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「トオル、元に戻ったんだな……って、どうした? かなりやつれた顔をしているが」
ギルドに入って来た私(元の姿に戻った)を見たロズウェルドは、眉間に皺を寄せながらそう言って近づいて来た。
そんな彼に、私はそうかな? と渇いた笑いを溢す。
数時間前――。
ヴィンスに転移魔法で家の前まで送ってもらい、腕輪を貰って別れたまでは良かったのだが……その後が悲惨だった。
かなり怒っている(でも無表情なのが怖い)デュレインさんの膝の上に乗せられて、「知らない人に付いて行ってはいけません――と、習わなかったんですか?」と説教されていたのだ。
それはもうこんこんと……。
まぁ、それは私が悪かったので、「はい、すいません。もう絶対しません」と殊勝に謝って、なんとか許してもらった。
だが、デュレインさんの怒りはそれだけでは収まらなかったらしい。
彼女がボソッと「子供には躾が必要ですよね」とか何とか言ったと思ったら、未だかつて見た事も無いような光り輝く笑顔を見せてくれた。
私には、その笑顔は背筋を凍らせるほど恐ろしいものに見えた。
そして、彼女はこう言ったのだ。
「これから一ヶ月間、トオル様だけ食後のデザート禁止です」
デザート……禁止?
「やだぁーっ!」
ブンブン頭を振って断固拒否!
この世界に来て、酒飲みだけど甘い物が大好きな私の、唯一の楽しみなんですよ!?
それを、一ヶ月間も食べれないとな!?
「それだけはご勘弁を!」
「駄目です」
ぐぅぅっと呻っていると、
「どうしても食べたいですか?」
「食べたい」
「そうですか……では、一つだけ条件があります」
「条件……それは?」
「それはですね――」
ギルドで働いている間は、性別を聞かれたら『男』と必ず言って下さい。
その言葉に私は首を傾げる。
「どうしてですか?」
「ギルドは性別関係なく働ける場所でもありますが、それでも女性の数は少ないんです。そんな場所に『女』として入るより『男』として入った方が色々と都合がいいんですよ、要らぬちょっかいも出されないですしね」
「……そうかな?」
「そうなんです。ですから、トオル様だけでなくレイ様も自分の事は『私』ではなく『僕』か『俺』と言うようにして下さい」
「『俺』……ですか」
微妙な表情をしていると、デザート、とボソリと呟かれたので私は速攻で「これからは『俺』と言わせて頂きます」と答えたのであった。
それから、物音で目が覚めた零が下に降りて来るまで、デュレインさんの膝の上で「夜中に外は出てはいけません」という至極もっともな説教をされていたのであった。
ロズウェルドは私の顔を見ながら首を傾げる。
「まぁ、大した事が無いならいいんだが……げほ、げほごほげほっ、ごほ……っ、ふぅー」
一通り咳をし終わったロズウェルドに、私はありがと言って頭を下げた。
「ん?」
「昨日酔いつぶれた俺を、ロズウェルドが家まで運んでくれたんだろ?」
早速『俺』と言う言葉を使っておりますよ!
「あぁ、大した事でもないさ」
「そう言えば、その時リュシー……えぇーっと、青銀色の髪を持った女性に、俺がここで働く許可を取ってくれたって聞いたから」
「……まぁ、かなり渋ってはいたが」
「実は、馬鹿正直にここを受けたいって言っても、リュシーさん達に絶対反対されるって分かってたから、内緒で受けに来たんだよね」
「…………おぃ」
事後承諾する気満々でここに来たと言ったら、溜息を吐かれた。
「いいか、仕事をする時はなるべく俺から離れるなよ? それが、トオルがここで働く事を許す唯一の条件だと言われた」
「うん。それは聞いてる」
家を出る前、デュレインさんから言われていた。
『いいですか? トオル様はロズウェルドから、レイさんはミシェルから絶対に離れて行動してはいけません。それが、ギルドで働く事を許す条件です』
ロズウェルドはなぜか憂鬱そうな表情をする。
「もし、トオルに何かあったらただじゃおかないって言ってたが……あいつなら、本当に殺すつもりで攻撃して来るな」
ロズウェルドはそう言いながら、体をブルリと震わせる。
「はぁ……そろそろチッティの所にでも行くか」
そう言うと、床に転移魔法陣が浮かび上がる。
後でロズウェルドにやり方を教えてもらおうと思いながら光に包まれて転移した先は、チィッティちゃんの執務室であった。
執務室には、部屋の主であるチィッティちゃんとその隣にモヒカン頭のダンカン。
彼らと対極に位置するようにして立っている、零とミシェルに――そして、あの青毛の獣人がいた。
「ん? 君は誰ですかぁ~?」
ロズウェルドの後ろを歩きながら、皆がいる方へ歩いて行ったらチィッティちゃんにそんな事を言われた。
自分が昨日ロズウェルドのパートナーになった“あの”トオルですと言ったら、少し驚かれてしまった。
「では、これからお仕事のお話をします。ロズウェルドさんとそのパートナーであるトール君、ミシェルさんとそのパートナーであるレイ君、そしてトーニャさんの五人に、宝石商『アーガルディアーノ』の、護衛の任務に就く事を命じます。――ダンカン」
「うぃっす!」
チィッティちゃんの隣にいるダンカンが、私達一人一人に紫色の小さな石が付いた指輪を渡していく。
「なに、この指輪は」
「それは、今回護衛の依頼をしたアーガルディアーノの頭取が、護衛をして下さる皆さんへの前払い金みたいなものだと仰っていました」
「こんなちっちゃな石が付いただけの指輪が……前払い金?」
人差し指と親指で指輪を摘まみながら、眉間に皺を寄せてそう言うミシェルに、チィッティちゃんがボソリと呟く。
「ミシェルさん、その指輪……六百ティティールするらしいですよ」
その言葉に、ミシェルはぎょっと目を見開いた。
「ろ、六百ティティール!?」
その言葉に、私達もまじまじと小さな指輪を見詰める。
六百ティティール――日本円で言うと……約六十万、くらいだろうか。
まっさかぁ~!? と疑いの眼差しを皆でチィッティちゃんに向けると。
「『アーガルディアーノ』と言えば、ウェーゼン国で一、二を争う宝石商の名で有名です。でも、有名故に、盗賊やらなにやらに襲われる事がすごぉ~く多いらしくて……それで、盗賊に襲われ、宝石を全て奪われて損をするよりも、護衛にきっちり護ってもらって宝石を目的地にまで運ぶ方が断然お得、と考えたらしく、きっちり護って貰う為に前金として質のいい物を護衛に付く人達に渡すようにしているらしいですよぉ?」
嘘だと思うなら、それ、私に下さぃ。と手を差し出すチィッティちゃんにサッと手を引く私達。
「……現金ですね、皆さん」
溜息を一つ吐いてから、私達に今からその指輪を付けるようにと言った。
「それは、皆さんに対しての『前金』でもありますが、それを付けている人物が“ギルド”の『護衛』であるという印にもなるらしいんですぅ」
「ギルドの――って事は、他の所へも護衛の依頼をしたって言う事なのか?」
腕を組んで、今まで黙って話を聞いてたロズウェルドが首を傾げる。
「いいえ、仕事として依頼を頼んだのは我がギルドだけですね。今回は、『アーガルディアーノ』の保有する宝石の中でも最高ランクの宝石ばかりを運ぶらしく、自身で雇っている者達だけでは不安――との事らしいですよぉ?」
「成程な」
「と、言う訳なんで、皆さん。この依頼が終わるまで指輪は外さないで下さいね」
では、お仕事頑張って来て下さぃ~。と手を振ってギルドから送り出してくれたチィッティちゃんに手を振りつつ、私達はギルドから少し離れた場所にいる『アーガルディアーノ』と言う宝石商の人達が待つ所にまで、歩いて行った。
次は8日の22時過ぎ。




