかし、すばやい姉妹に矢をなかなか当てることはできない。
「ネラ、あの弓使いの女厄介だよ。先に始末するね!」
「おっけー」
メラはあっという間にルナに肉薄し、剣で斬ろうとする。
「速い!」
「もらったよ」
一方、ルナはカウンターのハイキックを、メラの顔面に向けて放つ。
しかし、ネラはのけぞって素早く回避した。
「危ない危ない。アンタ、その動き……どうやら接近戦もできるみたいだね」
ルナが接近戦も得意とすることを一瞬で見抜くメラ。
「アンタたち、なかなかやるねぇ」
「でも、次で終わりにするよ!」
「こうなったらバラバラに挑まず、チームで畳み掛けるぞ!」
「ええ!」
「おう!」
「私がバフの魔法をかけます。高速化!」
僕とヒューイで、双子に向かってダッシュする。
「おりゃああああああああッ!!!」
ヒューイがネラに向かって斧を振り下ろす。
ネラは最小限の動きで回避し、双剣で反撃しようとする。
その前に僕がヒューイの後ろから近づいて攻撃する。
そのため、ネラは回避するしかなく、反撃を断念した。
剣と斧を使い、絶え間のない攻撃を仕掛ける。
ルナが後方から弓矢で援護射撃を行う。
反撃の隙を与えることなく、一斉に攻撃する作戦で行くことにする。
僕たちは次第に、ネラとメラを追い詰めていく。
「この程度のことで……!!」
ネラ&メラは負けじと、素早い動きで僕に近づく。
「速い!」
そして、目で捉えることが不可能な程の速さで僕に攻撃を仕掛ける。
僕は近づいてきたメラに聖剣を振る。
ところが、メラが回避したすぐ後方に、ネラが迫ってきていた。
「もらったよ!」
ネラは左手の剣で僕を刺突し、刃によって僕の身体は貫かれた。
「ファイン!!」
「やった! ……!? こいつ、手応えがない……?」
「ネラ、離れて!! そいつ、何かおかしい!」
メラは、ネラに警告を発する。
その瞬間、僕は聖剣でネラに対して力強い斬撃を放つ。
ネラは瞬発力を駆使し、ジャンプで後退した。
しかし、回避しきれず左腕を切断した。
「ぎゃああああああああ!!」
ネラは痛みに耐えられず悲鳴をあげる。
聖剣で腕を切断されては痛かろう。
「ネラ!! おのれ、よくもネラをやってくれたな!」
メラが心配そうに、ネラのもとに駆け寄る。
「でかした、ファイン!」
「いや、まだだ。腕を斬っただけで、まだ致命傷じゃない」
「なんだと!?」
「お前たちは決して許さない! この借りは必ず返す。覚えておけ、ファイン・セヴェンス!」
捨て台詞を吐き、ネラ&メラは撤退する。
「ファイン、大丈夫?」
「ああ。見ての通り、僕は平気だ。しかし、旅に遅れが生じてしまったか」
僕は無傷であり、鎧も損傷していない。
しかし、戦いは大分長引いてしまった。
急いでルドラ王国軍を追いかけなければいけない。
僕たちは、少し休憩を挟んでからすぐに出発した。




