月夜の砂漠で…?!
砂漠だ。
見た事のある風景の気がするのは何故だろう?
砂丘には、見事な砂模様が広がっていて景観は見事なものだった。
月明かりが、とても明るくて遠くまで見えるのはとても珍しいと思って、ふと気づく。
アレ?
どうして、そんな事思うんだろう…。
『ふふふ。
お主を此処へ招いたのは、ワシだ』
声のする方を振り返れば、背の高い老人がいた。
しかも、長い真っ白な髭が特徴的だ。
だって、半端なく長いんだ。
砂の上まで届いた髭はそのままトグロを巻いているんだから。
『ワシと出会って、この髭だけを見るとはやはりお主は変わっておるな。
その気性、この世界に飛ばされても変わらぬか。
まぁ、そこが気に入ってるのだかな。
お主をずっと見てきたが、最近は良く頑張っておるな。
そこで、珍しくお主にひとつ『褒美』をやろうと思ってコチラへ呼んだのだ』
そうか。
まぁ、あんなに髭が伸びるまで長生きしたんだ。
多少の記憶違いは仕方ない(ボケとも言うが…)
だって、会った事ないからな!
たぬきに生まれたこの方、砂漠とかだって来た事ないんだよ?!
『おや?
では、何故お主には砂漠の記憶があるのだ?』
ふふふ。
お爺さんは、知らないのだな。
世界には自分に似た人が3人は居て。
その人が体験した事を、他の人が感じるんだよ!
確か…そうだった!!
はず…。
『なるほど。
まぁ、良い。それでこそ、たぬきだな。
さて『褒美』は如何する?
やはり、これかな』
あーーー!!!!
『赤い糸』
オヤジとお嫁さん。
二人に必要なのは、ソレだーー!!!
『これは、お主の赤い糸だ。
たぬきは、伴侶を生涯一人だけと連れ添う。
大変、珍しい動物なのだ。
その一途なところがお主にぴったりだと『たぬき』を選んだのだ。
だとすれば重要なこの『赤い糸』。
ワシの持つ力を最大限生かせるモノだしな』
なんと言う良い老人なのだろう。
オヤジのハッピーライフの為にも、お嫁さんとの厚い絆を作らなきゃならないもんな!!
(あちこちにライバルがいるし、な!)
俺の言葉に薄っすら笑って、老人は赤い糸をくれた!!
糸は、ほんのり暖かくて嬉しくなって振り返ってびっくり!!
どこココ?
アレ…前にも同じセリフを。
おぉ?手のひらに何故か赤い糸を持ってるし。
コレなんだろ?
「タヌキ!!!
お前、いったい何処へ…ん?」
オヤジが汗だくになって、駆け寄って来た。
びちょびちょの額に俺は赤い糸を差し出した。
「オヤジ。いい男が台無しだゾ!
コレで汗を拭いてくれ!!」
せっかくの親切なのに、怪訝な顔のオヤジが赤い糸を取ろうとしたその瞬間!!
無くなりました!!
泡か?泡なのか?
んー。いったいアレ何?
ーオヤジ視点ー
目の前からタヌキが消え失せて長い時間が経つ。
仲間達には、近くの宿屋で待っていてくれる様に頼んだ。
夜の森は危険極まりないからだ。
まぁ、俺だとて同じだが。
この指輪がある。
それに、タヌキの近くに行けば気がつくと指輪の精に言われたのだ。
あの時…。
『アマゴイ』の時の衣装を指輪の精が用意したのを受け取った俺は思わずため息が溢れた。
そんな不服そうな顔だった俺の顔をタヌキが不思議そうな顔で見上げいて、ドキッとしたのだ。
もしかして。。。
心の底を見抜いていたのかも知れない。
こんな旅は、嫌だと思う俺の心を。
指輪の精は、正直俺には恐ろしいのだ。
あまりに強大な力を感じる。
特に魔力の強い俺は感度も人一番だから。
タヌキはいつも通りで、一途に俺の祝いをしようと、何かを捕まえに行く気だったのに…。
祝い…ソレも心の底では…。
タヌキの家族としての想いを俺は受け止めてなかったのだ。
家族に忌避されて、師匠に預けてられてよりコッチ。
家族に縁など無い生活だ。
暖かい心を寄せられた事のない俺が、初めて寄せられた家族からの暖かい祝福…なのだろう。
今なら分かる。
タヌキが見えなくなった今なら。
タヌキが俺にとって、大切な家族だと。
もし…。
愛想を尽かされたとしたら。。。
想像だけで、気持ちが焦る。
もし…。
魔獣にタヌキが…。
想像すら心が凍える。
そんな焦りに心が千々に乱れるも、タヌキの気配も掴めない。
何処へ行ったんだ…タヌキ!!
夜も更けて、少しづつ陽が登ろうと空が明るみ始めたその時!!
タヌキ!!
気配に思わず駆け出す。
必死に駆け出した俺の手足には枝や葉が当たり血が出るも気にならない。
もし。
もしコレで掴めなければ、タヌキが消え失せる。
そんな嫌な予感に突き動かされるように駆け出して目の前が突然開けた。
キョトンとするタヌキの元へ行けば。
手のひらにある、変な糸で汗を拭けと言う。
怪訝に思えど先程の反省を思い返して、手に取れば。。。
消えた…。
『縁は結ばれた』
指輪の精が相変わらず、説明不足の単語を発した。
珍しくタヌキには、指輪の精の声は届かないようで手のひらの糸の行方を探していた。
「タヌキ。糸は俺が貰ったよ。
それよりも、宿屋へ行こうか。腹が減っただろ?」
タヌキはいつも通りだった。
それがこんなにも大事な事だと、俺は朝日を浴びながら感慨深くタヌキを見れば…
「え?糸は大切だけど。オヤジのお腹が空いたなら家族としては、宿屋へ向かうか?!」
タヌキ…ヨダレが見えるゾ!!
相変わらずのタヌキに心からの笑みが洩れる。
とにかく、タヌキはウキウキと宿屋へ向かって行くのに続いた。
ん?
木の影に何か見えた気がしたが気のせいかもな。。。
もうすぐ夜明けだ。
『見届けたぞ。糸の加護を与えよう』
月の沈む寸前に、森に静かな声が響いた。
ただ…
その声を聞くものは誰も居ないが。。。