閑話
太陽の光さえ届かない、深く暗い洞窟の中。
洞窟の最奥には、二匹の漆黒の毛を持つ狼が体を重ねるようにして寝ていた。
体を丸めるようにして眠る狼を、自分の体に包むようにして横たわる狼は、かなり大きな体躯をしていた。
ぐったりとしている狼の顔を、労わる様にペロペロと舐めていた狼が、ふと、洞窟の入り口の方へと顔を向ける。
目を細め、外へと繋がる入口の方をジッと見詰める。
――どうし……たの?
視線を洞窟の入り口から胸元へと向けると、己の『半身』が不思議そうな顔でこちらを見上げていた。
『半身』は話すのも億劫なのか、直接こちらの頭に思念を送って話しかけて来る。
――な、にか、聞こえた、んでしょう?
「いや、何でも無い」
ほんの一瞬、懐かしき人の気配がしたような気がした。
何度も何度も会いたいと思い続けた、恋焦がれし人。
己に名を与え、『半身』でさえ知らない“真名”を教えた――我が主。
会いたいが為に、己が生み出した幻聴だろうと思った。
溜息を吐き、『半身』の体が冷えないようにと体を丸めて包み込もうとしたその時――“それ”は聞こえた。
『怖い。もう、いやだ……』
今度は鮮明に聞こえた声に、幻聴ではないと確信する。
瞬時に立ち上がると、『半身』が呼び止めるのも聞かずに目にも止まらぬ速さで駆け抜け、洞窟の外へと飛び出した。
外へ出てから意識を集中するように目を閉じ、声が聞こえたのはどこからかと探す。
……あそこだっ!
直ぐに己が敬愛する主を見つける事が出来た。
しかし、主を見つけられた喜びは直ぐに壊された。
何故なら、主の肩にはナイフが深々と刺さっていたのだから。
ぐる゛るぅ゛ぅ゛ぅっ、と唸り声を発し、主を傷つけた相手を探そうとしたその時、頭の中に直接叫び声が聞こえた。
『助けてっ!!』
狼はその呼び掛けに答えるよう、無意識に己の魔力を放った。
主を傷つける者から守るよう、真綿に包み込むようにゆっくりと優しく。
全てを己が魔力で包み込み、一時的に主を保護したはいいが……むむぅ、と悩む。
己が主と出会うには……時期が早すぎるのだ。
主自身が、己を見つけ出してくれなければならない。
さて、どうしたものやら……と悩んでいると。
『ここにずっと一人でいるのは、嫌だなぁ』
己の魔力に包まれつつ、なぜか寛ぎながらブツブツ呟いていた主がそんな事を呑気に言ったので。
それじゃあと、主をとある人物の前に運んでみる。
その時、主の顔を見れた嬉しさで魔力の操作を誤り、少し高い位置から落としてしまったが……。
「あの女の元なら、主も大丈夫だろう」
そう呟いてから、洞窟の奥で待つ『半身』の元へと踵を返す。
洞窟の外へ走り出した時とは違い、ゆっくりテクテクと歩いて戻って来ると、『半身』が思念で語りかけて来る。
――ねぇ、もしかして。
「あぁ、主だった」
――ホント!?
『半身』が思念でキャーっと喜び叫び、尻尾がぱたぱたと忙しなく上下に動く。
――それじゃあ、私の主様も来てるわね!
頭の中で叫ばれ、キーンと痛む頭をブルブルと振りつつ、「そうだな」と答える。
今まで思念で喋るのも億劫そうだった『半身』のこの変わりように、苦笑した。
そして、また『半身』を包み込むようにして体を横たえる。
主……俺は、早く貴女に逢いたい。
次は6日の23時頃。




