第168話 魔王の怒り
ローランド王国の王都エスト北部平原にて。
魔族の兵たちが襲撃をかけていた。
初めこそ魔王軍が有利であったが、次第にその戦力差は覆されることになる。
アポロの巧みな指揮のもと、魔族たちを追い返していった。
「遠き天空よ、我が叫びを雷として結集し、邪なる者を打ち砕け! 稲妻斬撃!!」
アポロの放った必殺技によって、多くの魔族たちは切り刻まれた。
この攻撃によって、魔王軍は戦力の半分を喪失した。
「チクショー! 人間の分際で、我ら魔族に対して……!!」
「撤退だ、撤退せよ!!」
王都エストを攻略していた魔王軍指揮官の言葉によって、魔族の兵士たちは次々に撤退していった。
これによって、ローランド王国軍は王都エストの防衛戦に勝利する。
「まさか、人間にもこれほどの力を持った者がいるとは……ローランド王国軍の戦力を見誤った……!!」
生き残った魔族たちは、とりあえず魔大陸に帰還する。
一方、戦いに勝ったローランド王国の騎士たちは鬨の声をあげた。
「セラフィー将軍、魔王軍は撤退しました。これによって、我が軍の勝利です!」
「ああ。しかし、我が軍も三割の兵力を失ってしまった。今の我々にとってはかなりの痛手だな」
「ええ。それに、次の襲撃がいつあるか分かりません。次の襲撃に備えて、できる限り兵力は温存すべきでしょう」
「ああ、そうだな」
戦いの後、ローランドの騎士たちはエストに戻った。
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魔王城にて。
玉座には魔王アガレスが座している。
十名ほどの兵士たちが、玉座の間に集められた。
「どういうつもりだ?」
「……」
「私に無断で出撃した挙句、ローランド王国で人間に敗退し、おめおめと逃げ帰って来たそうだな? これでは、魔族としてのプライドが廃るではないか」
「ま、魔王様!? なぜそれを……」
「私が知らぬとでも思っていたのか? 通信用の魔導具を使い、貴様らの戦いぶりを見ていたのだよ。王都エストで白金騎士セラフィーと戦い、無様に敗れ去っていく貴様らの姿をな」
「違うんです! これには訳が……!」
「何が違うと言うのだ?」
「私たちはただ、少しでも魔王様のお役に立ちたいと思い……!」
「言い訳は要らぬ。おおかた、功績を挙げるために出撃したのだろう? この無能が。貴様らのような無能など、もはや魔王軍には不要だ」
「わ、私はまだ魔王様のお役に立てます! 魔王様、どうかお慈悲を!!」
命乞いをするものの、魔王は構わず右手から闇の炎を放つ。
「ぐわあああああああああああああッ!!」
魔族の一人は炎によって跡形もなく消し炭となった。
兵士たちに戦慄が走る。
魔王は突如、玉座から立ち上がった。
「さて、貴様らはどう弁明するのだ?」
魔王の矛先は、別の魔族に向いた。
しかし、誰も自ら出向こうとはしなかった。
そこで、魔王は一人の魔族を指名した。
「おい、貴様」
「は、はい!」
「貴様はなぜ独断で出撃した?」
「わ、私は魔王様のお役にたちたいと思い、出撃しました!」
「私の足を引っ張るとは考えなかったのか?」
「違います! 私はただ、魔王様のお役に立ちたいと……!」
「くどいぞ」
魔族は魔王に処刑された。
「魔王軍に、そのような無能など要らぬ」
魔族の兵士たちは一人、また一人と処刑されていった。
その様子を見ていたディアブロは静かに笑う。
一方、魔王の側近であるカミラはその様子を静かに見ていた。
しかし、魔王はまだ全ての部下を処刑してはいなかった。
一部の者をあえて生かすことで、恐怖心を植え付けようとしていたのだ。
残ったのはたったの三人。
その中で、魔王は一人の魔族を指名した。
「おい、そこの貴様」
魔王に呼ばれた魔族はビクッとした。
「名は何という?」
「ジェ、ジェイソンと申します!」
「ああ、そうだったな、ジェイソン。この魔王アガレスが直々に貴様へ命ずる。光栄に思うがよい。貴様には星の英雄たちの討伐を命ずる」
「星の英雄たち……ですか?」
「どうした? 貴様も魔王軍幹部の端くれなのだから、勇者を討ち取る事など容易いのだろう? それとも、貴様も今この場で私に処刑されたいのか?」
「い、いいえ! 滅相もございません! 勇者一行は私が倒します!」
「兵を何人か連れて行って構わぬぞ。どんな手を使ってでも、必ず勇者どもを討ち取るのだ」
「はっ、必ずや魔王様のご期待に応えて見せます!」
「その言葉、忘れぬぞ」
「はっ!」
魔王は、ルドラ王国へ行きファイン達を討ち取るように命ずる。
ジェイソンは半ばやけくその状態で魔王城を出ていった。
(くそっ、バカな! ただの人間に勝てない俺が、勇者どもに勝てるワケないだろ!!)
「アポロ・セラフィー……ローランド王国の白金騎士か。奴は相当侮れん存在だな。やはり人間の中にもなかなかの強者がいるようだ。ところでディアブロよ、ルドラ王国の攻略状況はどうなっているか?」
「はい。先日、ルドラ王国の王都ディアスを陥落させることができました。予想以上に上手く行きました。クックックッ、やはり魔界から“魔の者”を召喚しておいて正解でしたね。それから、我々に協力を申し出た人間もいました。何でも、世界を手中に納めたいとか……」
「そうか。そのような愚かな人間は、利用するに限る」
「クックックッ。ええ、そうですね魔王様。そして、利用して、最終的に用済みになったら捨てる。それでいいですね、魔王様?」
「そうだ。それで構わぬ」
「では魔王様、私は引き続きルドラ王国を侵略していきたいと思います」
「頼んだぞ、ディアブロよ。ジャーク亡き今、お前が頼りだ」
「クックックッ、お任せを」
ディアブロは魔王のもとから姿を消した。
そして、ディアブロはルドラの王都ディアスに到着する。
ルドラの城では、ルドラ王国の第一王子マルコとディアブロが何やら会話をしていた。
「では、健闘を祈りますよマルコさん」
「ああ、協力感謝するぞ」
「あなたにはここまで協力してあげたのですから、それ相応に成果を出してもらわないと、私たちも困るのですよ」
「心配するな。俺は必ずルドラの王になる。そして、ドラグーン大陸の……いや、世界の支配者に俺は必ずなってみせる!」
「クククッ、その意気です。では頼みましたよ、マルコさん」
ディアブロは、転移してそのままルドラ城を去った。
マルコは、自分がディアブロを利用していると思っていた。
しかし、逆にマルコは魔王に利用されていることに気がついていなかった。
普通の人間が、魔王に敵うはずがないのだ。




