第162話 悪魔の力
ヴァイスを倒した後、僕たちは山を登る。
攻撃が飛んできた方角からして、こちらで間違いないはずだ。
そして、山の中腹付近の開けた地形に、ゲブたちが陣取っていた。
相手の構成は弓兵と魔法使いばかりで、接近戦を得意とする兵種はいない。
「ゲブ!」
「ここまで来るとはな! だが、これ以上好きにはさせんぞ! やれ!!」
ゲブの指示で、敵兵たちが一斉に矢と魔法を撃ってきた。
しかし、セレーネの結界によって防がれた。
「な、なにぃ!?」
攻撃が防がれたことにより、ゲブたちは驚愕していた。
「ヘッ! オレたちに挑もうってか! そう来なくっちゃあな!」
ヒューイは背中から斧を抜いた。
相変わらずやる気満々である。
しかし、僕はそんな彼を手で制止した。
「待て、ヒューイ」
「ああ?」
「僕たちはここへ戦いに来た訳ではない。武器を下ろしてくれ」
「武器を下ろせだと? そんな言葉で、わしらが従うとでも思っているのか!!」
僕はゲブに対して説得を始める。
しかし、ゲブたちは聞く耳を持たず、再度攻撃してきた。
だが、それはセレーネの結界によって防がれる。
「チッ、バケモノめ!」
「これ以上の戦いは無意味だ。今すぐ戦いをやめるんだ!」
「何を愚かなことを……貧しい子供たちのために、わしらは戦わねばならんのだ!!」
「その事を国王に相談しよう。国王なら、この状況を何とかしてくれるはずだ!」
「バカな! 王は腐っているのだぞ! 現状を見て、貴族や王家は何もしない。自分たちさえ良ければ、それで良いと思っている! この国はそれほどまで腐っているのだぞ!! わしは若い頃、結婚していた。娘もいた。だが、わしの妻子は戦禍の炎に巻き込まれ、命を落とした。それ以来、わしはこれ以上の犠牲者を出さないために戦った。これ以上、子供たちがわしの娘と同じ不幸を繰り返さないためにな。だが、王家や貴族たちは、そんなわしの思いを蔑ろにしたのだぞ! 今でも、貧しい子供たちは、飢えに苦しんでいる!」
「なん……だと……!?」
ゲブの口からは衝撃的な事実が発せられる。
エルトリアの国王や貴族たちは、国民の貧困を放置しているという。
そんな飢餓に苦しむ子供たちのために、ゲブは王族と戦うという。
「わしは誓ったのだ。これ以上、この国に哀れな子供たちを作らないと。子供たちの未来のため、この【革命】……何としても成功させねばならんのだ!!」
「ならば、僕が何とかしよう! だから、これ以上の戦いはやめてくれ!」
「黙れ小僧!! まだ言うか!! お前に子供たちの傷が癒せるのか? 飢えた子供たちを救えると言うのか! 綺麗事ばかりでは世の中は変えられぬ! わしらは、最早後戻りは出来んのだよ。そのためにはこの戦い……何としても勝たねばならんのだ!」
僕の言葉に、ゲブはひどく激昂する。
すると、そこに傷だらけのヴァイスがやって来た。
「ゲ、ゲブ様……」
「もう復活したのか……!」
「ヴァイス! 生きていたのか!? そうだ、あの【秘薬】を飲むのだ! アレン殿からもらった、あの秘薬だ!」
「はっ!」
「アレンだと? 待て! それは飲んじゃダメだ!!」
ゲブは、【アレン】という人物の名を口にする。
そして、二人はポケットから小瓶を取り出した。
中身は血のような真っ赤な液体であった。
嫌な予感がしたので、僕はゲブたちを止める。
「勇者ファイン、貴様にはここで死んでもらう!」
ゲブとヴァイスは僕の制止を無視して、秘薬と呼ばれたその中身を一気に飲み干した。
「「うおおおおおおおおおおおおおッ!!!」」
秘薬を飲んだゲブとヴァイスは、苦しそうな叫び声をあげる。
すると、二人の身体はみるみるうちに肥大化していった。
身長で言えばヒューイをも容易く超え、オークに近い体型となった。
「なんだこの姿は!?」
「そんな! ウソでしょ!?」
「おいおいおいおい! なんなんだよ、これは!?」
「この状況はまずいです!」
「力がみなぎって来たぞ……! 素晴らしい……素晴らしい力だ!」
「今まで以上にパワーを感じる! 星の英雄たちよ、もうこれでお前らに遅れは取らん!」
謎の薬を飲んだゲブとヴァイスの身体は肥大化した。
服は破れ、その身体は筋肉質となっている。
その姿は、まさしく化け物と呼ぶに相応しい。
だが、これで決まりだ。
ゲブ謀反の裏には、間違いなく魔王アガレスが関わっている。
「ゲ、ゲブ様!? ヴァイス副隊長!?」
「逃げろ! 早く!!」
「う、うわああああああああああああ!!!」
ゲブの部下たちは一斉に逃げ出す。
「行くぞ、星の英雄たち!」
ゲブとヴァイスは、僕たちに挑んできた。
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魔王の秘薬を飲んだゲブとヴァイスは、化け物のように身体が肥大化した。
恐らく、あの薬の中には魔王の血が混ぜられているのだろう。
「間違いない。ゲブ謀反の件に魔王アガレスが裏で関わっている。しかし、遅かったか! 魔王の手が、もうここまで回っていたとは!」
「ええ、そうね」
「さあ、行くぞ! あの時の恨み、今ここで晴らさせてもらうぞ!」
ゲブはそう言うと、こちらに向かって走って来た。
それと同時に、僕たちの後ろからはヴァイスが迫って来る。
その巨体ゆえに足は速くないが、走るたびに地響きが起きる。
「どうするんだよ、ファイン!?」
「できれば、二人を救いたい。何か方法はないのか!?」
「そうは言ったってよぉ……!」
「よそ見をしている場合ではないぞ、星の英雄たちよ!」
ヒューイと話し合っているうちに、ゲブが接近する。
そして、ゲブは右手のパンチで攻撃してきた。
それに対して、ヒューイは盾で防御する。
「うおおおおッ!? 何てパワーだ!」
ヒューイはパンチの衝撃で後ろによろける。
獣人の力を持つヒューイですら、その攻撃力に押され気味である。
今度は後ろからヴァイスが近づき、ゲブと同様にパンチを繰り出す。
僕たち全員、空中にジャンプしてかわす。
動きは遅いので、回避は容易だ。
しかし、あまりの威力により、衝撃と共に地面が抉れた。
「やはり、圧倒的な破壊力だ!」
魔王の血は、人間にここまで常人離れした力をもたらすようだ。
だが、僕たちは彼らと戦うためにここへ来た訳ではない。
なんとか二人を救う方法はないのか。
「どうした!? わしらに対して、手も足も出ないようだな!」
その後も、ゲブとヴァイスは暴れまわる。
二人を傷つけたくない僕たちは回避に徹する。
「ファイン! どうやら、あの二人に話し合いは通じないようだぜ! こうなったら戦うしかねぇ!! おりゃああああッ!!」
ヒューイはそう言うと、斧を構えてヴァイスに突撃した。
「破断岩斧!!」
強烈な斧の一撃は、ヴァイスの頭に命中した。
「よし、手応えバッチリだぜ。……ッ!?」
ところが、ヴァイスはダメージを厭わず反撃してきた。
ヒューイはすぐに避けたので何ともない。
苦痛すら感じていないのか。
そして、ヒューイから受けた傷はすぐに回復した。
「おいおい、マジかよ!? オレの必殺技が通用しねぇのかよ!?」
「今の一撃……なかなかの一撃だったぞ。だが、その程度の攻撃は今のおれには通用せん!」
「フハハハハ! もはや、わしらに敵う者など、誰一人としておらん! さあ、引き続き戦いを楽しもうぞ!」
「くっ! やはり、戦うしかないのか……!」
僕は仕方なく剣を構えた。
すると、ゲブたちは走ってこちらに近づいてきた。
相手は接近すると、また強烈なパンチをお見舞いする。
しかし、僕は最低限の動きで回避する。
そして、剣で刺突して反撃した。
刃がゲブの身体に刺さり、傷口から血が出てきた。
しかし、傷はすぐに塞がり止血した。
「やはり、すぐに再生する!」
一方、ヒューイは引き続きヴァイスと交戦する。
しかし、ヴァイスの再生能力に苦戦していた。
「ザコが! その程度ではおれは倒せん!」
「チクショー! 星の英雄たち最強のファイターであるこのオレをザコ呼ばわりするとは! オレ様のプライドってモンが傷付くぜ!」
「見たか! これでお前らは、わしらに敵わないことが完全に証明された。さあ、ここらでトドメを刺してやるぞ!」
ゲブはそう言うと、力を溜めた。
「……グハッ! こ、これは一体……!?」
ゲブとヴァイスは、突然血を吐き苦しみはじめた。
「やはり、出てきたか。薬の副作用が……!」
すると、フードを被った男が突然現れた。
「お、お前は……!」
「大変そうだな、ゲブ殿」
「き、貴公は……アレン殿!? わしは今とても苦しいのだ……お、お願いだ……助けてくれ」
「どうやら薬の副作用がでてきたようだな。その秘薬は、人間の身体能力を極限まで高めることができる。しかし、同時に肉体が崩壊するという副作用が発生する。だが、残念ながら薬の副作用を治すことはできない」
「そ、そんな!! 貴公が作った秘薬であろう!? 何とかしてくれ!!」
「……ゲブ殿。いや、ゲブ・スポイル。冥土の土産に教えてやろう。私は軍師アレンなどではない。私は魔王アガレス。世を統べるに相応しい魔王だ!」
魔王はそう言うと、フードを取って本性を現した。
「な、なにッ!?」
「どんな気分だ? 利用されて死んでいく気分は。貴様らにはエルトリア国王、並びに勇者どもを始末してもらおうと思っていたが……勇者一匹倒せぬとはな。失望したぞ、やはり人間は使えぬな」
「そ、そんな!? わしらを勝利へ導いてくれると約束したハズじゃ……!?」
「勝利だと? 勘違いするな。あくまでも、私自身の勝利の為に貴様らを利用したに過ぎん。全ては人類滅亡の為にな。ああ……やはり人間というのは、いつの時代も愚かなものだな。我々魔族が侵攻しているというのに、人類同士で争う。いつ見ても滑稽だな。虫酸が走る!!」
魔王はそう言って、二人を嘲笑った。
「き、貴様ッ……! 最初から、わしらを騙すつもりでッ……!!」
「クックックックッ、騙される方が悪いのだよ。では、さらばだ。あの世でこの魔王アガレスを恨むがよい……!」
「「ブギャアアアアアアアアアアアアアア!!!」」
けたたましい断末魔と共に、ゲブとヴァイスの身体は破裂し、大量の血が吹き出した。
二人は死んでしまった。
「魔王アガレス……!」
「一歩遅かったな、ファイン。貴様らがモタモタしている内に、私はすでに裏で手を回していたのだ。あと一歩でも早ければ、二人の命は救えたのだがな」
「貴様! 人の命を弄んで……!」
「では、私はこれにて失礼する。人類滅亡計画で忙しいのでな。また会おう、星の英雄たち」
「待てッ!!」
魔王は転移してこの場から消え去った。
「結局、二人を救うことが出来なかったか……」
それから、しばらくしてライズ王太子率いるエルトリア王国騎士団が追い付いてきた。
「ここにいたか、星の英雄たち」
「ライズ王太子殿下」
「ファイン・セヴェンス、並びに星の英雄たちの諸君。独断行動を取った君たちを、直ちに国家反逆罪で逮捕する」
ライズ王太子の口から告げられた言葉は、衝撃的なものであった。
独断行動した僕たちを逮捕すると言うのだ。
「そんな!? どうして……?」
「君たちの勝手な行動は目に余るものがある。我々に従ってもらおうか」
「ちょっと待ってください。ファインは、双方がいい方向へ行くように導こうと頑張ったんです! それなのに、どうして……?」
ルナが必死に僕を擁護しようとする。
しかし、ライズ王太子はそれを認めようとはしなかった。
「いい方向へだと? 冗談ではない。君たちがやったことは、敵に塩を送る行為……即ち、重大な国家反逆罪だ」
「おいおい、ふざけるなよ! 国家反逆罪って……ファインがそんなに悪いことをしたってのかよ!!」
「私も納得が行きません。どうか、ファイン様の国家反逆罪を取り消していただけないでしょうか」
「大人しく従わない場合は、君たちを即刻この場で処刑しても構わないが?」
「くっ……!」
「なんだと!?」
「よせ。ヒューイ、セレーネ」
ライズの指示により、兵士たちは武器をこちらに向けてきた。
「しかし、ライズ殿下。いくら何でもこれはやりすぎでは? 星の英雄たちは味方の為に……」
「エリーゼ殿、今は慎んでいただきたい。軍の指揮官は私だ」
「はっ、申し訳ありません」
「星の英雄たちよ。どうか無駄な抵抗はしないでもらいたい。できれば我々も君たちを傷つけたくないのでな」
「くっ! ……わかりました」
「よし、ファイン・セヴェンス達を連れて行け!」
僕たちは国家反逆罪という事で、エルトリア王国軍に連行されることになった。




