表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/21

十四日目~不信~

予想していた出来事は翌日には既にはっきりと形になって現れていた。

二人欠けた部室、今までもその出来事は経験したことがあったのにも関わらず

その空白は残った四人に自分の居る空間を広く寂しいものに感じさせる。



部室の机の前、部室の中心の線にあたる部分に立つ一ノ瀬と結城はそれを強く思う。



普段海部の居る窓際の座席は空席で、その向かい側にある席もまた空席だった。

その空間をじっと見つめながらいつもは隣にある人の気配が無いことに塚本の表情は暗い。

鳴滝も何かが起こったということを察し、その詳細が何かまでをわかっていないながらも表情は負の感情を表にしている。

一ノ瀬と結城にはそんな二人に事実を口にすることが憚られた、その表情をますます暗くさせることが用意に想像できたからだ。



「……ねぇ、二人に何かあったの?」

「舞ちゃんも海部さんも来てない、ね」



どんよりと立ち込めた空気を吸収しきった声で、鳴滝は二人に尋ねる。

塚本もそれに追従する形で自分の悲しみを含めた言葉を結城に向ける。



自分のしなければならない使命が結城の心に突きつけられた。

それがどれだけ二人を傷つけることになろうと、自分は目にしたことを伝えなければならないと

そうしなければ、彼女達がアチラに(たぶら)かされ、て生まれた心の隙を再び作ってしまうと彼女は考えた。



「今から話すことは私も正直整理がついてない、だからちゃんと正確には伝えられないかもしれない。

 それでも……構わない?」



気の重さから相手の方を見れないままに告げる。

二人はその態度だけで、事が自分の覚悟していたことよりも大きいことを覚悟して頷く。



「まず最初にはっきり言う。宮内が敵として出てきた」

「えっ……」



塚本は驚愕で二人をじっと見続ける。言葉が出ない。

時間が一瞬止まったかのように映る。



「狐とかじゃなかったの?」

「……俺が見たのは結城を貶めようと俺の姿でこいつに近づいた誰か、

そんで、それを見つけた俺が偽物の俺に殴りかかって、そしたら俺の姿からソイツは宮内になった……」

「涼香ちゃんの方はどうだったの?」


鳴滝はその言葉に動揺したように部室中に視線を走らせる。

塚本はとにかく事の詳細を聞こうと結城に急かしたような口調で詰め寄る。



「……私は、その言ってた偽者の悠斗くんに、操られそうになった

 普段通りの悠斗くんみたいに話しかけた後に、私の目をじっと見つめて……

 まぁ違和感に気づいて逃げようとはしたんだけどね、なんか力が抜けてその場にへたりこんじゃって

 ……そのあとコノヒトが助けてくれて……その後見たのは同じ

 悠斗くんの姿から宮内に姿が変わるのだけは確認した、話をした時間の間だけなら目も赤く光ってなかった」



結城が指を1つ1つ立てながら自身の脳内を整理しつつゆっくりと説明する。

困惑の感情のためにどこか淡々とした調子の声だ。



塚本は両手を握り締めて左右に首をふって弱弱しく、

そして徐々に調子を強く感情を露にしつつ声を吐き出す。



「ちがうよ、おかしいよ!

 最初に私が操られちゃった夢で……涼香ちゃんと一緒に舞ちゃんは戦ってたんでしょ?

 ……舞ちゃんが犯人なら……私のところに舞ちゃんが居ないとおかしいじゃんか!」

「なぁ塚本、俺が見たかもしれない影がお前かもしれないって言ったよな?」

「……公園で私が目覚めて、呼ばれた声についていくのを見てたって話だよね?」



一ノ瀬は視線を逸らさないで塚本をまっすぐに見詰める。

彼女もまた彼に視線をやるが、そこには疑心と敵意が積もっている。

ぶつけられた感情に一瞬だじろぐ、だが彼はすぐさま平静にもどって懸命に記憶を蘇らせようと

頭に指を当てながら答えた。


「あぁ……そのとき俺は学校に入って敵を倒した直後に目が覚めたはず……

 俺は直接関わってないからわからないけどよ、俺たち三人が目覚めたのと結城が目覚めたのに

 ズレがあったのかもしれない、前からそういうのはあっただろ?」

「私が目覚める前に宮内が全部済ませていたら……」



言い切れずに、結城は二人から目を逸らす。

次に口を開いたのは鳴滝だった、彼もまた塚本と同じ感情を目に込めている。



「なんで二人は海部さんを助けられなかったの?」

「止めようとした、したけど……攻撃が届く直前に追い出された」



結城が首を振ると、彼は俯いてそれ以上の言葉を求めなかった。



「私は違うって思うよ!だって皆望んでたよね?もうあんなこと起きないでって

 もうあんなことしないって……舞ちゃんだってそうだった筈だよ!

 海部さんのお見舞いに行った時も、京くんを止めたときにも、最後に一緒に戦ったときも

 ……そうだったよ!舞ちゃんは本気で人を傷つけたいなんて、思ってないよ!」



俯いたまま塚本は叫ぶ。悲痛な心の奥からの叫び。

誰もその言葉に対する答えを告げられない、乾いた秒針の音だけがカチカチと鳴り響く



一ノ瀬が窓の外に視線をやる、夕日が気温を上げて不快さを増長させているような感覚に襲われた。



「……俺と結城が見たのが宮内だろうがなかろうが、俺たちにやれることはあるだろ?」

「そうやって棚に上げるんだ?自分達が何も出来ないことも、誰かを疑ったことも」

「京くん、私だって何も出来なくてしなかったわけじゃないし疑いたくて疑ってない

 でも私はこの目で見ちゃった、どうにかしたくてもどうにもできなかった

 それにここでこんなんなっても変わらないのも事実でしょ?」



結城はどこか皮肉のように、それでもまだ座ったままなるべく冷静を作って彼に言う。



「そうだよ、変わらない、二人が何もできなかったことも」

「だから、それを今どうこう言っても仕方ないって言ってるじゃんか!」

「お、落ち着けよ、な?」



互いに掴みかかりそうな雰囲気の間に一ノ瀬が入る。

鳴滝は不服そうではあったがひとまずそれ以上の言葉を出さずに引き下がる。



「京くんの気持ちはわかる、同じ場所に居たくせに何もわからなかったオレ達は確かにどうかと思う

 でもオレらだって悔しいんだ、目の前に居たのに一発顔でも殴れたらって、

 せめて海部さんと接触できればって……わかってくれよ」

「……ごめん」



俯いたまま鳴滝は自分の手を見つめてながら、負の感情の混じったため息を吐いた。

それは自分たちへの非難を飲み込んだようにも、二人には見えた。



「塚本も、俺たちだってそう思いたい、目の前で見ちまったからお前よりどうしても実感が強いんだ

 本当は、宮内じゃない別の誰かなんじゃないかって思う部分もある」

「……うん、私も……まだ、信じてたいよ」



俯いたまま、震えかけた声でウンウンと塚本は頷いて、短くそう告げる。



「……その、えっと、ごめん」



鳴滝は表情を見せずに、言葉をうまく文章として伝えられないまま立ち上がると、おぼつかない足取りで歩き出す。

一ノ瀬が声をかけようと一歩歩み寄るが、それを手で制して部室から出て行く。



それから数秒ともたたないうちに、扉のノックの音と、それが開かれる音。

鳴滝は呼吸を整えただけだったのだろうか?と全員が振り返ると、そこには結城と塚本のクラスメイトが立っており手招きをしている。

二人が同時に立ち上がる、塚本は頭を軽くふってから結城の後ろに続くように

扉の前、結城の隣に近づくと相手は小声で二人に話す。



「あ、結城さん、しばらく塚本借りていい?」

「私は全然」



塚本に視線をやる、謝罪の言葉を口にしそうな彼女の意図をさっして結城は軽くポンと肩をたたくと、

塚本も「ごめん」とだけ告げて部室から姿を消す、扉越しにくぐもった彼女の声は普段の声音と変わらないように聞こえる。



「……どうした?」

「塚本が友達に呼び出されただけ」



それだけ聞くと二人が話をしているうちにパイプ椅子に座っていた一ノ瀬は

その出来事に興味を失ったのか返事をしないまま部室を眺める。

先ほどまでの気まずい空気が残ったこの場所に息苦しさを感じながらも結城はそれを紛らわす言葉が思い浮かばない。

とりあえず一ノ瀬の隣のパイプ椅子に腰掛けるものの話しかけることはしなかった。



「なぁ」

「……何?」



静かな、真剣味を帯びた声で一ノ瀬は短く結城に話しかける。

彼のそのトーンの声が珍しくて結城はじっと相手をみつめて次の言葉を待つ。



「ここの机の木目オッサンに見える」

「へ?」

「ほら、見てみろって」



言われるままに相手の指差した方向を覗き込む。



「え、あ、うん、人の顔には見えなくも無いけどさ……あの」

「……なんだよ?」

「いや、てっきり、なんか考えてるのかなって」



肩透かしを食らったような結城の表情に、一ノ瀬は左右に首を振りながらため息を吐く。

馬鹿にされているようなその態度に結城は思わず大きな声を上げる。



「な、何それ!」

「いや、お前自分で言ってただろ?今はどうこう言ったってどうしようもないって

 そういうことだ、今日だか明日だかわっかんねぇけど、海部さんが夢の世界に引きずり込むんだから、それ待ってればいいだろ」

「……まぁ、そうなんだけどさ、私もまだハッキリとは整理がついてないから

 それなりに、ショックではあるし……あんなでも友達だから」



自身のほんの少し上空を見つめる。

数日前まで、この目の前の空間に戻ってきていた楽しかった、居心地の良かったあの日常は、再び崩れ始めている。

その事実が、彼女を弱らせているのは事実だった。



「気持ちはわからなくはないけどな、オレも困惑してない訳じゃない、二人なんかもっとだろうけどな」

「うん……今のうちに気持ちの整理……海部さんを助けることだけに専念できたらいいんだけど

 多分難しいだろうし、せめて次に夢に行くまでに、なんとかなったらいいんだけど」

「俺たちの今の言葉じゃ難しいだろうしな」



一ノ瀬は頷くだけで、他の言葉を告げない。

結城も自身の思いを告げた開放感で、息を吐いて、先ほどまでの張り詰めた感覚を薄めている。



「それに、海部さんのことだからな、宮内のことは贔屓目に話すかもしれないな」

「あるかもねー、ぜったい私より織枝と宮内のこと好きだもん、あの人」

「あーあー、しょっくだわー俺……」



大げさに落ち込んでみせる相手に、結城は笑いながら返す。

普段通りの会話、そこに残りの四人がまた戻ってこれる確証はまだ二人には無かった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ