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第3話 集結

 俺は高床式の家が並ぶ通りを走り抜けた。

 俺のほかにも革製の鎧を身に着けた男たちが続々と高床式の家から降りて来た。

 革鎧のデザインは基本的にはどれも同じだったが、色合いは人によって微妙に異なり、真新しい褐色の鎧を身に着けている者もいれば、俺のように赤く汚れた鎧を身に着けている者もいた。

 身に携えている武器も人によって異なり、剣を帯びている者もいれば、槍を担いでいる者、さらには弓を背負い矢筒と短剣を腰に下げた者もいた。

 人の波は先に進むにつれて増え、目的地に着くころには数百人規模になっていた。

 目的地はむらはずれの城壁の上だった。

 城壁といっても薄っぺらな壁ではなく、人が数人、横に並んで歩けるほどの厚みのある 茶褐色のレンガを積み上げて作ったしっかりとしたものだった。

 城壁に上るために、人が数人並んで歩けるようなレンガづくりの坂道が、邑の内側から何か所も城壁の上に向かって伸びていた。

 革製の鎧を身に着けた男たちは、城壁の上に集まり、邑の外側を眺めていた。

 城壁のすぐ外側は近くの川の流れを引き込んで作られた堀になっており、人間数人分の幅に深々と水を湛えていた。水は赤茶色に淀んで見えた。

 視線を上げると、堀の向こう側には広大な耕作地が見えた。

 人の背丈よりも高く成長したトウキビが整然と生えており、黄色い実が黄緑色の葉の間からのぞいて収穫を待つばかりだった。

 そのトウキビ畑の中央で巨大な生き物が蠢いていた。

 六本脚で、棍棒のような短く太い尾を持ち、ずんぐりとした体つきの生き物だった。

 褐色でゴツゴツした硬そうな革に覆われ、頭の先からしっぽの先までは、人間の身長の五倍以上の長さがありそうだった。

 その生き物が這って歩いた後は地面が掘り起こされたようになっており、緑の畑の中央に茶色い土の道が出来上がっていた。

 その道を目で追うと、太い幹に深緑色の細長い葉を生やしたクロソテツや下草のオニシダが群生する森の中へと続いていた。

 そして、耕作地と森を分けるために丸太と板で作られた頑丈な柵は、見事なまでに破壊されていた。

「鎧竜か。でかいな」

「革鎧何人分だ?」

 俺の周囲で男たちのつぶやく声が聞こえた。

 鎧竜は腹の底に響く低い声で唸ると、ゆっくりと身体を引きずりながら短い首を左右に振り、トウキビを葉や茎ごと食い散らした。

「あーあ、もうすぐ、収穫だってえのに」

「勘弁しろよな」

 トウキビは俺たちの大切な主食だった。そのまま蒸して食べることもあったが、多くは乾燥させて粉にし、それを水でこねて『パン』を作った。

 その大切な食料を食い荒らされては、当然、黙っているわけにはいかなかった。

 俺たち戦士は竜が現れれば武器を手にして狩りをするが、普段は農民だった。

 そのため、農作物を大切に思う気持ちは非常に強かった。

「奴はトウキビの味を覚えてしまった。追い返してもまた来るだろう。狩るぞ!」

 その場にいたほとんどの男たちの心を代弁するように、よく通る男っぽい声が響いた。

 声を発したのは、城壁の上に集まった男たちの中で一人だけ駝竜にまたがった身体の大きな男だった。俺たち戦士の総指揮を執るアーロンだ。

 アーロンは尖った竜の牙で飾られた革の兜と鎧を身に着け、巨大な剣を背負っていた。

 眼光が鋭く精悍な雰囲気を漂わせていたが、女性受けするような整った顔立ちだった。

 そして、外見が優れているだけでなく、類稀な戦闘能力、冷静な判断力、強烈なリーダーシップで人望を得ており、俺も心から尊敬していた。

 アーロンの声に応えて俺たちは雄たけびを上げた。

 アーロンがいれば、どんな困難なことでも成し遂げられるような気がしていた。

「三方向から押し包んで堀の中に鎧竜を追い落とす。弓部隊、槍部隊は二手に分かれて鎧竜の左右を挟め! 左翼はメトセラ、右翼はラバンが指揮をとれ! そして剣を持つ突撃隊は俺に続け! さあ、城壁の外に出るぞ」

 アーロンは背中の剣を抜き放ち、高く掲げた。

 長身のアーロンでなければ抜くこと自体難しそうな長い剣だった。

 しかも、単に長いだけでなく、幅も広く肉厚だった。

 かなりの膂力がないと、振り回すのではなく、振り回されてしまうだろう。

 しかし、アーロンはその長大な剣を軽々と扱っていた。

 俺たちは熱に浮されたようにアーロンに倣って剣や槍を高く突き上げ、雄たけびをあげた。


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