第160話 元傭兵団の男
ライズはヘイルとの一騎打ちを開始する。
「やるな、ヘイル!」
「当然だぜ、ライズ。オレは今まで、幾多もの修羅場を切り抜けてきたんだ。そう簡単にやられないぜ!」
ヘイルは生まれついての孤児だった。
親はおらず、一人ぼっちであった。
幼い頃、生きていくために盗みを働いていたこともある。
十二歳からは正当な方法で稼ぐために、冒険者となった。
その後、ヘイルは腕を買われて傭兵団にスカウトされる。
前団長の死後、ヘイルは団長の任を引き継いだ。
それからというもの、祖国エルトリアの為にヘイルたちはゼオン帝国と戦い続けた。
戦後、ヘイルたちは盗賊に身をやつすことになった。
そして、現在に至る。
ヘイルは子供の頃から今日まで戦い続けている。
ゼオン帝国との戦いでは、常に死と隣り合わせであった。
そのため、ヘイルは戦いの中で生き抜く術を身に付けている。
その腕前も団長の名に恥じないものとなっており、並みの騎士では到底太刀打ちできない強さだ。
「ヘイル、なぜ我々が戦わねばならないのだ?」
「言ったろうがよぉ、オレはお前ら王族を許さねぇってな!」
「王国に忠誠を誓い、帝国と戦ってきた貴公がなぜ……!」
「『忠誠心』だと? ハッ、ヘドが出る!! そんなモン、とっくの昔に捨てたぜ!」
ライズとヘイルは、戦いながらも会話をする。
両者は互角の腕前だ。
互いの攻撃は決定打にならない。
「確かに、オレもかつては王国に忠誠を誓っていたさ。アンタに出会い、激励の言葉をもらった時は嬉しかった。それ以来、少しでも祖国のために役立てればいいと考えていた時期もあった。だが、オレは次第に現実を知ることになる。てめぇら王国騎士団は、いつもオレたち傭兵団を奴隷のように扱いやがる。そう、まるでオレらはゴミと言わんばかりにな。当然のように戦いではオレたちを捨て駒のように扱い、自分たちは常に安全圏にいる。結局はそれがお前ら騎士団の……いや、王族のやり方だろうがよ!!」
「なに……!?」
ヘイルの口からは衝撃的な事実が告げられる。
エルトリアの騎士団は、ヘイルたちを奴隷のように扱ったという。
その事にライズは驚愕する。
「そして、ゼオン帝国とのある戦いで、切羽詰まった王国軍はついに行動に出た! オレたちはいつも通り全線での戦いを命じられた。だが、こともあろうにッ! 騎士団は後方からオレたちごと矢や魔法で攻撃してきやがった!! この攻撃でゼオン帝国の部隊に大打撃を与えることができた。だが、同時にオレたちの同胞の多くがその攻撃で死んでいった!!」
「騎士団が、貴公ら傭兵団を捨て駒にしただと? バカな! そんな話、あろうはずがなかろう!」
「知らなかったとでも言うのか、王太子様? どんだけおめでたいヤツなんだ、テメェはよぉ!! お前の親父が仕組んだことだぜ?」
「父上が!? バカな、あり得ない!! そんなことはでっちあげだ! 父上はいつだって国民のためを思っているのだぞ!」
「いいや。戦後、オレの部下が騎士団からこっそり聞いた話だぜ。『国王は、薄汚い傭兵団を囮にし、騎士団は後方で戦えと言っていた』とな。ハッキリ言うぜ、ライズ。王家は……いや、エルトリア王国は腐りきっている! 本当に国民の為を思うなら、戦争で活躍したオレたちに報酬のひとつやふたつはくれてもいいだろうがッ! だが、国王はそんなオレらの頑張りを無下にし、ゴミのように使い捨てやがった! 仮にも王家の人間なら、てめぇにもその責任はあるんだぜ、ライズ!」
傭兵団を捨て駒にしたのは、実は国王の指示だったという。
その事実を知らないライズは、再び驚愕する。
まさか、国王たる自分の父親が、祖国のために戦ってきた傭兵団をそんな風に扱っていたとは夢にも思わなかった。
「オレはそんな腐ったエルトリアを変えるために、てめぇら王家を打倒し、この国に革命を起こす! 今日、エルトリア王国は新たな歴史を迎えるんだ! オレたちが新しい時代を創るんだ!!」
「ヘイル、貴公の言い分はよく分かった。だが、私とて、未来のエルトリア王国を継ぐ人間だ! ならば私は……エルトリア王国の民のため、王家の名誉のために戦う! 正義は私たちにある!」
ライズはそう言って、再び剣を構えた。
「フン、どちらの『正義』が正しいか、今この場で証明してやるぜ! おい、お前ら! 王太子殿下の首を取った者には、金貨五十枚をくれてやるぜ!」
「「「おおおおおおおおおおおお!!!」」」
ヘイルの部下たちが一斉にライズを狙う。
しかし、ライズとて剣の達人だ。
一対多の戦いであろうとも、そう簡単に負けることはない。
「舐めるな! 雑兵如きに遅れを取る私ではない!」
「さすがだな、ライズ。だが、この数を相手に果たしていつまで生き延びられるかな!?」
盗賊団は、ミネルバそっちのけでライズを狙う。
ライズは高い技量を活かして迫りくる敵を裁く。
盗賊団の一人一人は大した実力を持っていない。
しかし、多勢に無勢。
敵は次々にライズに迫って来る。
それもそのはず。
ヘイルは王家に不満を持つ者たちを仲間として集めていたのだ。
何とか目の前の敵を裁くことができたライズ。
しかし、そんな彼の背後に敵意を持つ者が一人……。
「さすがだな、ライズ。だが、オレがいることを忘れたのか!?」
ヘイルは部下たちを囮にし、背後からライズへの不意打ちを狙う。
「しまった!!」
絶体絶命のピンチ。
ヘイルの剣は、今まさにライズに到達しようとしていた。
ところが、その時であった。
「なにッ!?」
何者かが、ヘイルの剣を盾で受け止めた。
それは、聖騎士のエリーゼであった。
「ご無事ですか、ライズ殿下!!」
「エリーゼ殿か!? すまない、助かった」
「チッ、仲間か!? 厄介なヤツだぜ! だが、命拾いしたな、ライズ!」
「私は正義のために、貴様らを討つ!」
「エリーゼさん、私たちは露払いをします!」
「頼んだぞ、アリシア殿!」
「……いいだろう。二人同時に相手をしてやるぜ!」
ライズのもとには、聖騎士のエリーゼが加勢する。
二人は協力してヘイルに立ち向かうことにした。
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「来いよ、先手は譲ってやるぜ」
ヘイルは悠然と手招きし、二人を挑発する。
「行くぞ!」
先に仕掛けたのは、エリーゼであった。
「はああああっ!!」
エリーゼはヘイルに走って近づき、剣を振り下ろす。
しかし、その剣戟は容易く受け止められた。
「くっ!」
「威勢だけはいいようだな。だが、その程度じゃオレは倒せないぜ!」
ヘイルはすぐ反撃に移る。
その剣戟は強く激しい。
次第に、防戦一方になるエリーゼであった。
「つ、強い!」
「当たり前だぜ、嬢ちゃん。オレはガキの頃からずーっと戦い続けて来たんだぜ。そんじょそこらの騎士様には負けねぇぜ!」
エリーゼはヘイルに押されていた。
盾を使って上手く防御しているため、ダメージは免れている。
しかし、エリーゼは反撃すらままならない状況であった。
そして、ヘイルは一瞬の隙を突いて攻撃しようとする。
しかし、その攻撃はライズに受け止められた。
「無茶をするな、エリーゼ殿」
「はっ、申し訳ありません」
「ここは二人で行くぞ!」
「はっ!」
ライズとエリーゼは連携して挑むことにした。
「そう来なくちゃな!」
二対一だと言うのに、余裕の表情を崩さないヘイル。
それもそのはず。
ヘイルは子供の頃から、今日まで戦い抜いてきたのだ。
ゆえに一対多の状況でも苦戦することはない。
エリーゼとライズは、互いに絶え間のない攻撃をかける。
しかし、ヘイルはかすり傷一つ負うことなく、全ての攻撃をいなす。
戦闘経験では、エリーゼよりも上だ。
「なんて動きだ! 二対一で挑んでいるというのに!」
「そんな攻撃じゃあ、オレは倒せないぜ。嬢ちゃん!」
ヘイルは隙を突き、エリーゼに反撃する。
剣による鋭い刺突だ。
エリーゼは間一髪のところ盾でガードする。
ヘイルが攻撃した隙を突いて、ライズが攻撃に出る。
だが、その攻撃はかわされてしまう。
「氷結剣!」
「おおっと!」
エリーゼが剣技を放つと、氷の刃が地面から突き出る。
しかし、反射神経の良いヘイルは難なくかわす。
「惜しかったな! だが、そんな攻撃はオレには効かないぜ!」
「くっ!」
「エリーゼ殿、こうなったら一気に畳み掛けるぞ!」
「はっ!」
ライズとエリーゼは再び連携して攻撃を行う。
二人はヘイルの反撃を許すまいと、絶え間のない攻撃を畳み掛ける。
依然として、全ての攻撃をかわすヘイル。
だが、次第にヘイルは人数差に押され始める。
「チッ! なかなかやるな!」
ヘイルがいくら強いとは言え、ライズとエリーゼも手練れである。
この攻撃に対し、ヘイルは反撃の隙もままならなかった。
「はああああっ!!」
エリーゼは走ってヘイルに近づく。
対するヘイルも迎撃しようと剣を構える。
「シールドバッシュ!」
だが、エリーゼは剣ではなく、盾で相手を打撃した。
予想外の動きに、ヘイルの対応は遅れる。
「ぐおおおおッ!?」
ヘイルの上半身は盾で覆われてしまい、反撃ができなくなる。
「こんなものッ!!」
ヘイルは何とかエリーゼを突き飛ばすことができた。
しかし、それが目眩ましであることをヘイルは知らなかった。
この隙を突き、ライズは剣で背後からヘイルを突き刺した。
「ゲバァッ!!」
ヘイルは口から大量の血を吐き出した。
「バカな……このオレが、こんなところで……くたばっちまうなんて……すまねぇ、ゲブの旦那……」
ヘイルはその場に倒れて絶命した。
「ヘイルの兄貴がやられた! 撤退だぁ!!」
残った盗賊たちも、状況が不利になったため撤退した。
「正義は勝つ!」
「「「おおおおおおおお!!!」」」
エリーゼは剣を高く掲げて言うと、騎士たちも勝鬨の声をあげた。
ライズ率いるエルトリア王国軍は辛くもヘイル盗賊団を撃退することに成功した。
しかし、この戦いで騎士団にも大きな被害が出た。
だが、ライズたちはこんなところで立ち止まる訳にはいかない。
目指すべきは、ゲブの討伐である。
ライズたちは少しの休憩を取った後、行軍を再開した。




