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リュキアの小人  作者: 五十鈴 りく
4♦妄信の咎

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15/23

4-1

 薄靄の中、こだまのようにあやふやな声。

 幼く高い、それでもどんな大人よりも落ち着いた響きがミアを呼ぶ。


「ミア、よかった。君に何かあったら僕はどうしたらいいんだ?」


 二人を隔てるガラスの向こうから、クラインはもどかしげにガラスの壁をドン、と叩く。

 そんなことは初めてで、クラインの焦燥を感じた。クラインでも感情的になることはあるらしい。


「ごめんなさい、クライン。せっかく忠告してくれたのに。それに、誰も救えなかったどころか、皆を巻き添えにしてしまって……」


 これを口にしたら、ミアの中にエーディトたちの存在が強く蘇った。

 もう会えない。もういない。

 そう思うと叫び出したくなる。

 

 今まで、任務の際に命を落とした管理者たちもいたけれど、その時は悲しくなかった。注意を怠り、役目を全うすることができなかったのだから、それも仕方がないと思った。

 そして、すぐに次が補充された。だから死が特別なことだとは感じなかったのだ。


 ミア自身も死に対し、何も思わずに死んでいく。壊れたロボットと同じだろうと考えていた。

 けれど、自分ではない近しい者の死は、自分以上に特別だった。


 こんなふうに心に穴が開いてしまうのかと、ようやく知った。ようやく学んだ。


 すべてを()るクラインは、この感情をすでに知っていたのだろうか。

 だからミアに生きてほしいと願ってくれたのだとしたら。


 クラインは不意に首を横に振った。


「遅かれ早かれ彼らは死んだ。ミアのせいじゃない」

「それは――」

「いいんだ、ミア。特別なのは君だけだから。ねえ、後少しだ。後少しで君を救えるから。だから生きて」


 ドン、とガラスを叩く小さな拳。

 クラインは、少し前の自分と同じ。関わりのない死に無頓着だ。


 ミアが無事ならばいいと、それだけを願っている。


「ねえ、クライン。あなたはリーンハルトじゃないの?」

「違うよ。彼は彼。僕は僕だ」


 リーンハルトもクラインも否定した。

 ならば二人は別の人間なのだ。いい加減に認めるしかないらしい。


「クライン、あなたはあたしのきょうだい?」

「そうだよ」

「きょうだいって何?」

「僕と君は同じ父親を持つ。父親って言うのはね、僕たちを形作った男の人のこと。父さんだ」

「父さん?」


 クラインがうなずいた気配がある。


「そう、父さん。でも、父さんはもういない。だから僕がミアを守る」


 わからない。クラインの言葉はいつも難しい。

 ミアの頭の中がまったく整理できずに掻き回されたようだと、賢いクラインはすぐに気づいたのだろう。そっとささやく。


「疑わないで、ミア。君の味方は僕だけ。この先、何が起ころうとも僕だけを信じて」

「クライン……。じゃあ、リーンハルトは敵?」


 自分がそれを口にしておきながら、ミアは心臓が大きく跳ね上がるのを感じた。

 敵だとは思いたくない。それが本音だ。一度はクラインだと信じた相手だから、今更敵だと思うのは難しい。

 けれど、クラインはその名を聞きたくもないとばかりに首を振っている。それだけで言葉の先が見えた。


「敵だと思って。少なくとも味方じゃない。ミアの味方は僕だけだから。気を許しすぎないで――」


 それならば、エンリヒもアヒムでさえも敵だとクラインは言うのだろうか。それとも、彼らもエーディトたちのように憐れに散る運命だとでも。


 今、この島では何かが起こっていて、誰かの悪意が人を殺す。キメラの牙が人を引き裂く。

 クラインはミアのためにそれを止めてくれるのだろうか。


「クライン、現実のあなたはどこにいるの?」


 現実でクラインに出会えたなら、すべての事情が解決できるような気がした。

 そうであってほしいと思うだけかもしれない。他に糸口がない。


「教えて、クライン。あたしはどうしたらいい?」


 すると、クラインは悲しげに笑った気がした。こうして夢で会えるけれど、現実では会いたくないのだろうか。


「ミア、もうすぐすべて終わるから、君は何もしなくていい。危険なことに首を突っ込まないで、自分の身の安全だけを考えていて」

「すべて終わる――? 」

「そうだよ。僕が終わらせるから、待っていて」


 クラインは何をするつもりでいるのだろう。ただ信じて待てばいいと言う。


 そして、リーンハルトは少なくとも味方ではないと。

 その言葉も信じなければならないのだ。そうは思うのに、それはとても嫌なことだった。

 優しげな彼を敵とは思いたくない。


 そんな迷いを抱えながらミアは目を覚ました。

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